第2話「来訪者と、赤い帆の少女」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
《外部接近物、確認。水上船舶。規模:小型。武装:なし。》
AIエーリカの声が艦内に響く。
モニターには、海面を進む小さな帆船の姿が映っていた。
真っ赤な帆が特徴的な、どこか古風な船。
「魔力反応は?」
《微弱。乗員数、推定一名。種族:人間型。》
悠真は息をのむ。
この世界の“人”と、初めての接触——それがいきなりやってくるとは思わなかった。
外に出るべきか? だが、言葉は通じるのか? 警戒すべき相手なのか?
《艦の魔導偽装は継続中です。外部から《ラグナ・リリス》の姿は見えていません。ですが、接近者の軌道は正確です。意図的な接触の可能性が高いと判断されます。》
「……つまり、ここに何かがあるって気づいて来てるってことか」
画面の中、小型帆船の甲板に立っているのは、一人の少女だった。
赤毛に風をなびかせ、軽装の冒険者のような出で立ち。
背中に長弓を背負い、真剣なまなざしで海を見つめている。
「……俺、行くよ」
《推奨します。初期接触は、慎重に。ただし、艦からのサポートは必要に応じて可能です。》
悠真は、ラグナ・リリスの《昇降ポッド》に乗り込んだ。
転移してきてから、まだ数時間。
だが、もうここは彼の居場所になりつつある。
「なんか……RPGの序盤イベントみたいだな」
小さく笑って、艦外へと出た。
* * *
海面に設けられた浮上リフトから、悠真は小舟へと向かって立った。
赤い帆船との距離は、もうすぐ声が届くほど。
「おーい! そこの人!」
風を裂くような声が飛んでくる。
驚いたことに、日本語——ではないが、理解できた。
ラグナ・リリスの《言語自動翻訳》が、脳に同期されているからだ。
「君、ここで何してるの!? この海域、魔獣が出るって言われてるのに!」
少女は身軽に帆船から飛び降り、水面に跳ねるようにして近づいてくる。
その動きは洗練されていて、ただの冒険者ではない何かを感じさせた。
「えっと……こっちが聞きたいくらいなんだけど……君は?」
「私? 私は《エリン》! 王都セレディアから来た調査士よ。あなた、もしかして——遺構の“鍵持ち”?」
「……鍵持ち?」
彼女は目を見開き、言葉を止めた。
「やっぱり……そうなのね。じゃあ、本当に“目覚めた”んだ……」
悠真はわけが分からず首をかしげる。
「えっと、俺は——結城悠真。日本から来た……というか、なんというか……気づいたら、ここにいたんだ」
「……にほん? 聞いたことない国ね。でも、それで説明がつく。あなた、“異界の人”なんでしょ?」
「ま、まあ……そうなるのかな」
エリンは、何かを確信したように大きく頷いた。
「やっぱり、《ラグナ・リリス》は動き出したんだね。長い間、誰にも開けられなかった遺構……。この海域に隠されていた、古代の魔導兵器——」
「魔導潜水艦、ってやつだよ。たぶん、君たちが“遺構”って呼んでるのは」
「それに、あんた……普通の人じゃない。さっき、海の魔力があんたを避けてた。あれ、完全に艦と同調してる証拠よ」
どうやら、悠真が艦とリンクした影響が、外からも見えるらしい。
それを目撃したエリンが、彼を“鍵持ち”だと確信したのも納得できる。
「……ところでエリン、その“遺構”って……みんなに知られてるのか?」
「一部の貴族や学者だけよ。でも、海に近づく者の間じゃ有名。“近づくと海が喰う”って噂されてる。私も、それを調べるために派遣されたの」
「じゃあ、俺のこと……誰かに報告する?」
「……迷ってる」
エリンはまっすぐに悠真を見た。
その瞳には、警戒と……それ以上に、強い興味が宿っていた。
「あなたが敵じゃないなら、協力し合えるかもしれない。ラグナ・リリスが復活したなら、世界はきっと大きく動く。私だけじゃ止められない。……だけど、利用されたくないでしょ?」
「まあね。……こっちも、何がなんだか分からないから、教えてくれると助かる」
エリンは微笑んだ。
だがその笑みの奥には、覚悟と経験があった。
「じゃあ、取引ね。私が君にこの世界のことを教える代わりに——君は私に、その艦のことを教えて」
「いいよ。……でも中には、まだ案内できない場所もあるかも」
「それで十分。信頼って、少しずつ築くものだから」
風が、再び穏やかに吹いた。
赤い帆が揺れ、二人の出会いを祝福するようにきらめく。
——こうして、悠真は異世界で最初の仲間と出会った。
少女の名はエリン・グレイス。
王都セレディアの調査士にして、やがてこの旅に不可欠な存在となる少女。
物語は、まだ始まったばかり。
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