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第16話「交錯する視線と選ばれし者」

興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。

作品ナンバー3。

ゆっくり投稿していきたいと思います。

ラグナ・リリスは北方の静海域へと転移し、しばしの安息を得ていた。


深海の闇を抜け出した艦内には、わずかな緊張と、次なる行動を見定める静寂が漂っている。


艦橋では、悠真がスクリーンに表示された海図を前に、腕を組んで立っていた。


「このエリアなら、しばらくは《シグナ・ヴェルト》の追跡をかわしつつ整備と情報整理に集中できるな」


《同意します。艦内魔導炉の安定化を最優先に処理します。また、セラ・アーデルの身体状態および紋章適合率は現在も上昇傾向です》


「紋章が“進化”してるってことか?」

シアが眉をひそめた。


《正確には、ラグナ・リリス側の情報コードとの“同期”が進行中です。彼女はこの艦に適応しつつあります》


「つまり、今後彼女がこの艦のコアユニットの一部としても機能できる可能性があるってことね」

エリンが冷静に分析を挟んだ。


そのとき、自動ドアが開き、セラが姿を見せた。


制服姿が板についてきたものの、まだどこか所在なげな空気をまとっている。

しかしその瞳には、明確な意志の光が宿っていた。


「皆に……ちゃんと話したいことがあるの」


悠真が頷いた。


「場所を移そう。少し、落ち着いて話せるところで」


* * *


移動した先は、艦内の作戦会議室。

中央の魔導投影台に全員が集まると、セラは深呼吸し、ゆっくりと話し始めた。


「私は、元々別の世界にいた。“現代”と似ているけど、少し違う世界。そこでは、異世界転移は稀にしか起きない“事故”として扱われてたの」


「事故……」

悠真が小さく反復する。


「そう。でも、あなたの転移は明らかに“仕組まれたもの”だった。私は、それに気づいた研究機関の一員だったわ。正確には……彼らに“拾われた”の。両親を早くに失って、身寄りもなくて」


彼女の指先が、机の縁をかすかに撫でる。


「彼らは《深紅の塔》と呼ばれる遺跡を研究していた。そこには、異世界への“接続点”があった。私は、あなたを追ってその塔に入った……そして、気づいたらこの世界にいた」


「時系列が……どうもおかしいわね」

エリンが首を傾げる。


「そう。あなたがこの世界に来てから、何ヶ月も経ってるのに、私はほとんど時間を飛ばずに来られた。……たぶん、塔の中で“時間の干渉”が起きたの」


《可能性あり。異世界間転移では空間と同時に時間座標の誤差が発生する事例が記録されています。特に“鍵を持つ者”はその影響を受けやすい》


「つまり、彼女は俺を追って来たけど、“遅れてきた”わけじゃないってことか」

悠真が言う。


「むしろ、ほぼ同時……それも、“意図的に調整されたような精度で”」

シアがつぶやく。


セラは、沈黙を破るように言った。


「……私を送り込んだのは、“誰か”の意志だと思ってる。単なる偶然じゃない。私の体内に埋め込まれていた紋章も、“既に設計されたもの”だった」


「その誰かってのが……敵か味方か、まだわかってないってことだな」


「ええ。でも、私は決めた。この艦に残る。あなたたちと一緒に、この世界の真実を探すために」


その目には、迷いはなかった。


* * *


数時間後、艦内のトレーニングルームにて。

セラは一人、剣の訓練装置を相手にしていた。

手には、訓練用の魔導剣。


「案外、筋がいいわね」

不意に声がした。


振り返ると、シアが壁にもたれて見ていた。


「……驚かせないで」


「少し様子を見に来ただけよ。あなた、本当に戦うつもりなんでしょう?」


「私には……もう守るべきものも、帰る場所もない。ならせめて、前に進むしかないじゃない」


セラの声には、痛みと、決意が滲んでいた。


シアは一歩踏み出し、隣に立った。


「だったら、いずれ本物の戦いも任せるわ。その覚悟があるなら」


そして、背を向けたそのとき──


「ありがとう」


その一言に、シアは少しだけ、口元を緩めた。


* * *


夜。悠真の部屋。


端末に表示された報告書に目を通していた彼のもとに、エーリカの声が響く。


《艦長。新たな暗号通信を傍受しました。発信元は不明。ただし、内容は以下の通り──》


画面に、赤い文字が浮かび上がる。


『《選ばれし者》へ──次なる扉は“霧の裂け目”にて待つ。既に“監視者”は目を覚ました』


「……誰だ、これは」


悠真は目を細めた。


霧の裂け目。新たな地名、そして“監視者”──。


深まる謎は、セラの登場によってさらに複雑さを増していた。


しかし確かに言えるのは、この艦と、彼女と、自分は──ただの偶然で結ばれたのではないということ。


交錯する視線の先に、運命の歯車が回り始めていた。

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