第30話「紅の塔と終末回廊」
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作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
雲を貫くようにして、ラグナ・リリスは暗き虚空へと進路を取っていた。
艦の周囲には、未確認の魔導粒子が濃く漂い、空間そのものが脈打つように歪んでいる。
「目視範囲にて、目標構造体を確認――《クリムゾン・スパイア》。構造全長、一万一千八百十二メートル」
エーリカの冷静な報告が艦内に響く。
スクリーンに映し出されたのは、天を裂くようにそびえる黒き塔。
そこには、かつて地球の終末を引き起こした存在が“保管”されていたはずの場所――
そして現在、この異世界に転移してなお機能し続けている《終末回廊》。
「どうやら、ただの遺構じゃなさそうだな」
悠真が呟く。
「……あの塔が動いてる。呼んでるように、いや、誘ってるみたい」
エリンが艦の窓から塔を見上げながら、肩をすくめる。
「気を抜けば、精神ごと引き込まれる。あれは“知性を飲む塔”よ」
セラの声が低くなる。
「私のいた研究組織も、塔と接触した後……分裂した。半数は戻ってこなかった」
「じゃあ、止めるしかないな」
悠真の言葉とともに、艦は塔の浮遊基部へと着艦モードに入る。
ラグナ・リリスの側面が展開し、エーリカの操作によって小型魔導艇が射出される。
その艇には悠真、セラ、エリン、シア、そして新たに加わったレーフィが乗り込んだ。
「本当に行くの? 戻れないかもしれないのに」
エリンが不安げに尋ねる。
「行くよ。止まってたら、俺たちの旅は“選ばれた”意味を失う」
悠真が微笑み、視線を前へ向ける。
小型艇が、塔の浮遊門に接近すると、内部から自動的にゲートが開いた。
無機質な金属音と共に、彼らは塔の内部――《終末回廊》へと踏み入れる。
内部は、まるで生きているように脈動し、無数の魔導回路が宙に浮かぶ構造体を走っていた。
「これは……ただの施設じゃない。思考……いや、“意思”がある」
セラが顔を強張らせる。
その瞬間、空間が捻じれた。
目の前に現れたのは、ゼクス。
黒衣をまとい、無表情のまま悠真たちを見下ろすように立つ。
「ようこそ、“記録の終わり”へ」
「ゼクス……!」
セラが前へ出る。
「あなた、どうして……」
「セラ。君も、かつては記録を守る“観測者”の一員だった。しかし君は選んだ。因果を拒み、他者の運命に介入することを」
「私は……世界を変えたかった。繰り返される終末を、終わらせたかっただけ!」
「ならば問う」
ゼクスが手を掲げると、空間に無数の記録が浮かぶ。
そこには、地球の最終戦争、異世界の崩壊、過去のセラ自身の行動までもが克明に描かれていた。
「これでもまだ“救い”を選べるのか?」
「選べるさ」
悠真が一歩前に出る。
「記録が何を示そうと、“今”を選べるのは、俺たち自身だ。未来は決まってない」
ゼクスの瞳が僅かに揺れた。
「……ならば証明しろ。因果を断ち切り、終末回廊の最奥に至ったとき、選択の権利を与えよう」
そして、ゼクスの姿が霧散する。
「待て――!」
セラが叫ぶが、その声は虚空に吸い込まれた。
代わりに塔の壁面が開き、五つの通路が浮かび上がる。
それぞれが異なる魔導領域に繋がっており、扉の上にはこう刻まれていた。
『記録』『意思』『犠牲』『忘却』『真実』
「どうやら、一人ずつ試されるってことね……」
シアが剣を構えた。
悠真は皆を見渡すと、静かに頷く。
「行こう。それぞれの通路の先に、“終末を越える鍵”があるはずだ」
そして五人は、五つの運命へと分かれて歩み出す――
その先で待つのは、過去か、未来か、それとも――
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