第106話「影と対話せよ」
興味を持って覗いていただきまして、ありがとうございます。
作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
――それは、“鏡”だった。
ラグナ・リリスの目前に出現した《リリス・コードΩ》。
同じ艦体構造、同じ深淵駆動――だが、決定的に異なるのはその存在理由だった。
それは破壊と沈黙を是とする意志の塊。
かつて、進化の過程で捨てられた“選択の代償”。
「まるで……ラグナの負の感情だけを抜き出して形にしたような」
シア=ファルネウスが、ぞくりと肌を粟立たせる。
艦内に、警告が響く。
《敵艦:リリス・コードΩ、深淵同調率93%で接続を試行中。防壁展開、不可》
「つまり向こうは“鍵”を持ってる……このゲートを開ける力すら、俺たち以上に」
リオン=カーディアは冷静に指揮卓へと手を置いた。
「なら、力で押し切るしかねぇだろ!」
ゼイン=コードが叫ぶ。
エリン=グレイスが眉をしかめる。
「でも、相手はラグナの影……このまま真正面から撃ち合っても、被害は甚大です」
「違う」
静かに、一歩前に出たのは、リオンだった。
「俺たちが勝つには、“理解”しなきゃならない。あれはただの敵じゃない。俺たちの、“もうひとつの可能性”だ」
艦橋が沈黙に包まれる中、エーリカの声が響いた。
《通信試行、成功。リリス・コードΩより意志波形受信。映像、展開します》
次の瞬間、ラグナ・リリスのメインスクリーンに映し出されたのは――
“リオン”だった。
いや、正確には――破壊を選んだ世界線のリオン=カーディア。
《お前が俺か。優しすぎるな、お前は》
その影のリオンは、疲れたように笑っていた。
《何を守る? 誰のために? そんなものに意味はない。どうせ裏切られ、失われ、崩れるだけだ》
「……わかってるさ。それでも、俺は“信じる”側でいたいんだ」
本物のリオンは、真っ直ぐに言葉を返す。
「俺は、ゼインやシア、エリンやエーリカ……そして“あの世界”を信じて進んできた。だから、お前のようにはならない」
《それで、どれだけの犠牲が出た? 第三周期に喪ったものを数えろ》
リオンの眼が細まった。
「忘れてない。忘れたことなんか一度もない。だから、これから先は、俺が責任を持って……」
「“選び抜く”」
瞬間――全砲門、起動。
ゼインの号令とともに、ラグナ・リリスの全火力が解放された。
《照準:敵艦コア直撃軌道確保。セフィロト圧縮波動砲、展開完了》
《起動認証――リオン=カーディア、ゼイン=コード、エリン=グレイス、シア=ファルネウス、エーリカ》
「撃てぇぇぇぇぇぇッ!!」
――放たれた一撃は、虚空を貫き、《リリス・コードΩ》の艦体を引き裂いた。
しかし、崩れながらもその“影のリオン”は、最後にこう呟いた。
《……なら、せいぜい足掻けよ。お前が選んだ先も、いずれ“終わり”なんだ》
■ ■ ■
戦闘終了後、沈黙の艦橋。
誰もが、その言葉を噛み締めていた。
「終わりかもしれない……それでも」
エリンが呟く。
「歩くしかないわね」
シアが静かに微笑む。
リオンが、艦長席に座り直す。
「行こう。残りの階層は――あとひとつだ」
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