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正典  作者: 大自然の暁
プロローグ
3/18

河童 2

 落ちてくる河童を見ながら、藤原 雪音は立ち上がった。


「怪我の治療は終わった。これで心置きなく河童をぶち殺せる。」


 河童は彼女の方をぎょろりと見ると、大きく口を開いた。

 そしてその口から大量の水が溢れ出た。

 

「……まだ隠し玉を持っていたか。」


 河童はそのまま着水し、そのまま消えた。

 足元はすべて水溜まり、逃げ場はなく、橘 愛美が上空から帰ってくるのには時間がかかる。


「私から殺そうってのか。ま、メグちゃんに向かわれるよりもいいか。もぐらたたきなら得意だしね。」


 彼女は『U・F・O(ユーエフオー)』を構えさせ、周囲を警戒した。

 その時、彼女は視界の端に、何かが出てくるのを見た。

 それは銃だった。ただの銃ではない。

 

「これは! 本で見たことがあるッ!」

 

 その銃身は細長く、妙に古めかしい装飾がなされている。

 引き金の辺りには彼女の知らない機構がついていたが、おそらく銃を撃つためのものだろうと容易に推測できた。

 日本には16世紀中頃に伝来してきた銃であり、それを撃つ為の構造からこう呼ばれている。

 

「火縄銃だッ!」


 火縄銃の銃口は藤原 雪音の頭部に向いており、それを防ぐため『U・F・O(ユーエフオー)』に体の正面を守らせた。

 水に濡れている火縄銃では撃てないことに彼女が気づいた時、河童はすでに彼女の背後にいた。

 河童は左腕だけ水の中に浸けた状態だったが、水から手を引くと同時に、火縄銃を引っ張り出した。

 そのまま火縄銃で彼女の頭を殴った。

 彼女はギリギリで防御することができた。

 しかし、無理に防御したせいで体勢が崩れてしまった。

 河童はその隙に彼女の足を掴もうとした。

 その瞬間に彼女は『U・F・O(ユーエフオー)』で自分の体を空中に殴り飛ばした。

 

「ぐっ……だがこの程度大したことじゃない。」


 河童は足元の水を上空へと投げ、そのまま姿を消した。


「っまずい! 上から来る!」


 空中へと投げられた水滴はそのまま上昇を続けた。

 しかし、その全ての水滴から銛が現れた。


「分かっているんだよ! 上に注意を引いてから引きずり込もうとしてるってことは!」


 彼女の足元から河童の左腕が現れた。

 それを予期していた彼女は瞬時に『U・F・O(ユーエフオー)』で足元を殴った。

 しかし、空中で繰り出されたパンチは地上の時ほどの威力がなく、河童は深手を負う前に水中へと潜っていた。


(河童のパワーはそこまで高くない。だからこそあいつは私を水中へ引きずり込もうとするだろう。そこが勝負の決め所だ!)


 彼女は地面に着地するのと同時に、上から降ってきた銛が彼女を襲った。

 食らってしまえば馬鹿にできないダメージとなる。

 しかし、防御をすれば水中へと引きずり込まれる。

 二つに一つの選択。

 彼女は銛を防御する方を選んだ。


「防御をすれば引きずり込まれる。逆に言えば防御をすれば奴を誘き出せる。」

 

 その時、河童の右腕が彼女の足に触れた。

 

「来たっ! 学ばないな、この阿呆め! 『U・F・O(ユーエフオー)』、ぶち殺せ!」

 

 予想に反してその拳による被害は地面を殴るだけに止まった。

 正確に言うならば地面と右腕のみだった。


「まさか……。」


 彼女は自分の足に触れたそれを見て、青ざめた。右腕が落ちていた。

 落ちていたのは()()だった。

 

