河童 2
落ちてくる河童を見ながら、藤原 雪音は立ち上がった。
「怪我の治療は終わった。これで心置きなく河童をぶち殺せる。」
河童は彼女の方をぎょろりと見ると、大きく口を開いた。
そしてその口から大量の水が溢れ出た。
「……まだ隠し玉を持っていたか。」
河童はそのまま着水し、そのまま消えた。
足元はすべて水溜まり、逃げ場はなく、橘 愛美が上空から帰ってくるのには時間がかかる。
「私から殺そうってのか。ま、メグちゃんに向かわれるよりもいいか。もぐらたたきなら得意だしね。」
彼女は『U・F・O』を構えさせ、周囲を警戒した。
その時、彼女は視界の端に、何かが出てくるのを見た。
それは銃だった。ただの銃ではない。
「これは! 本で見たことがあるッ!」
その銃身は細長く、妙に古めかしい装飾がなされている。
引き金の辺りには彼女の知らない機構がついていたが、おそらく銃を撃つためのものだろうと容易に推測できた。
日本には16世紀中頃に伝来してきた銃であり、それを撃つ為の構造からこう呼ばれている。
「火縄銃だッ!」
火縄銃の銃口は藤原 雪音の頭部に向いており、それを防ぐため『U・F・O』に体の正面を守らせた。
水に濡れている火縄銃では撃てないことに彼女が気づいた時、河童はすでに彼女の背後にいた。
河童は左腕だけ水の中に浸けた状態だったが、水から手を引くと同時に、火縄銃を引っ張り出した。
そのまま火縄銃で彼女の頭を殴った。
彼女はギリギリで防御することができた。
しかし、無理に防御したせいで体勢が崩れてしまった。
河童はその隙に彼女の足を掴もうとした。
その瞬間に彼女は『U・F・O』で自分の体を空中に殴り飛ばした。
「ぐっ……だがこの程度大したことじゃない。」
河童は足元の水を上空へと投げ、そのまま姿を消した。
「っまずい! 上から来る!」
空中へと投げられた水滴はそのまま上昇を続けた。
しかし、その全ての水滴から銛が現れた。
「分かっているんだよ! 上に注意を引いてから引きずり込もうとしてるってことは!」
彼女の足元から河童の左腕が現れた。
それを予期していた彼女は瞬時に『U・F・O』で足元を殴った。
しかし、空中で繰り出されたパンチは地上の時ほどの威力がなく、河童は深手を負う前に水中へと潜っていた。
(河童のパワーはそこまで高くない。だからこそあいつは私を水中へ引きずり込もうとするだろう。そこが勝負の決め所だ!)
彼女は地面に着地するのと同時に、上から降ってきた銛が彼女を襲った。
食らってしまえば馬鹿にできないダメージとなる。
しかし、防御をすれば水中へと引きずり込まれる。
二つに一つの選択。
彼女は銛を防御する方を選んだ。
「防御をすれば引きずり込まれる。逆に言えば防御をすれば奴を誘き出せる。」
その時、河童の右腕が彼女の足に触れた。
「来たっ! 学ばないな、この阿呆め! 『U・F・O』、ぶち殺せ!」
予想に反してその拳による被害は地面を殴るだけに止まった。
正確に言うならば地面と右腕のみだった。
「まさか……。」
彼女は自分の足に触れたそれを見て、青ざめた。右腕が落ちていた。
落ちていたのは右腕だった。
「これは右腕だ! 今の河童に右腕はないはずなんだ! 腕が外れて外に落ちているはずなんだ! さっき河童が自分で千切ったはずなんだ!」
河童は上からやってきた。先程投げた水滴が落ちてきたのだ。
河童はその水滴から左腕を出した。
そのまま彼女の左腕を掴んだ。
確かな『U・F・O』の物ではない、生身の肉体を掴んだのだ。
「まずい……、引きずり込まれる! そうなったらおしまいだ!」
既に河童の左腕は水中に入り込んでおり、彼女の左腕も既に手首まで浸かっていた。
彼女は引っ張られていく自分の左腕を見て、覚悟を決めた。
「クソッやるしかない……やってやるんだ! 河童の野郎にも出来たんだ! やってやるぞおお!」
彼女は『U・F・O』で自身の左腕を切断した。
大量に出血し、辺りは血で染まった。
『U・F・O』の左腕もその影響を受けて切断された。
「グッ……クソッ河童め……絶対にぶっ殺してやる。」
だが、彼女は勝利の活路を既に見いだしていた。
血だった。血が彼女を助ける活路となった。
彼女は切断した左腕を水に浸けた。
