第18話「監視者の庭と封じられた門」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
濃密な霧の壁を貫くようにして、ラグナ・リリスはゆっくりと航行していた。
通常の魔導レーダーも光学探査も役に立たず、周囲は白銀の靄に閉ざされている。
艦内には、まるで別世界に踏み入ったかのような張りつめた静寂が支配していた。
《位置座標、確認不可能。魔導空間座標が常に変動中。ここは……“閉ざされた領域”と推測されます》
エーリカの声も、どこか不穏さを孕んでいた。
「感覚が変だな。まるで、時間の流れまで違うみたいだ」
悠真が額に手を当てると、セラが静かに頷いた。
「ここは“向こう側”との境界……記録にもあった。物理法則がねじれる場所。私たちのいた世界じゃ《無相領域》と呼ばれてた」
「まさか、本当にそんな領域が存在してたなんてね……」
エリンの声に、シアが即座に周囲を警戒するよう目を細める。
「異常があればすぐに伝えて。何か、こちらを“観てる”気配がある」
その瞬間、艦の進行がぴたりと止まった。
何者かが“触れた”感覚──
艦橋スクリーンに、漆黒の渦が開く。
その中から現れたのは、一体の異形だった。
甲冑のような外殻に身を包み、人にも獣にも似つかぬ輪郭を持つ。
けれど、その瞳だけは――まるで人間のような深い光を湛えていた。
《汝ら、選ばれし者か》
低く、重厚な声が艦内に響き渡る。
セラが、一歩前へ出る。
「あなたが……“監視者”?」
《我は断片。我は審判。我は門の番人。我が使命は、交わるべきでない“運命”を見届けること》
悠真が、息をのむ。
「……交わるべきでない運命?」
《この“裂け目”の向こうには、別の因果律が存在する。進むは容易い。だが、戻る術はない》
「それでも、進まなきゃいけないんだ」
セラの声は迷いなく、その瞳に宿る意志は曇りなかった。
《ならば示せ。汝が“鍵”である証を》
彼女の紋章が、ふたたび光を放つ。
淡く、しかし力強く浮かび上がる紋様は、艦内の空間に波紋のような変化をもたらした。
直後、ラグナ・リリスの艦内が振動する。
《確認完了。……門、開放》
霧が裂け、漆黒の海底に、巨大な扉が姿を現す。
それは金属とも岩ともつかぬ質感を持ち、幾千もの紋章が刻まれていた。
中心には、セラの紋章と酷似した文様が、淡く共鳴している。
「まるで、呼ばれているみたい……」
彼女が静かに歩み寄ろうとしたとき、その脇をすり抜けるように、別の影が飛び出した。
――獣のような体躯、赤黒い皮膚、六つの眼。
《敵性反応! 接近中!》
「護衛班、応戦! エリン、魔導砲展開!」
悠真の指示と同時に、艦内の自律兵装が展開される。
「なんでこんなタイミングで!」
シアが舌打ちしながら剣を抜き、艦外へ跳び出す。
外にいた監視者が、再び口を開いた。
《“彼ら”は門の開放を恐れるもの。汝らの前に立ちはだかるは、“旧き者たち”の残滓》
「なら、なおさら……進まなきゃならない!」
セラが駆け出す。
悠真もその背を追った。
「エーリカ、俺たちも外に出る! 時間を稼いで、門の起動を!」
《了解。起動プロトコル、展開開始。紋章エネルギー連結、30%──》
交錯する戦闘と共鳴。
霧の中で、幻影と現実の境界が崩れ始めていた。
エリンの砲撃が獣の一体を吹き飛ばし、シアの剣が残りの敵を切り裂く。
だが、無数の敵影が、門の周囲に現れ始めた。
「悠真、こっち!」
セラが門の中央に手をかざす。
紋章が激しく発光し、扉が軋むようにして開き始める。
その瞬間、爆風。
悠真がセラを庇い、地面に伏せる。
耳をつんざくような咆哮。
空間が破れ、裂け、歪み始める。
《門、起動完了。異界への通路、開放》
眼前に開いた“門”の先には、見たこともない大地が広がっていた。
それは、天空が逆巻き、浮遊する大地が点在する、まさに“別の世界”。
「これが……“向こう側”……」
セラの声が震える。
その瞬間、誰かが彼女の腕を掴んだ。
「……行くな」
低い声。
立ちはだかったのは、漆黒のローブを纏った少年――否、少年の姿をした“何か”だった。
その瞳には、深い哀しみと怒りが宿っていた。
「その門は、開けてはいけない。お前たちは“まだ、間に合う”」
新たな存在、新たな警告。
そして扉の先に待つ、さらなる真実。
物語は、境界を越えて、次なる章へと歩み出す――。
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