「これは右腕だ! 今の河童に右腕はないはずなんだ! 腕が外れて外に落ちているはずなんだ! さっき河童が自分で千切ったはずなんだ!」


 河童は上からやってきた。先程投げた水滴が落ちてきたのだ。

 河童はその水滴から左腕を出した。

 そのまま彼女の左腕を掴んだ。

 確かな『U・F・O(ユーエフオー)』の物ではない、生身の肉体を掴んだのだ。


「まずい……、引きずり込まれる! そうなったらおしまいだ!」


 既に河童の左腕は水中に入り込んでおり、彼女の左腕も既に手首まで浸かっていた。

 彼女は引っ張られていく自分の左腕を見て、覚悟を決めた。

 

「クソッやるしかない……やってやるんだ! 河童の野郎にも出来たんだ! やってやるぞおお!」

 

 彼女は『U・F・O(ユーエフオー)』で自身の左腕を切断した。

 大量に出血し、辺りは血で染まった。

 『U・F・O(ユーエフオー)』の左腕もその影響を受けて切断された。


「グッ……クソッ河童め……絶対にぶっ殺してやる。」


 だが、彼女は勝利の活路を既に見いだしていた。

 血だった。血が彼女を助ける活路となった。

 彼女は切断した左腕を水に浸けた。

 

「水よりも血液の方が僅かに重い。だから本来血液は水に沈む。だが、一時的に水の表面を覆うくらいならできる。こいつは空間がないと水からものを出すことができない。血液で水の表面を覆えば、やつの出現場所を絞る事ができる。」


 彼女の背後にある水が波立った。


「来た!」

 

 彼女は『U・F・O(ユーエフオー)』を構え、河童の出現を待った。

 瞬間、突風が吹き荒れた。

 いや、()()()()()()()()()()()

 血の蓋など無駄だと言うように、血は流れていった。


「なっなんだこれは! 風の『能力』まで隠していたのか!?」

 

 彼女はその風の違和感に気づく。

 その風は制御されているようには見えないのだ。

 ぐるぐると小さな竜巻の様になっているだけだ。

 

「まさか! これは渦か! 水中で渦を作って、その回転エネルギーだけを水中から出したのか!」

 

 風により、空気中に水滴が舞い上がった。

 四方八方に水滴が散らばり、風に乗って空間を移動していた。


「こ、これじゃあもうわからない……。全方位警戒するなんて不可能だ……。」


 どこから出てくるか分からない以上、彼女には1つの選択肢しか残されていなかった。


「触られた一瞬だ。触られたところを殴るんだ!」


 彼女は全神経を研ぎ澄まし、河童が彼女を引きずりこもうとする一瞬を狙った。

 彼女の背後から3本の銛が飛んできた。

 その全てを『U・F・O(ユーエフオー)』で弾き飛ばした。


(来る……。)

 

 彼女は予感した。

 河童ならば必ずこの隙を狙うと。

 そして彼女の肌に、何かが触れるのを感じた。

 1つ目は首に。

 2つ目は右腕に。

 3つ目は左足に。

 

(三方向!?)


 3つの腕が彼女に触れた。しかし彼女は直ぐに気が付いた。


(さっき千切った私の左腕か! ふざけやがって!)


 河童は先ほど千切られた藤原 雪音の左腕を使ったのだ。

 彼女は鱗の生えている左腕を探った。

 

(首に触ったのは鱗の無い左腕だ。これは私の左腕、つまりフェイク。)


 河童の狙いは彼女の首ではなかった。


(右腕に触ったのは鱗のある右腕だ。千切られた河童の右腕、これもフェイクか。)


 河童の狙いは彼女の右腕ではなかった。


(足だ! 左足に触っている方が河童の左腕、つまり本体だ! 間違いない!)

