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正典  作者: 大自然の暁
プロローグ
6/15

あっけない最期とこれからの展望

 木々がざわめいている。

 恐らく終わりを予感しているのだろう。

 今回のループで終わる。

 私も、そう思った。


「……もう、終わりです。」


 私がそう言うと、オリヴィアは本を読むのを辞めてこちらを向いた。

 彼女はカミュのペストを読んでいた。


「ふん? ほう? ……はーっはっはっはっはっは! いやー漸く腹を括ってくれたか。嬉しいよ。本を読んでても、戻っちまうからいちいち面倒臭いんだよな。」


 私は『H2O(エイチツーオー)』を自身の頭に近づけた。


「なにか言い残すことはあるか? 場合によっては言うことを聞いてやるよ。」


「何もありません。不公平ですから。」


 その言葉にオリヴィアは困惑したようだ。

 当然だ。

 私にしか分からないだろう。


「どういう事だ?」


「貴女が知る必要はありません。」


 私は一つ、息を吐いた。

 先ほどまで何度も死んでいたが、慣れはしない。

 慣れていいはずがない。

 走馬灯が見える。

 いや、ずっと見えていた。

 最初死んだ時からずっと見えていた。

 随分と呆気ない最期だ。

 しかし、人間なんて皆そんなものなのかもしれない。

 誰もが華々しく死ねる訳ではない。


「さようなら。」

 

