第17話「霧の裂け目への前奏」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
ラグナ・リリスは、夜の帳に包まれた静海域の底で、次なる進路を静かに定めていた。
艦内はまだ眠りにつくには早く、だが何かを待つような緊張感が漂っている。
セラの告白、そして“選ばれし者”への謎の暗号通信。
それは、悠真たちの中に微かな不安と、確かな覚悟を芽生えさせていた。
艦橋の中央で、悠真はエーリカの投影スクリーンを見上げていた。
《“霧の裂け目”は、この世界の北西辺境、常に霧と磁気嵐に包まれた危険海域です。航行および接近には慎重なルート設定が必要です》
「確かに、“扉が開く”には相応しい場所ってわけか……」
悠真の声に、シアが言葉を重ねる。
「そこには何があるの? 監視者ってのは、誰を監視してるのかしら」
「それを知るには、行くしかないってことだろうな」
エリンが立ち上がり、艦内地図の投影を操作した。
「この霧の裂け目、ただの海域じゃない。過去の艦隊記録によれば、ある座標に接近した艦が軒並み消息を絶ってる。単なる霧じゃなく、空間異常……おそらく“結界”に近いものが存在してる可能性が高いわ」
《分析に基づくと、“霧の裂け目”は異界との交点、すなわち自然界に形成された不安定なゲートのような構造を持つと考えられます》
セラがその言葉に反応する。
「それ、私がいた世界でも理論的には存在してた……不安定なゲート。一定の魔素密度と重力交差点、条件がそろえば“向こう側”とのリンクが生まれるって」
「向こう側──って、“異世界”?」
「あるいは、それより深い場所。観測できない層。……私は、この場所に呼ばれた気がするの」
そのとき、艦内アラートが低く鳴った。
《霧の裂け目、外周に接近中。航行注意域に入ります。魔導レーダーに反応あり──未確認艦影、ひとつ》
悠真は即座に指示を飛ばす。
「エーリカ、全方位の幻影迷彩展開。接触回避優先で、こちらの位置を悟られないように」
《了解。幻影迷彩、展開開始──》
スクリーンに映ったその艦影は、ラグナ・リリスよりも一回り小型だが、機関部から発せられる魔力パターンは異様に強く、不規則だった。
「……あれは、船……なのか?」
「いや、魔導生命体との融合体かもしれない」
エリンが目を細める。
「まさか、“監視者”って……」
その瞬間、通信チャンネルが一方的に開かれた。
《……応答せよ。選ばれし艦“ラグナ・リリス”。これは警告である。霧の裂け目への進入は、“協定違反”と見なされる》
低く歪んだ声だった。
だが、その声にはどこか人の感情を感じさせる余韻があった。
《……ただし、条件が一つだけある。“鍵を持つ者”を伴うならば、接触は許可される》
「鍵を……持つ者?」
シアが疑問を口にしたとき、セラの身体から微かに紋章が発光した。
「……私?」
悠真が静かに頷く。
「おそらく、そうだ。君が“鍵”なんだ」
《その通り。観測は完了した。選ばれし者が“目覚めの資格”を持つ限り、我は干渉を避ける──“裂け目”で待つ》
通信は一方的に途絶え、海図上の艦影も霧の中へと消えた。
「“我”? ……人じゃない、何か知性を持った存在か」
「監視者が守ってる“何か”が、あの霧の先にあるってことね」
エリンがつぶやき、セラはしばらく沈黙したのち、静かに口を開いた。
「行かせて。私が開けるなら、責任を持つ」
「もちろん俺も行く。これは俺の物語でもあるからな」
悠真の言葉に、誰も異を唱えなかった。
ラグナ・リリスは再び静かに進路を変えた。
“霧の裂け目”──それは、真実の入口か、それとも新たな迷宮か。
だが、もう誰も立ち止まることはなかった。
彼らの運命は、もはや個人の意志を超えて、世界そのものの歯車を回し始めていた。
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