 

 彼女は地面に向かって全身全霊を込めて『U・F・O(ユーエフオー)』の拳を振るった。

 そこにあったのは引き千切られた河童の()()だけだった。

 

 「え?」


 河童の狙いは彼女の左足でもなかった。

 彼女の真上から口を大きく開いた河童が迫っていた。

 その両腕は付いていなかった。

 河童は自身の左腕を引き千切り、罠としたのだ。

 すべてがフェイクだったことに気づいた彼女は死を覚悟した。


「これは……死ぬ……。」

 

 河童の口が彼女を引きずりこもうとしたとき、その頭を雨が打ち抜いた。

 

「危機一髪でしたね。」

 

 それは橘 愛美の水弾だった。


 



 本当に危機一髪だった。僅かに遅れたり、水弾を外したりすれば、彼女は水中へと引きずり込まれていただろう。

 

「メグちゃん、ありがとう!」


「どういたしましてと言いたいところですが、まだ危機は去っていないようですね。」

 

 河童は地面に転がり落ちたが、そのまま水中へと潜った。


「くそっまた逃げられた!」


「大丈夫です。」


 私は『H2O(エイチツーオー)』で周りの水を全て吸い尽くした。


「これで奇襲は封じました。」


「さっすが~!」


「恐らくは外からしか入れないので、外を警戒しましょう。」


「オッケー!」


 私たちは窓へ向かった。

 しかしそこへたどり着く前に、河童は近くの、別の水源から現れた。

 私の雲だ。

 この雲は河童の水からできた雲だ。

 だからこそ、ここから出ることが出来たのだろう。


「そう来ると思っていた。」


 河童は雲から出てきた。

 ならば、雲の至近距離に河童がいるということ。


「両腕の無いお前は口で攻撃するしかない。ここなら狙うまでもなく撃ち抜けるぞ! お前の脳天をな!」


 河童は水弾から逃げるために、更に体を引き出した。


「それは悪手だよ! 『U・F・O(ユーエフオー)』!」

 

 ユキネさんは河童を水のない場所へと殴り飛ばした。

 

「死ね、河童。」

 

 そして、ユキネさんは『U・F・O(ユーエフオー)』で殴った。何発も何発も殴った。

 

「おらっ、死ね! 地獄へ落ちろ! クソがっ! よくもメグちゃんに手を出してくれたなっ!」

 

 残ったのはグチャグチャになった肉の塊だけだった。

 

「終わり……ましたね。」

 

「終わっね……。」


 二人とも同じ気持ちだった。

 

「「疲れた……。」」


 どっと疲れが押し寄せて来た。立っているのも辛いほどに。


「メグちゃんはどっか怪我して……」

 

 ユキネさんはこちらを向き、驚いた。


「メグちゃん!? お腹どうしたの!?」

 

「ああ、この銛はさっき河童に貫かれましてね……。というか今気づいたんですね……。」

 

「どっどうしよう……。『U・F・O(ユーエフオー)』じゃあ自己再生しかできないし……。」

 

「死ぬかもしれませんね。」

 

「だめ! それは絶対にだめ! 何か……あるはず……。」


 ユキネさんは真剣な目でこちらを見た。


「『U・F・O(ユーエフオー)』で治す。」


「自己再生しかできないのでは? 」


「いーや、できる。自分を治せるなら、他人も治せる!」


「暴論過ぎませんか?」


 ユキネさんは『U・F・O(ユーエフオー)』で銛の先端を折り、慎重にお腹から抜いた。そして『U・F・O(ユーエフオー)』の手を私のお腹と背中に押し当てた。

 そのままどれだけの時間が経っただろうか、だんだんと痛みも消えていった。

 

「ユキネさん……。」


「うん……、治ったと思う。まさか本当にできるとは……。」


「次はユキネさんの腕ですね。」


 ユキネさんは自分の腕を拾い、元あった場所に押し当てた。

 しばらくすると、元通りに戻った。


「やっぱり自己再生の方が早く終わるね。」


「そうですね。」


「ってか思ったんだけどさ。」


「何ですか?」


「私が治すんじゃなくて、救急車呼んで現代医学様に治してもらった方が良かったのでは? 」


「あー、まあ治ったので良しとしましょう。」


「そっか。」


 私はユキネさんに向き直った。


「ユキネさん、すみませんでした。」


「えっなにが?」

 