「水よりも血液の方が僅かに重い。だから本来血液は水に沈む。だが、一時的に水の表面を覆うくらいならできる。こいつは空間がないと水からものを出すことができない。血液で水の表面を覆えば、やつの出現場所を絞る事ができる。」
彼女の背後にある水が波立った。
「来た!」
彼女は『U・F・O』を構え、河童の出現を待った。
瞬間、突風が吹き荒れた。
いや、水の中から風が出てきた。
血の蓋など無駄だと言うように、血は流れていった。
「なっなんだこれは! 風の『能力』まで隠していたのか!?」
彼女はその風の違和感に気づく。
その風は制御されているようには見えないのだ。
ぐるぐると小さな竜巻の様になっているだけだ。
「まさか! これは渦か! 水中で渦を作って、その回転エネルギーだけを水中から出したのか!」
風により、空気中に水滴が舞い上がった。
四方八方に水滴が散らばり、風に乗って空間を移動していた。
「こ、これじゃあもうわからない……。全方位警戒するなんて不可能だ……。」
どこから出てくるか分からない以上、彼女には1つの選択肢しか残されていなかった。
「触られた一瞬だ。触られたところを殴るんだ!」
彼女は全神経を研ぎ澄まし、河童が彼女を引きずりこもうとする一瞬を狙った。
彼女の背後から3本の銛が飛んできた。
その全てを『U・F・O』で弾き飛ばした。
(来る……。)
彼女は予感した。
河童ならば必ずこの隙を狙うと。
そして彼女の肌に、何かが触れるのを感じた。
1つ目は首に。
2つ目は右腕に。
3つ目は左足に。
(三方向!?)
3つの腕が彼女に触れた。しかし彼女は直ぐに気が付いた。
(さっき千切った私の左腕か! ふざけやがって!)
河童は先ほど千切られた藤原 雪音の左腕を使ったのだ。
彼女は鱗の生えている左腕を探った。
(首に触ったのは鱗の無い左腕だ。これは私の左腕、つまりフェイク。)
河童の狙いは彼女の首ではなかった。
(右腕に触ったのは鱗のある右腕だ。千切られた河童の右腕、これもフェイクか。)
河童の狙いは彼女の右腕ではなかった。
(足だ! 左足に触っている方が河童の左腕、つまり本体だ! 間違いない!)
彼女は地面に向かって全身全霊を込めて『U・F・O』の拳を振るった。
そこにあったのは引き千切られた河童の左腕だけだった。
「え?」
河童の狙いは彼女の左足でもなかった。
彼女の真上から口を大きく開いた河童が迫っていた。
その両腕は付いていなかった。
河童は自身の左腕を引き千切り、罠としたのだ。
すべてがフェイクだったことに気づいた彼女は死を覚悟した。
「これは……死ぬ……。」
河童の口が彼女を引きずりこもうとしたとき、その頭を雨が打ち抜いた。
「危機一髪でしたね。」
それは橘 愛美の水弾だった。
本当に危機一髪だった。僅かに遅れたり、水弾を外したりすれば、彼女は水中へと引きずり込まれていただろう。
「メグちゃん、ありがとう!」
「どういたしましてと言いたいところですが、まだ危機は去っていないようですね。」
河童は地面に転がり落ちたが、そのまま水中へと潜った。
「くそっまた逃げられた!」
「大丈夫です。」
私は『H2O』で周りの水を全て吸い尽くした。
「これで奇襲は封じました。」
「さっすが~!」
「恐らくは外からしか入れないので、外を警戒しましょう。」
「オッケー!」
私たちは窓へ向かった。
しかしそこへたどり着く前に、河童は近くの、別の水源から現れた。
私の雲だ。
この雲は河童の水からできた雲だ。
だからこそ、ここから出ることが出来たのだろう。
「そう来ると思っていた。」
河童は雲から出てきた。
ならば、雲の至近距離に河童がいるということ。
「両腕の無いお前は口で攻撃するしかない。ここなら狙うまでもなく撃ち抜けるぞ! お前の脳天をな!」
河童は水弾から逃げるために、更に体を引き出した。
「それは悪手だよ! 『U・F・O』!」
ユキネさんは河童を水のない場所へと殴り飛ばした。
「死ね、河童。」
そして、ユキネさんは『U・F・O』で殴った。何発も何発も殴った。
「おらっ、死ね! 地獄へ落ちろ! クソがっ! よくもメグちゃんに手を出してくれたなっ!」
残ったのはグチャグチャになった肉の塊だけだった。
「終わり……ましたね。」
「終わっね……。」
二人とも同じ気持ちだった。
「「疲れた……。」」
どっと疲れが押し寄せて来た。立っているのも辛いほどに。