 私は『H2O(エイチツーオー)』で自分の頭を撃った。





 オリヴィア ミラーは橘 愛美が死ぬのを見ていた。


「……これで64人目、か。」


 彼女は、頭から血を流しながら倒れる橘 愛美に、かつて自身が自殺に追い込んだ者達を思い出していた。

 彼女は『能力』を発動するたびに母親の最期を思い出す。

 一人目の犠牲者は母親だった。

 その時に見た母親の顔はどれだけ死んでも忘れる事はない。





 彼女がその『能力』を授かったのは17歳の冬。

 丁度、大学受験を目前にしていた時期だった。

 彼女は大学受験への不安に苛まれていた。

 彼女は母親は日本人で父親がイギリス人のハーフだった。

 母親は夜遅くまで勉強をする彼女に、よく夜食を作ってくれた。

 彼女の父親は彼女が幼い頃に死んだ。

 それにも関わらず女手一つで育ててくれた母親に、彼女は感謝していた。

 きっかけは些細な物だった。

 本当に些細なすれ違い。

 彼女は母親と喧嘩をし、家出をした。

 行く当ても、財布も持たず、部屋着だけを着ている、そんな状態だった。

 不幸な事に、その日は大雪だった。

 そして、ある男と出会ってしまった。

 その男は分厚いローブに身を包み、まるで何処かの神父のような格好をしていた。


「こんな大雪の夜に寒かろう。取り敢えず私の家に来て暖まるといい。」


 彼女はその男が言うままに着いていった。

 その男の家はとても大きく、小さなマンション住まいの彼女からすればまるで一国の城にでも来たかのような気持ちだった。

 家には女性が1人が居て、どうやら秘書のようだった。

 彼女は秘書に案内されて風呂に入り、着替える服を貰った。

 彼らは、彼女を饗した。

 食事の席に着いた。

 その男は『愛の果実』という宗教団体の教祖である事を、彼女に伝えた。

 彼女はその男に、全ての悩みを打ち明けた。

 受験が怖い事、母と喧嘩してしまった事、仲直りがしたい事。

 包み隠さず全てを。

 すると彼はこう言った。


「精神を鍛えなさい。それがいい。」


 その時の彼女は、その意味を理解出来なかった。

 時が経つにつれてその言葉の真意に気付いた。

 しかし、その時にはもう全てが手遅れだった。

 彼女は気付けなかった。

 それが彼女の罪であろう。

 彼女は教祖に聞いてしまった。


「教祖様、よく分かりません。具体的にどうすれば……。」


 すると教祖は言った。


「欲しいのならば差し出さなければなりません。ただ、享受するだけでは人は怠惰に堕ちてしまいます。貴女は何を差し出せますか?」


「全てを。」


 彼女に迷いは無かった。

 それは全て教祖が消してくれた。

 彼女はその短時間の間に、教祖への信仰心を抱いた。


「ならば『正典』の導きに従うのです。」


 教祖がそう言うと、彼女の手にはいつの間にか剣が握られていた。

 不思議とそれを見ていると勇気が湧いてきた。

 彼女は教祖へ感謝をし、その家を出た。


「頑張ってください。私はいつでも見守っています。」


 彼女は家へと帰り、母と顔を見合わせた。

 急に不安が押し寄せて来たが、その手に握る剣を思い出した。

 彼女はそれがどんな『能力』なのかは知らなかった。

 けれども発動の仕方は理解していた。

 してしまっていた。

 勇気を貰う為に。

 空から降ってくる月を見た時、彼女は己の『能力』を完全に理解した。

 どちらかは自殺しなければならない。

 自分の巻いた種は自分で回収しなければならない。

 彼女はそう思い、最期に母親と仲直りしようとした。

 彼女は涙に濡れた顔を母親へと向けた。


「おか、おかあ、さん……、これどっちかが自殺し、しないと止まら、ないっぽい、から……。あの……ね、育てで、ぐれ、で、ほんどうに……。」


 ありがとう、その言葉が言えればどれ程良かっただろう。

 彼女の母親はそれを言わせなかった。

 言わせたら、彼女は死んでいただろうから。

 そうなる前に、持っていた包丁で自身の喉を裂いた。


「……え?」


 彼女の視界はスローモーションになったかのようだった。

 ゆっくり、母親は倒れ込む。

 死んだ、その事実に気がつくのに、一体どれだけの時間を使ったのだろうか。

 月は見えなかった。


「お母さん!!」


 彼女は母親の死体に駆け寄った。

 母親はよく笑う人だった。

 父親が居らず、自分が働いて家族を養っている時も、笑顔だった。

 辛くても、苦しくても、いつでも笑顔を絶やさなければいつか幸せになれると信じていたから。

 オリヴィアが母親と喧嘩した理由は、そこにあった。

 彼女が入試の事で悩んでいる時でも、母親は笑顔で彼女の悩みを聞き入れた。

 彼女は一緒に悩んで欲しかった。

 彼女が辛くて泣いている時は、笑顔で慰めるのではなく、一緒に泣いて欲しかった。

 けれども、そうではなかった。


「なんで……気付けなかったんだろう……。」


 母親は、泣いていた。

 いつも心の中で泣いていた。

 気丈に振舞っていても、父親が死んだときも、仕事をしている時も、オリヴィアが泣いている時も、いつも泣いていた。

 彼女の母親は、最期の時になって漸くその感情を見せた。

 母親は、泣いていた。

 もう彼女を見ることのない両目から、涙が流れていた。

 それが何の涙なのか、彼女には分からなかった。


「死んだか。」


 教祖が現れた。

 その雰囲気は先ほどとは異なり、高圧的であった。


「さて契約通り、母親とは仲直り出来たようだな。大学の心配も必要がない。もうお前の全ては俺の物なのだから。そう言う風に、『正典』に刻まれている。」


 その日、彼女は母親を殺し、自分を失った。

 死が彼女を絶望させる事は無くなった。

 『Lunatic Sword』は彼女の望み通り、勇気を授けた。

 彼女は過去に絶望している。

 その目が未来を見据える事はない。

 だからこそ、人を自殺に追いやる度に過去を想うのだ。

 死ぬ事以上の絶望を知る彼女は、あらゆる事に絶望しない。

 それは勇気と言えよう。





 月が消えていく。

 いつも通りだった。

 彼女にとってそれは日常的な風景だった。

 橘 愛美が死んだのだから、それは当然の出来事だ。


「さてと、仕事はしようかね。こいつは『龍の逆鱗』を持ってるようだし、さっさと回収しちまうか。」


 彼女は橘 愛美の死体へと向かった。

 頭から血を大量に流し、うつ伏せに倒れていた。

 その顔が見えない事に彼女は安堵し、死体の近くにしゃがみこんだ。


「ん?」


 そこで、違和感に気づく。


「地面が……、消えていく……!?」


 辺りの風景が変わっていく。

 屋外から屋内へと。

 本当に月は消えたのか?