 ユキネさんは急に謝られて驚いているようだ。けれども言わなければならない。

 こんなことになったのは私のせいなのだから。


「今回、私たちが生きていたのは幸運です。」


「そうだね。」


「幸運だっただけです。」


「…………。」


「もし、ユキネさんが死んでしまっていたら、それは私が巻き込んだせいです。」


「…………。」


「私がユキネさんに話していなければ、こんな危険なことをせずに済みました。」


「メグちゃん。」


 ユキネさんはまっすぐに私の目を見た。


「メグちゃん、それは違うよ。」


「ですが……。」


「メグちゃんはさ、私が死んだら悲しい?」


「もちろんです。」


「そう? うれしいな。けどね、それは私も同じ気持ちなの。」


「…………。」


「メグちゃんが死んじゃったら悲しいし、なんとか出来なかったのか、って自己嫌悪すると思う。」


「…………。」

 

「今回生き残れたのは幸運だって言うけどさ、それは家の異常を私に話したことも含まれると思うよ。」


「…………。」


「私とメグちゃんの二人がいたからあの河童は倒せた。」


 ユキネさんは超自然的な笑顔を浮かべた。美しく、幻想的な笑顔だった。

 ユキネさんは私の手を握った。


「つまり、友情の勝利ってことさ!」


 私の友人は相変わらずポジティブで、あっけらかんとしていた。

 

 そして……かっこよかった。





 私たちはボロボロになった家を見ながら、門の前に立っていた。


「メグちゃん……これどうするの?」


「あとで父に連絡しておきます。」


「今日はどこで寝泊まりするの?」


「少し先に別荘があるので。」


「え? 自宅の近くに別荘があるの?なんのために?」


「さあ……、でも無駄なものなんてないんですよ。今こうして役に立っているのですから。」


「す、すごいね……。」


 備えあれば患いなしという諺はこういうことなんだな。

 さすが、先人の知恵は役に立つ。

 

「良ければ今から泊りに来ますか?」


「え? いいの? あ、でも着替えがない……。」


「そのくらい貸しますよ。」


「やったー。」


 私たちは別荘へと向かった。いつの間にか日は暮れていたが、雨は依然として降っていった。

 別荘へと着いたので、私はユキネさんをお風呂まで案内した。


「お風呂を出たら夕飯にしましょうか。」


「メグちゃんは入らないの?」


「私は夕食の用意があるので……。」


「一緒に入ろうよ~。ご飯も一緒に作ればいいし。」


「で、ですが……。」


 私は断ろうとしたが、彼女に根負けし、結局一緒に入った。

 お風呂から出ると、夕食の用意をした。夕食にはカルボナーラを作った。

 夕食を食べ終わり、片付けも済んだので、二人で話していた。

 その時、緑色の宝石についての話になった。

 

「ねえ、メグちゃん。この宝石何なんだろうね。」


「さあ……、先生たちが探しているということしか分かりません。」


「でも、メグちゃんはこれを触ったから、『H2O(エイチツーオー)』に目覚めたんだよね?」


「おそらくそうです。ただ、あの時は死に物狂いだったというか、あんまり覚えていないんですよね。」


「んー、やっぱり怪しい……。」


「問題はこれをどうするか、ですよね。」


「うん、先生に渡すか、私らで隠し持つか。」


「とりあえずは保留ですかね。」


「そうだねぇ、触れば能力が発現する宝石なんて価値が高すぎるし、世界中にこれを知っている人が何人いるかも分からない。情勢が分かるまでは隠しておきたいな。」


 宝石の件は隠しておくということで意見が一致したところで、私たちは眠ることにした。




 

 次の日、いつもとは少し違う道のりで登校した。

 もちろんユキネさんと一緒に。

 ユキネさんを起こすのには苦労した。

 まず、寝相が悪い。


「ふぁ……眠い……。」


「しゃきっとしなさいな。」


「うん……。」


 学校に着き、ユキネさんと他愛もない話をしていると、マナミさんがまだ来ていないことに気が付いた。マナミさんはユキネさんとは違い、遅刻ギリギリだったことなど一度もなかった。

