第15話「黒の潜影と少女の名」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
艦内が再び戦闘態勢に包まれていた。
ラグナ・リリスの前方スクリーンには、漆黒の機影が映し出されている。
それはまるで深海の闇が形を取ったかのように、滑らかな曲線を描きながら接近しつつあった。
「魔導潜航体……いや、違う。艦のような構造だが……生命反応は、ゼロ?」
シアが低く呟く。
《確認完了。該当機体には、内部に乗員と認められる生命反応はありません。ですが、自律稼働型の魔導核を搭載しており、複雑な行動パターンを解析中です》
「無人艦……だけど、意思を持ってるように見える」
エリンがスクリーン越しにその影を睨んだ。
《艦長、接続要求が来ています。映像通信ではなく、魔導的な“イメージ転送”です。受信しますか?》
「……受けろ。内容は俺の端末に限定表示で」
《了解》
一瞬、悠真のタブレットに蒼白い光が走る。
視界に、暗闇の中で燃えるような赤い光──それが“目”であると、直感で理解した。
その視線は、まっすぐに悠真を見据えていた。
その奥に──怒りとも、渇望とも取れぬ、冷たい感情が渦巻いていた。
「……あれは、俺たちを試している」
「どういう意味?」
エリンが問いかけたが、悠真は言葉を探すように間を置いてから答えた。
「“観察している”。いや……もっと深いところで、俺たちの反応を見て、記録して、選別してる」
「まるで、研究機関みたいなやり口ね」
シアが頷く。
そのとき、艦内通信が鳴った。
《医療区画より報告。保護対象の少女が目を覚ましました》
「行くぞ」
悠真は短く言い、すぐに医療区画へと向かった。
* * *
薄明かりの中、少女は静かに座っていた。
艦の制服を羽織らされており、ボロボロだった元の衣服はすでに回収されている。
「……やっと、起きたんだな」
悠真の声に、少女はゆっくりと顔を上げた。
目が合った瞬間、少女の瞳が震えた。
「あなたが……結城 悠真……?」
その声は、弱々しいが確かだった。
「そうだ。君は……どうして俺の名前を?」
少女は少しの沈黙のあと、言った。
「……探してたの。ずっと。あなたに……伝えなきゃいけないことがあって」
「何を?」
「……その前に、名前を言わなきゃね」
少女は、ベッドの縁を掴みながら立ち上がる。
「私の名前は、セラ。セラ・アーデル」
悠真の呼吸が止まる。
その名に聞き覚えはない。
だが、胸の奥に、なぜか鋭い痛みが走った。
「セラ……君は、どこから来た?」
「私のいた世界では、あなたは……“消えた人”だった。異世界転移の特異事例として扱われていて、数年経っても戻ってこなかった。私は、それを追って──“深紅の塔”に入ったの」
「深紅の塔……やっぱり、あれが鍵なんだな」
セラは、手のひらを見つめる。
そこには、淡い光を放つ魔導的な紋章が浮かんでいた。
ラグナ・リリスの制御紋に似てはいるが、異なる構造だった。
「これは、転移時に……私の中に刻まれたもの。おそらく“鍵”か、“資格”みたいなものなんだと思う」
悠真は頷き、視線をエーリカに向けた。
《確認します。この紋章はラグナ・リリスとは別系統。……ですが、かつて同系列の“実験艦”と同期した履歴があります》
「まさか……」
悠真がつぶやく。
《セラ・アーデルの紋章は、黒の潜影──“プロトタイプ艦”の制御紋と一致》
「……あれが、彼女を追ってきたのか」
シアが言った。
「違う」
セラが小さく首を振った。
「“あれ”は、私を回収するために作られたもの。だけど……もう制御が効いてない。私の命令に、反応しなかった」
それはつまり──
「今のあれは、自律的に動いてる。誰かの命令じゃなくて、自分の意志で」
悠真が、唇を引き結んだ。
《注意。プロトタイプ艦が再接近。外殻を展開し、内部構造を露出。……これは“吸収モード”です》
「この艦を……取り込もうとしてる?」
エリンが目を見開いた。
「こっちの存在を“同類”と認識してるのかもな。だから回収しようとしてる……同化の対象として」
その瞬間、ラグナ・リリスの外殻がわずかに震えた。
“吸収”が、始まっていた。
「エーリカ、緊急転移シークエンス開始! 座標は北方海域、既知の安全圏!」
《了解、転移準備。発動まで30秒》
「セラ、君も──」
「わかってる。ここを守る。それが、私が来た理由だから」
セラが立ち上がり、蒼白く光る紋章を手に浮かべた。
「私は、プロト艦の継承者。でも今は、あなたたちと一緒にいる」
そして、艦は眩い閃光とともに、海の闇から脱出する。
深海に残された《シグナ・ヴェルト》は、しばらくの間、静かにその場に留まっていたが──やがて、新たな獲物を探すように、闇へと沈んでいった。
物語は加速する。
深紅の塔、プロトタイプ艦、そして名を取り戻した少女。
まだ見ぬ真実が、海の底で牙を研いでいる。
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