第25話「影と刃」
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作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
世界が静止したように感じられた。
“彼”――もう一人の結城悠真と対峙したその瞬間、周囲の霧が沈黙し、空間は緊張に満ちた張りつめた弦のようになった。
「……名前を訊いても、意味はないか」
悠真が静かに口を開く。
だが、目の前の男は鼻で笑った。
「名前など、とうに捨てた。俺は“可能性の果て”、無価値の残骸だ」
その声には、狂気と絶望、そしてかすかな羨望が入り混じっていた。
「選ばれたお前が“真実”になるなら、選ばれなかった俺は“虚構”だ。だがな、虚構は時に真実を壊す力を持つ」
闇の霧が彼の体を這い、魔力を増幅させていく。
まるで空間そのものが彼に味方しているかのようだった。
「来いよ。お前が“俺”なら、俺も“お前”を越えてみせる」
言葉と同時に、二人の悠真が動いた。
刹那――剣と剣が激突し、霧の世界に火花が散る。
◆
「二人の悠真……」
セラがラグナ・リリスのモニター越しに歯を食いしばる。
《同位存在間の交差は、高次元干渉を引き起こします。霧の核の安定性が急激に崩壊しています》
エーリカの声にも焦りが滲んでいた。
「エリン、転送砲を準備して。シアは、もしもの時に備えて展開可能な援護態勢を」
セラが指示を飛ばす。
「でも……悠真は、あの“自分自身”と戦ってるんだよ……!」
エリンの声が震える。
「それでも……戦い抜いて、選び続けるしかないのよ」
セラの瞳に浮かんだのは、かつての自分――そして、選び損ねた“誰か”の面影。
◆
「どうした。その程度か、“選ばれし俺”!」
もう一人の悠真が怒号を放つ。
彼の剣は黒く染まり、振るうたびに空間に裂け目を生じさせる。
だが悠真は、確かにその攻撃を受け止めていた。
「……違う。お前は、ただ……怒ってるだけじゃない。自分が選ばれなかったことに、納得できないだけだろ」
「黙れぇッッ!!」
怒りの奔流が暴風のように押し寄せる。
悠真は吹き飛ばされ、空間の果てに叩きつけられた。
だが、彼は立ち上がる。
「選ばれたかどうかじゃない。“選ぶ”のは、これからなんだよ!」
彼の剣が再び輝く。
霧の核がその意志に共鳴し、空間がわずかに光を帯び始めた。
「俺は、誰かに必要とされてる。仲間がいて、支えてくれる人がいる。お前が否定しようとしてる“今”を、俺は信じてる!」
言葉と共に、渾身の一撃が放たれた。
その一閃は、もう一人の悠真の胸を裂き、黒い霧を引き裂く。
「……なぜだ……俺だって、同じだったはずなのに……」
もう一人の悠真が、膝をつく。
霧がその体から剥がれ落ち、意識が薄れていく中、彼はようやく微笑んだ。
「……ありがとう。“選ばれた俺”よ……お前が、俺の……希望だ」
その瞬間、空間が大きく揺れた。
《霧の核、崩壊プロセス開始。30秒後に完全崩壊》
エーリカの警告が飛ぶ。
「エーリカ、転送座標をこの位置に固定。悠真を回収して!」
セラが叫ぶ。
《了解。座標固定、ゲート展開──回収プロトコル、実行》
霧が砕け、白い光が差し込む。
そして――悠真の体は、その光に包まれて姿を消した。
◆
気がつくと、彼はラグナ・リリスの医療室にいた。
「……戻って、これた……のか?」
「悠真!」
駆け寄ったのは、エリンとシア、そしてセラだった。
「バカ……心配させないでよ……!」
エリンが涙ぐみながら拳で軽く胸を叩く。
「……おかえり、悠真」
セラの声が、柔らかく響いた。
そして、艦内には、静かな安堵の空気が流れる。
だが――
エーリカの声が、その沈黙を破った。
《霧の核から、未知の信号を検知。微弱ながら……“レーフィ”と名乗る存在の座標を取得》
全員の目が見開かれる。
「……レーフィ?」
霧の奥から、また新たな“選ばれし存在”の鼓動が――確かに響いていた。
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