 先生が入って来てもまだマナミさんは来ていなかった。

 だんだんと心配になってきたが、ホームルームの始まる直前になってようやくやってきた。


「なんだ? 真瀬、お前がこんなギリギリなんて珍しいじゃないか。」


「ご、ごめんなさい……。」


「まあいい、ホームルームを始める。」


「せんせー、私が遅刻した時と態度違くないですかー?」


「藤原、これが普段の行いの差だ。」


「ぐっ……。」


「まあいい、連絡事項は3つだ。帰りのホームルームがないこと。そして明日から転校生が来る。」


 転校生が来る。

 先生は何でもないように言った。

 

「せんせー! 明日からって本当ですか!?」


「ああ、どうにも急にそのことが決まったらしい。」


 クラス中にどよめきが広がった。

 こんな6月の初めに転校してくるなんて普通じゃない。しかも急に決まったことだと来た。

 あやしい転校生。

 緑色の宝石と関係があると疑うのは考えすぎだろうか。

 私はユキネさんと目が合う。

 

「あとは体育の田辺先生が事故に遭い、入院中だ。明日から臨時の先生が来る。じゃあホームルームを終わる。」


 先生が去ると、皆ががやがやと話し出した。

 私も、マナミさんとユキネさんとで話した。


「急に人が変わる。あやしいね……。」


「それはそうですが、考えすぎな気もします。」


「二人ともどうかしたの?」


 何も知らないマナミさんを不安がらせるわけにもいかず、私は話題を変えることにした。


「いえ……、それより、マナミさんが遅刻しかけるなんて珍しいですね。」


「確かに! なんかあったの?」


「ううん、大したことじゃないの。実はさっき、兎さんを見かけたの。」


「え?この住宅街で?」


「うん、私も気になって追いかけてら、遅刻しかけたの。」


 明らかに奇妙だ。

 急な人の入れ替わりに兎。

 奇妙なことが立て続けに起こるのは偶然だろうか。


「その兎さんは結局どうなったんですか? 」


「えっとね、どこかから脱走しちゃったのかな?って思ったから、とりあえず捕まえて、学校の先生に預けたの。」


「なるほど……。」


「ってことは兎に会えるかもしれないじゃん! テンション上がってきた!」


 転校生、臨時講師、そして兎。これからどうなっていくのだろうか。

 嫌な予感がした。





 とあるカフェに、4人の男女が集まっていた。

 彼らはお互いに初対面で、先ほど路地裏で自己紹介したばかりだ。彼らはSNSで繋がり、そこから会うまでに至った。

 彼らの座っている席は店の角にある席で、男女2人ずつ座っている。

 全員が注文を終えると、明かるげだがどこか記憶に残りにくい男が話しだした。その男は全身黒い服を着ていて、無駄にポケットが多い。

 彼はここの会計を自分が払うことになり、懐の寒さと無職の厳しさを感じていた。


「よしっ! じゃあ皆の『能力』は把握したし、作戦会議といこうか!」


 彼の名はドラゴンフライ。

 彼らが路地裏で自己紹介をしたのはお互いの『能力』を見せるためだった。


「とりあえず確認だが、『龍の逆鱗』について知っている奴はいるか?」


「……知ってる。」


「ああ。」


「もちろん知ってるわ。」


「よし、全員知ってるなら問題ないな。」


 そこでドラゴンフライの対面に座っている女が手を挙げた。


「1ついいかしら?」


「なんだ?キャッツスター。」


 彼女の名はキャッツスター。

 彼女はレディースのスーツを着ており、まさに仕事帰りかのような雰囲気を醸し出していた。顔には眼鏡をかけていて、その奥に見えるつりあがった目尻は他者に高圧的だと思われる。ドラゴンフライがカフェ代を払うことになった元凶である。


「わたしはあんまり詳しいところまでは知らないわよ? 妖怪に守られてるってことくらいよ。」

 