 彼女の意識はその問いを呟いたすぐ後に消えた。





 私はゆっくりと起き上がる。

 しかしすぐに扉へと向かい、空を見た。

 そこには青空があった。


「あ、危なかった……。」


 屋内へ戻ると、オリヴィアと父の死体と、キョトンとした顔の『死神』がいた。


「説明が欲しいのだけれども?」


「いや、その前に吸血鬼だ! まだ一体は殺せていない!」


「あ、そう言えば愛美ちゃん、さっき扉開けてたわね。」


「え?」


「あ。」


 ドラゴンフライは大きくため息を吐いたが、諦めたかの様に近くの椅子に座った。

 恐らく吸血鬼は逃げてしまったのだろう。


「じゃ、説明してくれよ。」


「分かりました。」


 私はオリヴィアと言う敵と戦ったことと。

 そして彼女の『能力』はどちらかが自殺するまで終わらない事を説明した。


「ちょっと待って。じゃあ、どうやって抜け出したのよ。見る限り、どっちも自殺してな……、ああそう言うことね。」


 どうやら気付いたようだ。

 私は彼らにメッセージを送っていた。

 ノウリョクヲカイジョセヨ、と。

 彼女の『能力』に私では対処出来ないと諦めた時から。

 『H2O(エイチツーオー)』の水弾で文字を書き、それを発射していたのだ。

 『死神』が何故『能力』を解除したかは謎だが、あの時は月が落ちていた。恐らくそれを見て危機感を持ったところに丁度行ったのだろう。

 そして私の予想では、あの空間は外と隔絶されている。

 ならば、『能力』を解除すれば月は内側に取り残されるだろうと言う算段だ。

 そして私は死んだふりをして、待ったのだ。


「……待って。……オリヴィアの……『能力』は……時間を……戻せる。……どうやって……メッセージを……送ったの?」


「私の『能力』で発射された水は、私が解除しない限り、同じ方向に同じ速度で飛んでいきます。例え時間が戻っても、進んだ分が戻ったりする事はありません。……本当に出来るかは、賭けでしたが。相性が良かったですね。」


 運が良かった。

 ここのところ、付いてると思うことが多い様に思う。

 運が良くて困ることは無いが、より戻しが怖い。


「でも、良く死に続けて発狂しなかったわね。」


「ああ、私は死んだ記憶が無いので。」


「えっ?」


「死ぬ前に認知機能をボロボロにして死んだ事を認知出来ないようにしたんです。」


 どちらかと言うと、初めて人を殺した事実の方に狂いそうだ。


「お、恐ろしい子ね……。」


「それで? これからどうするつもりだ?」


 ドラゴンフライはこちらをしっかりと見た。

 私は鞄から『龍の逆鱗』を取り出した。


「これを差し上げます。命のお礼です。」


「俺達の目的は人類の滅亡だ。お前のやってる事は死を早める行為だぞ。」


「では、次にあった時にでも返して貰いますね。」


「ちっ……。駄目だ、施しは受けない。だが、等価交換ならいい。」


 ドラゴンフライは彼の持つ『龍の逆鱗』を取り出した。


「これは吸血鬼の持っていた物だ。そして奴は死んじゃいない。必ずいつか襲われる。そっちのは多分安全なんだろう? 危険な『龍の逆鱗』と、安全な『龍の逆鱗』でトレードだ。それでチャラだ。」


「あなた方は私を殺して奪えるでしょう? 等価交換ではありません。私が得をしすぎます。」


「いいんだよ。どうせお前がそこの秘書を殺していなかったら、俺らがそいつと戦う羽目になっていた。だから、これでいい。」


「……分かりました。」


 私は彼の持つ『龍の逆鱗』に触れた。

 その瞬間、『龍の逆鱗』は緑色の光を放った。


「んなっ! これは、まさか!」


 光が収まる。


「前に触った時もこんな感じで、眩しいですよね。」


「おい、お前。橘 愛美って言ったよな。」


「はい? そうですけど……。」


「愛美ってどういう漢字を書くんだ?」


「愛情の愛に、美しいですけど、それが何か?」


 ドラゴンフライはしばらく考え込んだが、それが終わると胸糞が悪そうな顔をして言った。


「お前は多分、『龍の卵』だ。もう名前からして、そうだ。」


「なんですか? それ。」


 『龍の卵』という単語には、私だけでなく『死神』の他メンバーも分かっていなさそうだった。


「それは『龍力適合体質』ともいえる。本来その体質の人間は、天文学的な確率でしか生まれない。俺も仕組みはよくわかっちゃいないが、その体質の人間は『龍の逆鱗』を所持すると、何かしらの『能力』を得られるそうだ。今お前は『能力』を獲得したはずだ。」


