第107話「約束の地《アルカ・ノヴァ》」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
ラグナ・リリスが“終末回廊”を抜けたその先――そこにあったのは、想像を遥かに超えた風景だった。
宇宙のようで、海底のようでもあり。
大地の上に都市が浮かび、空のない空に、塔が逆さに聳えている。
「これが……最深部、《アルカ・ノヴァ》……」
リオン=カーディアが、息を呑んだ。
《観測情報を展開します。重力、気圧、光量――すべて“人類の想定限界値”を模して調整されています》
エーリカの声に、ゼイン=コードが眉をひそめる。
「つまり……ここは“誰かが人類のために設計した空間”ってことか?」
「“誰か”じゃない」
静かに、エリン=グレイスが言う。
「これは……かつてこの世界の核心に触れた者たちの“遺言”よ」
ラグナ・リリスはゆっくりと前進し、やがて都市の中心にある巨大な浮遊構造体――《知識の楔》へと接続した。
《認証信号を受信。アクセスコード:ラグナ・リリス……ラグナシリーズ中枢艦認定》
キィィン……という高周波とともに、艦内スクリーンに、かつての記録映像が流れ出す。
そこに映っていたのは、人間の姿をした存在たちだった。
だが、彼らの目は透き通るように青く、声は機械と人の中間のようだった。
《我々は、“人類の最後の観測者”》
《かつての世界で終末を迎えたあと、人類の意志を受け継いだ“第零世代”》
《我々は、次の周期に“記憶”を託した》
「……記憶?」
シア=ファルネウスが目を見開く。
映像は続く。
《人類はかつて、五度の終焉を越え、六度目の世界再構築に失敗した。だが――》
《一部の者たちは、次に目覚める存在に希望を託す道を選んだ》
《それが、“ラグナ・リリス”と“ラグナの鍵”》
「まさか……私たちの旅自体が、誰かの仕組んだ希望だったってこと……?」
ゼインの声に、誰もが沈黙する。
だが、リオンは静かに頷いた。
「それでもいい。仕組まれていたとしても……」
「この旅のなかで、出会った人たち。交わした言葉。犠牲と、絆――全部、俺たちの“選択”だ」
そう。彼らは誰かのプログラムではない。
自らの意思でここまで歩いてきた。
《最終選択権限を確認。選択可能な進路は二つ》
《一つ、“終焉の固定”――世界をこれ以上進ませず、安定させる道》
《もう一つ、“再構築”――全てを無に還し、新たな人類の周期を起動させる道》
――それは、神の選択に等しかった。
だがその“神”の座に座らされたのは、彼ら、ラグナ・リリスの乗組員たち。
「……どうするの、リオン」
エリンが問いかけた。
リオンは、しばし目を閉じ、拳を握る。
「俺たちが“再構築”を選んだら、いまの世界は……消える。だけど、未来を信じられる可能性がある」
「“固定”を選べば、世界は維持される。だけど、もう変化の余地はなくなる。永遠に、同じ時を繰り返す」
ゼインが苦笑いした。
「難問すぎるだろ、これ……!」
だが、そこで――シアが、そっと手を挙げた。
「どちらを選ぶにしても、今の私たちだけで決めるべきじゃないと思う」
「……え?」
「だって、これは“全人類の未来”に関わる話でしょ? なら、全員で決めなきゃ。少なくとも……今、ラグナの周囲に生きてる人々には、声を聞かせてみる価値がある」
「――それが、私たちに託された“本当の責任”なんじゃない?」
一同は、無言で頷いた。
通信チャンネルが開かれ、ラグナ・リリスから世界へ向けての問いが発信される。
《あなたは、未来を“壊して”進みますか?》
《それとも、“守って”留まりますか?》
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