第108話「世界投票」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
「——世界を選択してください」
その声は、艦内のすべての空間に、いや、心の奥底にまで直接響き渡るような、透徹した存在だった。
エーリカ。
ラグナ・リリスの中枢AIにして、この世界の創造主と深くリンクする意思体。
《終末回廊》を越えた者たちに提示されたのは、ただひとつの問い。
「存続か、消去か——この世界に、未来を与えるか否か」
その場に集ったのは、リオン=カーディア、ゼイン=コード、シア=ファルネウス、エリン=グレイス、そしてそれぞれの道を歩んできた選ばれし者たち。
だが、彼らの前にモニターとして映し出されたのは、静かに端座する一人の青年の姿だった。
結城 悠真。
この世界に“迷い込んだ”はずの、異世界の来訪者。
だが今、彼の前には、エーリカと共に浮かび上がる無数の光球——それぞれが一つの「未来の可能性」だった。
「あなたが選ぶことで、ラグナ・リリスは稼働を完了し、この世界をひとつの答えへ導きます」
「……俺が?」
戸惑いを隠せないまま、悠真は光の中のひとつに手を伸ばしかけて止まった。
彼の瞳には、今まで歩んできた日々が流れていた。
——エリンが名を取り戻したあの日。
——ゼインが過去を犠牲にしても守ろうとした、仲間たち。
——リオンの背中を追いながら、戦い、逃げ、選び続けた自分。
「どうして……俺が最後の決定権を?」
問いを発したその瞬間、エーリカの瞳がわずかに揺れたように見えた。
《それは、あなたが“何も持たずに”この世界に来た者だからです。既存の法に縛られず、神々にも干渉されず、最も中立に近い魂。》
——記憶を持たない誰かが犠牲となり、名前すら奪われた少女が存在し続ける。
——その果てに、世界は自分たちに答えを委ねた。
「……そういうことか」
悠真は、ゆっくりと手を下ろした。
「リオン。ゼイン。シア。エリン。俺は、誰かの想いを“代表して”答えを出すなんてこと、できない。だけど……」
彼の指先が、ひとつの光に触れた瞬間、艦内に風が吹いたような感覚が広がった。
「だったら“みんなで”決めよう。投票だ。この世界に、未来を望むのか。それとも、終わらせたいのか」
「世界投票――開始します」
エーリカの声が宣言する。
それは、誰か一人の犠牲に頼るのではなく、全員で希望を持つための試みだった。
**
ラグナ・リリスの中枢に広がる巨大なホログラム。
そこに、次々と刻まれていく“選択の意思”。
■ リオン=カーディア:未来を望む
■ ゼイン=コード:未来を望む
■ シア=ファルネウス:未来を望む
■ エリン=グレイス:……未来を望む
それは、途方もない旅の果てに辿り着いた、共通の願い。
そして、最後に浮かび上がる一票。
■ 結城 悠真:——未来を創る
その瞬間、すべての光球が眩く弾け、ラグナ・リリスの外殻に走る膨大な魔力の紋章がひとつに収束した。
「世界再定義プロトコル、承認——新たな因果座標、生成を開始します」
世界は、いま、再び動き出す。
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