 そう言われて漸く気付いたが、私の中にもう一つの『能力』が目覚めていた。

 しかし、『H2O(エイチツーオー)』は消えている様に感じた。

 これは先ほど、持っていた『龍の逆鱗』の所有権を譲渡したからだろう。


「はい、どうやらそのようですね。『H2O(エイチツーオー)』も消えています。」


「じゃあ、お前が『龍の卵』だってのは確定だな。」


「……待って。」


 その時、フェニックスが声を上げた。


「……なんで、……リーダーは……そんなに……辛そうなの?」


「……さっきも言ったが、『龍の卵』は奇跡的な確率でしか生まれない。だが、()()()()それを再現することはできる。」


 まさか私は……。


「橘 愛美、お前は恐らく人造人間……、いや、改造人間だな。」


「マジですか。」


「マジだ。」


 マジか……。


「……まあ、別に困らないしいいか。」


「いいのか。」


 案外なんともなかった。

 アイデンティティが崩壊するかとも思ったが、死ぬよりもショックが少なかった。


「はい。でも私を作った奴は殺します。絶対に碌でもないですし。」


「ああ、奴らは人体実験を繰り返している。胎児の内に改造してるそうだ。」


「知っているんですか?」


「そいつらの名前は『愛の果実』だ。」


「うーわ。」


「そこでだ。お前、俺たちと一緒に旅をしないか?」


 ドラゴンフライは奇妙な提案をしてきた。


「『龍の卵』は『龍の逆鱗』のレーダーにもなるんだ。自然と引きあっていく。『龍の逆鱗』は『龍の卵』に寄生しようとする。」


「人類の滅亡に加担しろと?」


「いや? そうだな……例えば手に入れた『龍の逆鱗』はお前と『死神』で半分ずつ所有する、とかな。」


「なるほど……そして全ての『龍の逆鱗』が揃った暁には争奪戦をすると。」


「ああ、そうだ。いい提案じゃないか? 他にも『龍の逆鱗』を集めようとする奴らはいる。『愛の果実』とかな。そいつらからも守れるかもしれないぞ。」


 私は人類滅亡が早まる可能性と、人類滅亡を防げる可能性を天秤にかけた。

 そして、決めた。


「いいですよ。乗りましょう、その提案に。」


 私はポケットからスマホを取り出した。

 学校への欠席連絡と、ユキネさんやマナミさんに事情を伝えようとしたからだ。


「あっ……スマホ壊れてる。」


 スマホが壊れていた。

 いつ壊れたのかは分からない。


「あの……一回日本に帰ってもいいですか? 旅にでる旨を伝えないと。」


「悪いが……これは争奪戦なんだ。他にも『龍の逆鱗』を狙っている奴らがいる。『MFC』だって、どこへでも一瞬で到着できるわけじゃない。」


「そう……ですよね……。」


 無断欠席はどうなのだろうか。

 高校卒業できるのだろうか。

 いや、さっさと見つけてさっさと帰ればいい。

 それにあとひと月半もすれば夏休みだ。

 高校は1/3以上休まなければ留年にならないはず。

 二人には事情を伝えられないが、まあ……なんとかなるさ。

 私は無理やり自分を納得させた。

 人類滅亡よりはましだと。


「……行きましょう。行ってやりますよ!」


「おお! じゃあ、よろしく!」


「……よろしく。」


「よろしくお願いするわ。」


「よろしく。」


 私は彼らの旅に同行することになった。





 ニューヨークの下水道に、2人の男が居た。

 一人はボロボロの服で、小さな段ボールを下敷きに座っていた。

 いかにもホームレスといったような風貌であった。

 もう一人は仕立てたばかりのスーツを身にまとい、銀色に輝くアタッシュケースを右手に持っていた。

 彼は、左手に着けた高級そうな時計を見ていた。


「そろそろか。」


 彼がそう呟くと、彼の背後にあった下水の中から男が出てきた。


「時間ぴったりぃだろ? ぴったりぃだよな?」


 その男はダイビングスーツのような服を着ていた。


「ぴったりだ。」


 スーツの男がそう言うと、下水から出てきた男は歓喜の声を上げた。


「ぴったりぃはいいぃぃぃ!!」


「おいロバート、こいつに構うな。」


 ホームレス風の男は、スーツの男……ロバートに文句を言った。


「こいつはイカれてるんだよ。ほっとけ。」


