第20話「境界の向こう、揺らぐ真実」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
歪んだ空間を抜けた先、ラグナ・リリスは音もなく“向こう側”の世界へと到達した。
天空は裂け、紫がかった稲妻が大地に走る。
浮遊する島々が重力を無視して空に漂い、地平には、廃墟と化した文明の痕跡が広がっていた。
金属とも石ともつかぬ塔、逆巻く川、そして空を泳ぐように移動する影。
そこは、“現実”とは別の理に従って成り立つ世界だった。
《新たな空間座標を確認。名称不明。……大気組成、生存可能。魔素濃度、極端に高い数値を記録》
エーリカの分析が静かに艦内に響く。
「見たところ、完全に“異界”だな……」
悠真は目を細めながら艦橋の窓越しに景色を見渡す。
セラは無言のまま立ち尽くしていた。
彼女の紋章は、まだ淡く光を放ち続けている。
「セラ、大丈夫か?」
「……うん。ただ、ここ、知ってる気がする。――夢で何度も見たの。浮かぶ大地と、あの塔……あそこに、答えがある」
彼女の指差す先には、ひときわ大きな浮遊島。
その中央には朽ちた巨塔が立っていた。
「じゃあ、そこへ行こう」
悠真が頷くと、エリンとシアも黙って装備を整えはじめた。
「エーリカ、あの塔まで航行できるか?」
《可能です。ただし、周囲に強力な重力乱流と魔導障害を検出。接近には艦体への負荷が予測されます》
「最接近航行の限界点で停止して、そこからは小型艇で向かう」
《了解。準備に入ります》
そのとき、通信コンソールに不明信号が割り込んできた。
《……──こちら“オブザーバー第二基礎群”、応答せよ。繰り返す、こちらは……》
セラの目が見開かれる。
「今の……!」
《信号特性に照合あり。これは、かつて私たちの世界で使用されていた……“旧地球系”の暗号方式です》
「つまり、向こう側の人間が――まだ、いる?」
《ただし、信号は断続的で、座標も不安定。一定の周期で“干渉”が加わっています。何者かが通信を妨害している可能性あり》
悠真は唇を引き結ぶ。
「放っておけないな。信号の発信源は?」
《あの浮遊島の塔の付近。ほぼ重なっています》
「じゃあ、なおさら行く価値がある。セラ、君が感じてる“何か”と、向こうの信号――どっちも無関係じゃないはずだ」
「うん。きっと、あの塔が鍵になる」
◆
小型艇に乗り込み、悠真、セラ、シア、そしてエリンの四人は塔へ向けて飛び立った。
艦の後方で、ラグナ・リリスがゆっくりと後退し、警戒航行を開始する。
浮遊大地へ接近するに連れ、空間は不穏さを増していった。
重力が乱れ、視界が時折歪み、音のない雷が空を裂く。
「感覚が……変だ。時々、自分がどこにいるかわからなくなる」
「それ、魔導干渉の一種だな。普通の人間だったら意識を失ってる」
シアが唸るように言った。
「塔まで、あと2分」
そのとき、急激な振動と共に、艇が突風に煽られる。
「回避っ!」
エリンが叫び、小型艇がぎりぎりの姿勢で軌道を保つ。
視界の中に、不意に“それ”が現れた。
――巨大な、歪んだ影。
ヒトに似て非なる、無数の腕と、幾つもの顔を持つ異形の存在。
空間の亀裂から滲み出たそれは、まるでこの世界の“自動防衛装置”のように、侵入者を拒むような気配を纏っていた。
「来るぞッ!」
《敵性反応、質量測定不能。おそらくこの空域における“自律存在”》
「応戦する! できるだけ引きつけて、塔に着陸させろ!」
魔導砲が咆哮し、セラの魔力が盾のように展開される。
シアは短剣を抜き放ち、影の腕を斬り裂いた。
けれど、切り落とされたそれが霧となって再び実体化する。
「斬っても……無限再生か。いや、これは……」
セラが眉をひそめる。
「この存在、物理的な存在じゃない。――“記憶”の具現だ」
「記憶……?」
「この塔が“鍵”なら、こいつはそれを守るための番人。私たちの過去や記憶を元に、恐怖を具現化してるのよ!」
「なら、恐怖に飲まれなければ、突破できるってことか?」
セラが力強く頷いた。
「わたしたちは、もう後戻りしない。――この世界の“真実”を知るために!」
彼女が魔力を解放すると、紋章が空中に浮かび、影の存在がたじろいだ。
その一瞬をついて、エリンが着地ポイントを強行設定する。
「強制着陸に入る!」
小型艇は塔のすぐそばに滑り込むようにして不時着した。
衝撃が走り、計器が火花を散らす。
だが、四人は無事だった。
「……着いたな」
悠真が息を吐きながら、塔を見上げる。
その頂上には――仮面をつけた少女がいた。
仮面越しに赤い瞳が、じっと彼らを見下ろしている。
「“外からの来訪者”。ようこそ、“観測塔セフィロート”へ」
風が吹く。少女のマントが舞い、塔の扉が、音もなく開かれた。
そして、彼らの前に、封じられていた“記録”と“真実”が、静かに口を開こうとしていた――。
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