第14話「名を持たぬ来訪者」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
医療区画の照明が、静かに明滅している。
白いベッドに横たわる少女の呼吸は浅く、時折、眉間を寄せてうめく。長く波打つ黒髪は濡れたように肌に張りつき、異世界の制服──赤いリボンのついたブレザーは、すでに半分が焦げて裂けていた。
「一度目覚めましたが、また気を失いました。意識はあるようですが、まだ深層意識から浮上してきません」
シアが表示パネルを操作しながら言う。
《身体的損傷は軽微ですが、魔力経路に“逆流”の痕跡があります。異なる次元間を強制的に通過した場合に見られる現象です》
エーリカの声も重なった。
悠真は無言で少女を見つめていた。
彼女が最後に発した言葉──「結城って人を探してて」──あれは、偶然ではない。
「まさか、俺の知り合い……?」
自問するが、答えは出ない。
「あのさ」
エリンが壁際にもたれながら、口を開いた。
「この娘、あたしと同じように“落ちてきた”んじゃない? しかもあの海底遺跡から」
「でも、俺がこっちに来たときには、誰かが俺を引っ張ってくれた感覚があった」
悠真はそう呟いた。
「けど彼女には……そんな気配、なかった」
「つまり自力で?」
「もしくは、もっと強引な転移を……」
その時、隣のベッドで横になっていた少年が身じろぎした。
ルイ──仮の名を与えられた、記憶喪失の少年だ。
「う……あ……」
額を押さえながら、ゆっくりと身を起こす。
「ルイ、無理はするな」
悠真が声をかけたが、少年は首を振った。
「僕……少し、思い出しました」
彼の言葉に、エリンとシアも身を乗り出す。
「“塔”にいたんです。高い、赤い塔……でも、あそこには……人がいて……ぼくに、何かをさせようとして……」
言葉は断片的だったが、彼の表情は確信に満ちていた。
「深紅の塔……また、その名前か」
悠真が頷く。
「それと……僕の名前。たぶん、“リオン”って呼ばれてた気がします」
静寂が訪れた。
ルイ──いや、リオンの声は、彼自身でも驚くほど自然だった。
「じゃあ、“ルイ”は仮の名前だったってことね」
エリンが肩をすくめる。
「ま、今さらだけどさ。リオンの方が似合ってるかも」
「リオン……覚えとくよ」
悠真は笑いながら言い、シアも彼に微笑みかけた。
「少しずつでいい。無理せず思い出していきましょう」
だが、その空気は長く続かなかった。
《艦外、機械的な“反応波”を検出。未確認物体が海底を接近中》
エーリカの報告に、空気が張り詰める。
「瘴魔の残骸か?」
悠真が問う。
《違います。これは……動力波が安定しており、機体構造も明確です。高度な魔導機械と推定されます》
「まさか……別の潜水艦か?」
エリンが息を呑む。
悠真はすぐに判断を下した。
「シア、監視映像をスクリーンに。エーリカ、外部通信を一切遮断、魔導障壁は最低限で維持」
スクリーンに映ったのは、漆黒に染まった楕円形の影だった。
それは静かに、まるでこちらを監視するかのようにラグナ・リリスの周囲を旋回していた。
「なんだ、あれ……」
そして──その影から、魔導的な“触手”のような構造物が展開される。
遺跡で見た瘴魔と同じ気配。
いや、それ以上の、知性を持った意志が感じられた。
《来ます! 衝突の可能性あり!》
「全員、戦闘配置!」
悠真の号令が響く。
目覚めぬ少女。
記憶を取り戻し始めたリオン。
そして、新たな脅威の接近。
ラグナ・リリスの中で、物語はまた一歩、深淵へと踏み込もうとしていた。
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