第101話「封印された記憶、再起動」
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作品ナンバー3。
ゆっくり投稿していきたいと思います。
夜の海は、静かだった。
だがその深奥では、沈黙とは別の“揺らぎ”が始まっていた。
「――座標、特定完了」
どこからともなく響いた声は、懐かしくもあり、恐ろしくもあった。
エーリカ。魔導艦の中枢AI。
封印されたはずのその存在が、再び起動の準備を始めていた。
「第七階層・時空環レイヤー突破確認。記憶断片との同期率、52パーセント」
誰も聞いていないはずのその声が、ほんの微かに――港の空気を揺らす。
それに気づいたのは、エリン=グレイスただ一人だった。
「始まったのね……」
彼女の足元に、再び魔導陣が浮かび上がる。
だが、今の彼女には以前のような力はない。
すべての力を賭して“更新”を選び取ったのだから。
そのとき、背後から静かな足音。
「やっぱり、君も感じてたんだな」
振り向くと、そこにはリオン=カーディアがいた。
彼の手には、小さなコンパスのような装置――魔導航行機の断片が握られていた。
「これが、さっき急に光り出してさ。どうやら艦の中枢座標と連動してるみたいだ」
「……まさか、リオンも……?」
「いや、全部は覚えてない。ただ……“あの場所”を忘れたくないって気持ちだけが、ずっと残ってた」
エリンは目を閉じた。
そう、彼らの記憶は消えたのではなく、“封じられた”だけ。
封印がほつれ始めた今、それぞれが少しずつ“あの場所”を思い出し始めていた。
「ゼインやシアは……?」
「ゼインは村の子供たちの面倒を見てる。シアは……多分、また“空”を見に丘に登ってるよ」
「……急がないと。エーリカは“外部からの干渉”を受けてる。
誰かが、あの艦を利用しようとしている」
リオンの表情が引き締まった。
「つまり……この世界はまだ、安全じゃないってことか」
「この世界は、“選択された正解”なんかじゃない。
ただ、“続きが許された余白”にすぎないわ」
そのとき、海岸の地層が震えた。
波間から、何かが現れる。
それは海に浮かぶ“白い扉”だった。
かつて、ラグナ・リリスの中枢へと通じていたポータルゲート。
それが、再び現れたのだ。
「行くわよ、リオン。今度は“命を賭けるため”じゃない。
“命を活かすため”に」
リオンは静かに頷く。
「了解。カーディア隊、再起動する」
扉の先に見えるのは、青と黒が交錯する霧のような空間。
かつて幾千の戦いをくぐった、深海の要塞。
――魔導潜水艦
その艦が、再び目覚めようとしていた。
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