「それで十分だ。コアしか無いと思ってなきゃいいんだ。」


「……破片の……位置は……知ってるの?」


 次に質問をしたのはキャッツスターの右隣に座っている女だった。

 彼女の名はフェニックス。

 その黒髪をツインテールにし、フリルのついた服を着て、足にはガーターベルトと、彼女はいわゆる地雷系ファッションと呼ばれる格好をしていた。しかし、彼女は地雷系の意味を知らず、ただ可愛いからという理由だけでそのファッションをしている。彼女は高校生であるにも関わらず、カフェ代をしっかりと払おうとしたが、ドラゴンフライが払うことになったので申し訳なさを感じていた。

 

「俺はワームの位置だけ分かるんだがなぁ。」


「ん? いいじゃないの。さっそく行きましょうよ。」


「いや、奴はやめておけ。全長約3000キロメートルの化け物だ。今はサハラ砂漠で暴れている。」


「3000キロ!?」


 キャッツスターは途方も無い数字に目を丸くした。他2人も黙ってはいたが、内心それを諦めていた。


「ま、ワームは別の人間が倒したときに漁夫ればいいさ。だからまずは他の妖怪から倒そう。」

 

 皆が沈黙すると、ドラゴンフライの左隣にいる男が手を挙げた。


「1つ知ってる。」


 彼の名はカメレオン。

 彼は筋骨隆々の巨漢である。Tシャツの上にジャケットを羽織るという簡単な服装で、ズボンは着古したジーンズだった。その背丈は2メートルに届きそうな程大きく、まず間違いなくこのテーブルで一番の存在感を放っていた。彼はカフェ代に関して口を出そうと思ったが、キャッツスターの目が怖くて言い出すことが出来なかった。


「本当か!?」


「ああ、吸血鬼だ。」


「なるほど……まあ悪くない。」


 その時、彼らの注文した飲み物が届いた。

 ドラゴンフライはエスプレッソ、フェニックスはカフェオレ、キャッツスターはカプチーノ、カメレオンはカフェラテだった。

 皆がそれを一口飲むと、キャッツスターは質問した。


「ドラゴンフライ、知ってるの?」


「3体分の妖怪だけは知ってるな。吸血鬼と、ワームと、河童だ。」


「吸血鬼はワームほど理不尽ではない。」


「そうなんだよ。」


「……それは……よかった。」


 フェニックスは心底安心したと言うように一息つき、カフェオレを飲んだ。


「吸血鬼はニューヨークにいるが、おれは詳細な位置を知らない。」


 カメレオンはそこまで言うと、カフェラテを一口飲んだ。


「そうなのね……。」


「ああ。」

 

 キャッツスターは仕方がないか、と思いながらカプチーノを飲んだ。


「吸血鬼はどんな『能力』を持っているの?」


「再生と吸血、これが俺の知っていることだ。」


「おれも同じだ。」


 ドラゴンフライは、カメレオンと吸血鬼についての情報が一致したことで、その情報の信憑性が高くなったことに安心しつつ、エスプレッソを飲み干した。


「結構厄介そうね。」


「……再生。」


「ま、他の連中と比べたら楽な方だろうよ。ただ、詳細な位置が分からんとな……。」


 そこでカメレオンが手を挙げた。

 

「ニューヨークには知り合いが住んでいる。奴に聞けば詳細な居場所が分かるかもしれない。」


「おし!じゃあ早速ニューヨークにいくか!」


「待て。」


「ん? どうした?」


「奴には娘がいる。そいつを誘拐して脅す。」


 カメレオンの発言を聞いても誰一人として眉すら動かさず、それはいい案だと頷いた。


「可哀想だが、俺達の夢の為だな。」


「そうね、犠牲になってもらいましょう。」


 彼らが『龍の逆鱗』を求める理由。

 彼らが『龍の逆鱗』に求める野望。


「是非ともその子には『人類滅亡』の足掛けとなってもらおうか。」


 彼らはSNSで集まった人類の敵。

 1万年以上続いた人類の歴史を消滅させんとする者たち。

 彼らは自らを『死神』と名乗る。


「……その子の……名前は……何て言うの?」


 カメレオンは堅い口を開き、その名前を出した。


「橘 愛美。」


 『死神』の手は橘 愛美へと伸び始めた。

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