「メグちゃんはどっか怪我して……」
ユキネさんはこちらを向き、驚いた。
「メグちゃん!? お腹どうしたの!?」
「ああ、この銛はさっき河童に貫かれましてね……。というか今気づいたんですね……。」
「どっどうしよう……。『U・F・O』じゃあ自己再生しかできないし……。」
「死ぬかもしれませんね。」
「だめ! それは絶対にだめ! 何か……あるはず……。」
ユキネさんは真剣な目でこちらを見た。
「『U・F・O』で治す。」
「自己再生しかできないのでは? 」
「いーや、できる。自分を治せるなら、他人も治せる!」
「暴論過ぎませんか?」
ユキネさんは『U・F・O』で銛の先端を折り、慎重にお腹から抜いた。そして『U・F・O』の手を私のお腹と背中に押し当てた。
そのままどれだけの時間が経っただろうか、だんだんと痛みも消えていった。
「ユキネさん……。」
「うん……、治ったと思う。まさか本当にできるとは……。」
「次はユキネさんの腕ですね。」
ユキネさんは自分の腕を拾い、元あった場所に押し当てた。
しばらくすると、元通りに戻った。
「やっぱり自己再生の方が早く終わるね。」
「そうですね。」
「ってか思ったんだけどさ。」
「何ですか?」
「私が治すんじゃなくて、救急車呼んで現代医学様に治してもらった方が良かったのでは? 」
「あー、まあ治ったので良しとしましょう。」
「そっか。」
私はユキネさんに向き直った。
「ユキネさん、すみませんでした。」
「えっなにが?」
ユキネさんは急に謝られて驚いているようだ。けれども言わなければならない。
こんなことになったのは私のせいなのだから。
「今回、私たちが生きていたのは幸運です。」
「そうだね。」
「幸運だっただけです。」
「…………。」
「もし、ユキネさんが死んでしまっていたら、それは私が巻き込んだせいです。」
「…………。」
「私がユキネさんに話していなければ、こんな危険なことをせずに済みました。」
「メグちゃん。」
ユキネさんはまっすぐに私の目を見た。
「メグちゃん、それは違うよ。」
「ですが……。」
「メグちゃんはさ、私が死んだら悲しい?」
「もちろんです。」
「そう? うれしいな。けどね、それは私も同じ気持ちなの。」
「…………。」
「メグちゃんが死んじゃったら悲しいし、なんとか出来なかったのか、って自己嫌悪すると思う。」
「…………。」
「今回生き残れたのは幸運だって言うけどさ、それは家の異常を私に話したことも含まれると思うよ。」
「…………。」
「私とメグちゃんの二人がいたからあの河童は倒せた。」
ユキネさんは超自然的な笑顔を浮かべた。美しく、幻想的な笑顔だった。
ユキネさんは私の手を握った。
「つまり、友情の勝利ってことさ!」
私の友人は相変わらずポジティブで、あっけらかんとしていた。
そして……かっこよかった。
私たちはボロボロになった家を見ながら、門の前に立っていた。
「メグちゃん……これどうするの?」
「あとで父に連絡しておきます。」
「今日はどこで寝泊まりするの?」
「少し先に別荘があるので。」
「え? 自宅の近くに別荘があるの?なんのために?」
「さあ……、でも無駄なものなんてないんですよ。今こうして役に立っているのですから。」
「す、すごいね……。」
備えあれば患いなしという諺はこういうことなんだな。
さすが、先人の知恵は役に立つ。
「良ければ今から泊りに来ますか?」
「え? いいの? あ、でも着替えがない……。」
「そのくらい貸しますよ。」
「やったー。」
私たちは別荘へと向かった。いつの間にか日は暮れていたが、雨は依然として降っていった。
別荘へと着いたので、私はユキネさんをお風呂まで案内した。
「お風呂を出たら夕飯にしましょうか。」
「メグちゃんは入らないの?」
「私は夕食の用意があるので……。」
「一緒に入ろうよ~。ご飯も一緒に作ればいいし。」
「で、ですが……。」
私は断ろうとしたが、彼女に根負けし、結局一緒に入った。
お風呂から出ると、夕食の用意をした。夕食にはカルボナーラを作った。
夕食を食べ終わり、片付けも済んだので、二人で話していた。
その時、緑色の宝石についての話になった。
「ねえ、メグちゃん。この宝石何なんだろうね。」
「さあ……、先生たちが探しているということしか分かりません。」
