第22話「仮面の使徒と消えた記憶」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
漆黒の空を背景に、仮面の人物が宙に立っていた。
その姿は人のようでありながら、人ではない。
黒衣の裾は風もない空間で揺らぎ、顔を覆う仮面には、涙のような銀の筋が彫られている。
「……これ以上、進むな。“選ばれし者”よ」
その声は低く、けれど耳を打つように鋭かった。
悠真が一歩前に出る。
「お前は誰だ。なぜ俺たちを止める?」
仮面の人物はしばし沈黙したのち、仮面の奥から微かにため息を漏らした。
「名乗る必要はない。だが、かつて私は……君と同じ“側”にいた者だ」
「それは……どういう意味だ?」
代わってセラが問いかけるが、答えは返ってこなかった。
代わりに、空間が軋むようにして揺れる。
その瞬間、仮面の男が地を蹴る――否、空間そのものを跳躍するように、悠真の目の前に現れた。
「避けろッ!」
エリンの叫びとともに、魔導盾が展開される。
だが、男の一撃は、重力すらねじ曲げるような威力を持っていた。
《直撃回避。艦外補助ユニット、出撃モードへ移行》
エーリカの指示とともに、ラグナ・リリスから自律型戦闘ユニットが放たれる。
その刹那、仮面の男の周囲に黒い光の輪が出現。
魔導ユニットが近づいた瞬間、音もなく破壊された。
「魔導干渉領域!? まさかこいつ、艦級の魔力を……!」
シアが歯噛みする。
「あなたが、私たちの敵なら――容赦はしない!」
セラの紋章が発光する。
彼女の周囲に青白い結界が浮かび、その中から《封印光刃》が現れる。
仮面の男は、初めて口元に笑みのようなものを浮かべた。
「その力……懐かしいな。まるで、あの頃を思い出す」
「“あの頃”?」
悠真が剣を抜きながら問いかけるが、またしても返答はない。
戦闘が激しさを増す中――突如、空間に亀裂が走った。
《異常検知! 本艦の次元座標が強制移動中!》
「なに!?」
ラグナ・リリスの艦体が軋み、霧の裂け目がふたたび開く。
そこに、仮面の男が手を伸ばした。
手のひらには――見覚えのある紋章。
悠真のものと、酷似した“鍵”の印が刻まれていた。
「お前……もしかして――!」
その瞬間、悠真の頭に、鋭い痛みが走る。
走馬灯のように過る記憶。
どこかで見たことのある研究所。
閉ざされた実験室。透明なカプセルの中で眠る子供たち――その中に、“自分”がいた。
「っ……!」
悠真が膝をつく。
「悠真!?」
セラが駆け寄ろうとするも、仮面の男がその前に立ちはだかる。
「……記憶が戻り始めているな。君が目覚めれば、“因果の鍵”は完成する。だが、それは――世界にとっての終焉を意味する」
「どういう……ことだ……」
悠真の意識が、薄れていく。
そのとき、仮面の男が静かに手を伸ばす。
「眠れ。“真実”は、まだ早い」
次の瞬間、悠真の視界が暗転した。
◆
目覚めたとき、悠真は見知らぬ部屋にいた。
白い天井、静かな音楽。
そして側にいたのは――ルミエ。
「ここは、塔の最深部。“記憶保管室”よ」
「ルミエ……セラたちは?」
「全員無事よ。仮面の男が去ったあと、あなたをここへ運んできたの。……彼はあなたを殺す気はなかった」
悠真は、額に手を当てる。
「見たんだ……俺が、研究所にいた記憶。まるで、何かの実験体みたいに……」
ルミエは小さく頷く。
「そう。あなたは“鍵”として生まれた存在。“選ばれし者”として作られた、複数の並行世界の因果を繋ぐ媒体」
「俺が……人間じゃないってことか?」
「“人であり、器でもある”。それがあなたの本質。でも――あなたの選択が、あなたの存在を決める」
悠真は、唇を噛んだ。
「……なら、選ぶよ。たとえ何に作られていたとしても。俺は、この仲間たちと……最後まで戦う」
ルミエの目が、ほんの少し和らぐ。
「では次に進む準備を。次の“扉”は、ここではない。“霧の向こう”――新たな世界、“白の浮遊都市”に繋がっている」
◆
一方、霧の裂け目の奥――
仮面の男は誰もいない宙を見つめていた。
「……あと一歩、間に合わなかったか」
その背後に、もう一人の人物が現れる。
その影もまた、仮面をつけていた。
だが、その仮面には“涙”ではなく“傷”の刻印がある。
「君も、迷っているのかい。アーク」
「……違う。ただ、彼の選択が、かつての“俺たち”と同じにならないことを祈っているだけだ」
そして二人の仮面の使徒は、再び霧の中へと姿を消していった。
物語は、さらに深く、複雑に――そして“真実”の核心へと近づいていく。
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