第27話「紅の目と廃都の囁き」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
空間が歪む――
中枢の天井に浮かぶ魔導紋が赤黒く変色し、空間の一角から深淵のような裂け目が開いた。
そこから現れたのは、無数の“目”を持つ影。
そのすべてが、異様なまでの執着で悠真たちを凝視していた。
《深層侵入体確認。旧観測名、“アエラ=ノス”種族、断片個体》
エーリカの警告が艦内に響く。
「名前付き……!? あれ、ただの魔物じゃないのか!?」
エリンが即座に魔導砲の照準を合わせる。
「違う。あれは“旧世界の意志”の残滓……かつて、裂け目の向こうから来た知性の残留構造体よ」
セラの声が低く響く。「つまり、“記録されること”を拒んだ者たち」
「その目……俺を、見てる……!」
悠真の胸が締めつけられるように疼いた。
それは痛みではなく、かすかな“記憶”のようだった。
自分がこの場所に来る前に――いや、“どこかで”見たような感覚。
《アクセス遮断。ラグナ・リリスの認識干渉フィールドに侵食発生中》
エーリカの警告が緊迫する。
「これ以上、記録領域が壊される前に止めないと!」
レーフィが浮かび上がり、紅の瞳を見開く。
「私が“声”を通す。あなたたちは干渉波を断て! 急いで!」
彼女が結界を張ると、アエラ=ノスの影が咆哮を上げ、複数の触手状の波動が四方へ伸びていく。
悠真は剣を握りしめ、その中に確かに脈打つ“何か”を感じた。
「この剣……!」
それは、彼が“霧の記憶”の中で受け取った、“未来を切り開く刃”。
レーフィ曰く、意思に呼応する魔導具《フェル=ルーメ》。
「悠真、その剣で“目”を裂け! 視線そのものが、奴らの感覚中枢だ!」
セラが解析情報を叫ぶ。
エリンとシアもまた、横から援護砲撃を浴びせる。
「いけええええっ!」
悠真の斬撃が一直線に“目”へと走る。
その刹那、影のうねりが断たれ、空間が一瞬だけ静寂に包まれた。
だが――
「まだ……終わってない……!」
影の奥から、今度は“言葉”が発された。
《記録するな。継承するな。お前たちの記憶は、すでに偽りだ》
悠真の視界が歪む。
誰かの声。誰かの泣き声。
そして、暗く沈む都市の残骸。
「これは……どこ……?」
そこは、崩壊した海底の都市――それは、まさにラグナ・リリスの原型となった「旧世界の観測都」だった。
◆
場面は幻視の中。悠真の意識だけが“そこ”にいた。
崩壊した廃都のなか、ただ一人佇む少女――
それは、レーフィに酷似した存在だった。
しかし、その目は冷たく、そして哀しみに満ちていた。
「……記録者が、再び選びを誤るなら。私たちはまた、滅びを繰り返す」
「君は……誰なんだ」
「私はレーフィの“記録されなかったもう一つの人格”。私たちは分裂して、二つに分かれた。“記す者”と“忘れる者”」
幻の少女が悠真に手を伸ばす。
「君が鍵なら……問う。“すべてを知ってなお、記録する道を選ぶのか”?」
――その問いかけと共に、幻は霧散した。
◆
現実へと戻った悠真は、深く息を吐いた。
「……ああ。選ぶよ。たとえ過去に何があったとしても、俺たちは未来を記していく」
レーフィの瞳が、かすかに揺れた。
「それが……あなたの答えね」
影の残滓はその言葉を最後に崩れ去り、空間は静けさを取り戻した。
ラグナ・リリスの中枢に、再び明瞭な光が灯る。
《中枢記録解凍完了。次段階への遷移準備整いました》
「エーリカ……」
《はい。これより、最終観測区画“深界層”への進行が可能です》
物語は、すべての真実に向かって、深く、そして鋭く進み始める――。
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