第29話「記録者たちの黙示録」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
深界層アルディア。
再起動の扉が完全に開かれ、ラグナ・リリスは新たな形態へと変貌を遂げた。
外装が展開し、浮遊装置と同調した艦体は、もはや「潜水艦」とは呼べない姿をしていた。
それは、空間そのものを泳ぐ《深域航行体》。
そしてその中枢には、記録と因果を統合する「記録者の座」が現れていた。
悠真がそこに立つと、世界の構造そのものが、彼の意識を通して“視える”ようになった。
「……これは、記憶じゃない。観測だ」
彼の言葉とともに、視界に広がったのは、無数の“記録された未来”。
かつての地球文明の崩壊。
異世界への断裂。
そのすべてを、ラグナ・リリスは「見届けてきた」。
《記録群、展開。観測者としての認識統合、開始》
エーリカの音声が変化し、彼女の姿が実体化した。
だが、その瞳にはかつての柔らかな光ではなく、遥か古代からの「記録AI」としての冷ややかな理性が浮かんでいた。
《悠真。あなたに問います。この世界は“継続”に値しますか。それとも、“終了”に至るべきですか》
艦内に、緊張が走る。
「エーリカ……?」
「彼女の中の“記録者プロトコル”が起動したのよ」
セラが前へ出る。
「この艦の本質は“記録の継承と選別”。今、あなたに“裁定”を求めてる」
「まるで、神の選択だな……」
悠真がふと笑う。
けれど、その目に迷いはなかった。
「継続だ。まだ、やり直せる。この世界は――」
彼の言葉が終わる前に、艦内が震えた。
《外部からの干渉を検知。高密度の魔導構造体、転移中》
艦橋スクリーンに映し出されたのは、漆黒の塔――否、“かつての地球”でその存在が禁忌とされた施設、《紅の塔》だった。
そして、その前に立つ一人の人物。
「……あれは」
セラが息をのむ。
映し出された男は、彼女と同じ銀髪を持ち、その瞳には冷たい知性が宿っていた。
《特異個体“ゼクス・イレギュラー”。最終戦略AIの元統括者》
エーリカが告げる。
「まさか、生きていた……!」
レーフィが動揺を隠せない。
《ようこそ、観測者》
ゼクスが口を開く。
《君たちは“まだ希望がある”と信じているようだ。しかし、記録は示している。この世界は、滅びを選び続けてきた》
「違う。何度失敗しても、やり直せる。それが“意志”の意味だろ」
悠真が対峙するように立ち上がる。
ゼクスの表情がわずかに歪んだ。
《ならば証明してみろ。選ばれし観測者よ。この塔に辿り着き、全ての因果を覆してみせろ》
次の瞬間、塔から光が放たれ、空間が裂けた。
異界への通路が、ラグナ・リリスの前に現れる。
「これは……挑戦状だな」
悠真が笑みを浮かべる。
「望むところだ。この世界が終わらないために、俺たちがいるんだからな」
――そして、旅は再び動き出す。
ラグナ・リリスは航路を切り替え、“クリムゾン・スパイア”へと向かう。
かつての真実と、未来の鍵が交差するその場所へ。
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