「でも、メグちゃんはこれを触ったから、『H2O』に目覚めたんだよね?」
「おそらくそうです。ただ、あの時は死に物狂いだったというか、あんまり覚えていないんですよね。」
「んー、やっぱり怪しい……。」
「問題はこれをどうするか、ですよね。」
「うん、先生に渡すか、私らで隠し持つか。」
「とりあえずは保留ですかね。」
「そうだねぇ、触れば能力が発現する宝石なんて価値が高すぎるし、世界中にこれを知っている人が何人いるかも分からない。情勢が分かるまでは隠しておきたいな。」
宝石の件は隠しておくということで意見が一致したところで、私たちは眠ることにした。
次の日、いつもとは少し違う道のりで登校した。
もちろんユキネさんと一緒に。
ユキネさんを起こすのには苦労した。
まず、寝相が悪い。
「ふぁ……眠い……。」
「しゃきっとしなさいな。」
「うん……。」
学校に着き、ユキネさんと他愛もない話をしていると、マナミさんがまだ来ていないことに気が付いた。マナミさんはユキネさんとは違い、遅刻ギリギリだったことなど一度もなかった。
先生が入って来てもまだマナミさんは来ていなかった。
だんだんと心配になってきたが、ホームルームの始まる直前になってようやくやってきた。
「なんだ? 真瀬、お前がこんなギリギリなんて珍しいじゃないか。」
「ご、ごめんなさい……。」
「まあいい、ホームルームを始める。」
「せんせー、私が遅刻した時と態度違くないですかー?」
「藤原、これが普段の行いの差だ。」
「ぐっ……。」
「まあいい、連絡事項は3つだ。帰りのホームルームがないこと。そして明日から転校生が来る。」
転校生が来る。
先生は何でもないように言った。
「せんせー! 明日からって本当ですか!?」
「ああ、どうにも急にそのことが決まったらしい。」
クラス中にどよめきが広がった。
こんな6月の初めに転校してくるなんて普通じゃない。しかも急に決まったことだと来た。
あやしい転校生。
緑色の宝石と関係があると疑うのは考えすぎだろうか。
私はユキネさんと目が合う。
「あとは体育の田辺先生が事故に遭い、入院中だ。明日から臨時の先生が来る。じゃあホームルームを終わる。」
先生が去ると、皆ががやがやと話し出した。
私も、マナミさんとユキネさんとで話した。
「急に人が変わる。あやしいね……。」
「それはそうですが、考えすぎな気もします。」
「二人ともどうかしたの?」
何も知らないマナミさんを不安がらせるわけにもいかず、私は話題を変えることにした。
「いえ……、それより、マナミさんが遅刻しかけるなんて珍しいですね。」
「確かに! なんかあったの?」
「ううん、大したことじゃないの。実はさっき、兎さんを見かけたの。」
「え?この住宅街で?」
「うん、私も気になって追いかけてら、遅刻しかけたの。」
明らかに奇妙だ。
急な人の入れ替わりに兎。
奇妙なことが立て続けに起こるのは偶然だろうか。
「その兎さんは結局どうなったんですか? 」
「えっとね、どこかから脱走しちゃったのかな?って思ったから、とりあえず捕まえて、学校の先生に預けたの。」
「なるほど……。」
「ってことは兎に会えるかもしれないじゃん! テンション上がってきた!」
転校生、臨時講師、そして兎。これからどうなっていくのだろうか。
嫌な予感がした。
とあるカフェに、4人の男女が集まっていた。
彼らはお互いに初対面で、先ほど路地裏で自己紹介したばかりだ。彼らはSNSで繋がり、そこから会うまでに至った。
彼らの座っている席は店の角にある席で、男女2人ずつ座っている。
全員が注文を終えると、明かるげだがどこか記憶に残りにくい男が話しだした。その男は全身黒い服を着ていて、無駄にポケットが多い。
彼はここの会計を自分が払うことになり、懐の寒さと無職の厳しさを感じていた。
「よしっ! じゃあ皆の『能力』は把握したし、作戦会議といこうか!」
彼の名はドラゴンフライ。
彼らが路地裏で自己紹介をしたのはお互いの『能力』を見せるためだった。
「とりあえず確認だが、『龍の逆鱗』について知っている奴はいるか?」
「……知ってる。」
「ああ。」
「もちろん知ってるわ。」
「よし、全員知ってるなら問題ないな。」
そこでドラゴンフライの対面に座っている女が手を挙げた。
「1ついいかしら?」