「はぁ……カーター、お前は少しデクランに厳しすぎるぞ。」


「そうだぞ、カーター。オレはイカれてなんか、ない。その言葉はオレにぴったりぃじゃ、ない。」


「……イカれてはいるが、それでも仲間なんだから協調性を持て。」


 デクランはロバートとカーターを見た。


「オレってもしかし、て、イカれてる?」


「そうだぞ、気付いて無かったのか?」


「ソウか。じゃあイカれてるってのはぴったりぃ、だな!」


 カーターはロバートを見て、肩を竦めた。


「……はぁ、まあいい。作戦会議を始める。」


「作戦会議って言ってもよ、『情報屋』が言うには吸血鬼が居るっぽいじゃん。それ探すだけじゃね? 」


「馬鹿か? お前。デクランのこと言えないぞ。」


「流石にこいつと比べらるのは酷くねぇか? 」


 デクランは首から下の体を下水に浸けていた。


「俺はこいつが薬中なんじゃないかって疑っているよ。()()()こうだったのか?」


「そんなことはどうだっていい。カーター、俺達は戦闘向きじゃない。だから吸血鬼とは戦わない。お前が探すのは吸血鬼を倒した人間だ。」


「わぁってるよ。」


 カーターがぶっきらぼうにそう返事をすると、ロバートは眉を顰めた。


「じゃあ、さっさとしろ。」


「ちっ、早まるんじゃねぇよ。既に見つけた。」


「何っ? それを早く言え!」


「どこに、い、る?」


「ここの上だ。」


 カーターは上を指した。


「はぁ、何でお前は言うのが遅いんだ。」


「俺は情報が確定するまで言わない主義なんだ。それにデクランは行動が早すぎるがな。」


 その言葉でロバートが辺りを見回すと、既にデクランは居なかった。


「クソッ、このチームはどうしてこう、協調性が無いんだ! これだから()()()()()()も嫌いなんだ!」


「へへっ。まあ、お互いに一人の方が動きやすいだろ。俺も一人で行かせてもらうぜ。」


 カーターはそう言うと、泡になって消えた。


「……仕方がないか。」


 彼は下水道の奥へ向かい、少し離れた場所から地上に出た。





「おかしい。」


 藤原 雪音はそう呟いた。

 そこは耀苑高校の校舎裏。

 彼女は一人でそこにいた。


「おかしい。」


 彼女は再びそう呟いた。

 彼女はその異変を確認した。


「メグちゃんが約束をほっぽり出す訳が無い。」


 彼女は橘 愛美と前日に約束をしていた。

 明日話し合おう、と。


「何かが、あった。間違いなく、あった。」


 藤原 雪音は気が付いた。


「メグちゃんは誘拐された。」


 死んだとは思わない。

 絶対に思いはしない。

 彼女は一人で戦う覚悟を決めた。


「誘拐犯を捕まえて、ぶち殺す。」


 彼女は橘 愛美を探す。

 何が何でも。





 耀苑町の一角に、大きな屋敷があった。

 そこにはリムジンが止まっており、これから乗せる主人を待っていた。

 そして、その屋敷の扉が開いた。


「お嬢様、どうぞこちらへ。」


 そこから出てきたのは、耀苑高校の制服に身を包んだお嬢様と、お付きのメイドだった。


「感謝感激雨霰ですわ~。流石ですわ~、リーン。」


「いえ、それよりも任務は覚えているのですか?」


 お嬢様は目をパチクリとして、メイドに言った。


「そんな物は無いのですわ~。まったくリーンったら、ですわ~。」


「『龍の逆鱗』を探す事、それが教祖様からの指令です。」


「そんな事もあった様な気がしますわ~。」


 メイドはお嬢様を睨んだ。


「分かっているのですか? お嬢様が失敗すれば一族全員が殺されるのですよ?」


「分かっているのですわ〜。」


 彼女らはリムジンに乗り込んだ。


「と言うか、どうしてリムジンなんですか!? 目立つでしょうが!? これは潜入工作なんですよ!?」


「上流階級の流儀ですわ~。」


「意味わかりません!」


 彼女らが乗ったリムジンは、耀苑高校へと向かった。

 『龍の逆鱗』を狙っているのは彼女らだけではない。

 藤原 雪音は橘 愛美を助ける為に、様々な陰謀に首を突っ込むだろう。

 その時は、刻一刻と迫ってきている。

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