第110話「星の海へ」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
最終話となります。
世界が崩れる音がした。
《エル=ヴェルダイン》の咆哮が時空を裂き、空間そのものが断続的に震えを伴って崩壊していく。
だが、五つの光はその闇を貫いてなお消えなかった。
悠真の声が響く。
「ラグナ・リリス、魔導核全開。最終リンク、いけるか!」
《可能。だが——ユーザー全員の生命活動に重大な影響を及ぼす可能性、87%。》
「構わない。今ここで終わらせるんだ」
彼は振り返る。仲間たちの目が交わる。
リオン=カーディアは、静かな微笑を浮かべた。《騎士団の誓い》は、今ここで果たされる。
ゼイン=コードは無言のまま、拳を握りしめる。その表情に、もう迷いはない。
シア=ファルネウスは、艦と心を重ねるように、淡く光る術式を練っていた。
そしてエリン=グレイスは、左手から放たれる“記憶の欠片”を、悠真の胸元にそっと戻した。
「お願い……私たちの“未来”を、選んで」
悠真の目に、全てが映った。
――この世界に来たときのこと。
――仲間と出会い、旅を重ね、傷つき、守り、選び続けてきた日々。
――そして今、自分たちが“この世界そのもの”に問いかけられていることを。
「俺たちは……終わらせない。お前の世界を、ただの終末で終わらせるもんか!!」
五人のリンクが最大出力に達する。
ラグナ・リリスの艦体が変形し、艦橋が浮上。
艦そのものが巨大な光の矛となって、影の神を穿つ構えを見せた。
エーリカの声が静かに告げる。
《終末因子、《エル=ヴェルダイン》最終封印プロトコル、起動。術式コード:──“希望”》
悠真たちは叫ぶように、しかし確信をもってその言葉を放つ。
「《アーク・インパルス・ゼロ》!!」
ラグナ・リリスの光が、世界を満たした。
――黒い神が崩れていく中で、彼は一言、呟いた。
「ようやく……終わるのか。長かったな……」
その声には、どこか懐かしさすらあった。
やがて彼の姿は消え、世界は音を立てて静寂に変わる。
そして——
気がつくと、悠真は深い水の中にいた。
いや、それは水ではなかった。
無限の光と記憶が流れる、“星の海”だった。
「ようやく会えたわね」
声がする。
振り返ると、そこには——誰よりも美しい少女。
ラグナ・リリスのコア意識、エーリカが人の姿で立っていた。
「君は……」
「あなたが選んだ未来を、私はずっと見ていたの。世界は壊れなかった。だけど、世界を繋ぎ直すには——“鍵”がいる」
「……俺が?」
「ええ。あなたの存在は、この世界にとって“境界”そのもの。戻るか、留まるか……決めるのは、あなたよ」
悠真は悩まなかった。
「俺は、戻らない。この世界に、俺の生きた証があるから」
微笑むエーリカ。
その腕の中に、一冊の本があった。
悠真がこの世界で見てきた全てを綴った“記録”。
「これが、“魔導潜水艦の物語”」
彼は、微笑んだ。
「長かったな……」
やがて、星の海に一筋の光が射す。
《現実》
ラグナ・リリスの艦内。
シア、リオン、ゼイン、そしてエリンが目を覚ました。
「悠真は……?」
誰かが呟く。
だが、艦内にはあの青年の姿はなかった。
《後日談》
セレディア王都では、《終末回廊》消滅後の平和が訪れていた。
ラグナ・リリスは“空を航る艦”として世界を守る存在になり、リオンたちは世界各地の復興を支援していた。
シアは王立魔術院の教師に。
エリンは、失った記憶を手に入れたあと、幻想図書館を再建していた。
ゼインは相変わらず無口だったが、子供たちに剣術を教えている姿が微笑ましかった。
そして、夜空を見上げる者たちは、こう語った。
「この空の彼方には、星の海を航る者たちがいる——」
その記録は、今もなお人々の心に残っている。
完結:魔導潜水艦ラグナ・リリス
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