「なんだ?キャッツスター。」
彼女の名はキャッツスター。
彼女はレディースのスーツを着ており、まさに仕事帰りかのような雰囲気を醸し出していた。顔には眼鏡をかけていて、その奥に見えるつりあがった目尻は他者に高圧的だと思われる。ドラゴンフライがカフェ代を払うことになった元凶である。
「わたしはあんまり詳しいところまでは知らないわよ? 妖怪に守られてるってことくらいよ。」
「それで十分だ。コアしか無いと思ってなきゃいいんだ。」
「……破片の……位置は……知ってるの?」
次に質問をしたのはキャッツスターの右隣に座っている女だった。
彼女の名はフェニックス。
その黒髪をツインテールにし、フリルのついた服を着て、足にはガーターベルトと、彼女はいわゆる地雷系ファッションと呼ばれる格好をしていた。しかし、彼女は地雷系の意味を知らず、ただ可愛いからという理由だけでそのファッションをしている。彼女は高校生であるにも関わらず、カフェ代をしっかりと払おうとしたが、ドラゴンフライが払うことになったので申し訳なさを感じていた。
「俺はワームの位置だけ分かるんだがなぁ。」
「ん? いいじゃないの。さっそく行きましょうよ。」
「いや、奴はやめておけ。全長約3000キロメートルの化け物だ。今はサハラ砂漠で暴れている。」
「3000キロ!?」
キャッツスターは途方も無い数字に目を丸くした。他2人も黙ってはいたが、内心それを諦めていた。
「ま、ワームは別の人間が倒したときに漁夫ればいいさ。だからまずは他の妖怪から倒そう。」
皆が沈黙すると、ドラゴンフライの左隣にいる男が手を挙げた。
「1つ知ってる。」
彼の名はカメレオン。
彼は筋骨隆々の巨漢である。Tシャツの上にジャケットを羽織るという簡単な服装で、ズボンは着古したジーンズだった。その背丈は2メートルに届きそうな程大きく、まず間違いなくこのテーブルで一番の存在感を放っていた。彼はカフェ代に関して口を出そうと思ったが、キャッツスターの目が怖くて言い出すことが出来なかった。
「本当か!?」
「ああ、吸血鬼だ。」
「なるほど……まあ悪くない。」
その時、彼らの注文した飲み物が届いた。
ドラゴンフライはエスプレッソ、フェニックスはカフェオレ、キャッツスターはカプチーノ、カメレオンはカフェラテだった。
皆がそれを一口飲むと、キャッツスターは質問した。
「ドラゴンフライ、知ってるの?」
「3体分の妖怪だけは知ってるな。吸血鬼と、ワームと、河童だ。」
「吸血鬼はワームほど理不尽ではない。」
「そうなんだよ。」
「……それは……よかった。」
フェニックスは心底安心したと言うように一息つき、カフェオレを飲んだ。
「吸血鬼はニューヨークにいるが、おれは詳細な位置を知らない。」
カメレオンはそこまで言うと、カフェラテを一口飲んだ。
「そうなのね……。」
「ああ。」
キャッツスターは仕方がないか、と思いながらカプチーノを飲んだ。
「吸血鬼はどんな『能力』を持っているの?」
「再生と吸血、これが俺の知っていることだ。」
「おれも同じだ。」
ドラゴンフライは、カメレオンと吸血鬼についての情報が一致したことで、その情報の信憑性が高くなったことに安心しつつ、エスプレッソを飲み干した。
「結構厄介そうね。」
「……再生。」
「ま、他の連中と比べたら楽な方だろうよ。ただ、詳細な位置が分からんとな……。」
そこでカメレオンが手を挙げた。
「ニューヨークには知り合いが住んでいる。奴に聞けば詳細な居場所が分かるかもしれない。」
「おし!じゃあ早速ニューヨークにいくか!」
「待て。」
「ん? どうした?」
「奴には娘がいる。そいつを誘拐して脅す。」
カメレオンの発言を聞いても誰一人として眉すら動かさず、それはいい案だと頷いた。
「可哀想だが、俺達の夢の為だな。」
「そうね、犠牲になってもらいましょう。」
彼らが『龍の逆鱗』を求める理由。
彼らが『龍の逆鱗』に求める野望。
「是非ともその子には『人類滅亡』の足掛けとなってもらおうか。」
彼らはSNSで集まった人類の敵。
1万年以上続いた人類の歴史を消滅させんとする者たち。
彼らは自らを『死神』と名乗る。
「……その子の……名前は……何て言うの?」
カメレオンは堅い口を開き、その名前を出した。
「橘 愛美。」
『死神』の手は橘 愛美へと伸び始めた。




