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正典  作者: 大自然の暁
『楽園』
16/18

『ストロベリーズ』 VS 『暁の化身』 3

随分と久しぶりな気がする

 『暁の化身』は死にかけのヒック・ヘンダーソンから興味を外す。

 構っている暇はなかった。

 まだ、敵はいる。


「HA! HA! HA! まずい様だね!」


「笑ってる場合ですか! 主戦力が全員戦闘不能ですよっ!」


「そうだぞ! 俺たちが『暁の化身』相手に出来ることは何もない!」


「HA! HA! HA! 大丈夫さ!」


 ジャスティスウィングは宙に浮かぶ。

 正義の翼は諦めを知らず、勇気の輝きが世界を照らす。


「私が居る!」


 『暁の化身』はその体を炎に戻し、ジャスティスウィングへと放った。

 凄まじいスピードだった。

 消耗しているとは思えないほど速く、ジャスティスウィングを狙った。

 だが、ジャスティスウィングも速さだけであればそれを凌ぐ。

 炎は分裂し、複数方向からジャスティスウィングを狙う。

 四つだ。

 炎は四つに分かれた。

 一つはジャスティスウィングの後方に。

 一つはジャスティスウィングから少し離れた、右後ろに。

 一つはジャスティスウィングの左後ろに。

 最後の一つはジャスティスウィングの上後方に。

 逃げ場を無くすように取り囲む。

 左後ろにあった炎が、前へ出る。

 だんだんと近付き、しかし避ければ他の炎にぶつかってしまう。

 だからこそ、突っ込む。

 左後ろの炎にジャスティスウィングの左腕がかする。

 しかし、炎の包囲網からは抜け出すことが叶った。

 ジャスティスウィングはかすった左腕を見た。

 ある訳がない。

 左腕は、『暁の化身』とぶつかったのだ。

 いくら弱っているとはいえ、太陽に直撃したのだ。

 左腕が残っている訳がなかった。

 そして、そこに『暁の化身』が攻撃を加える。


「ッ! 『Justice Wing』!」


 ジャスティスウィングは咄嗟に『能力』を発動し、不可視の腕を生成した。

 それがジャスティスウィングを守る。

 数刻だけだったが。

 ジャスティスウィングは炎に飲み込まれた。


「クソッ! だから言ったのによぉ!」


「こ、こっちに来ます!」


「!」


 『暁の化身』は次に雫 愛美と、東雲 銀時を狙った。

 雫 愛美は一歩前へ出て、木の剣を盾とした。

 二人を、木の剣が守る。

 それは弱っているとは思えないほど強力な炎だった。

 雫 愛美では耐えられない。

 二人は反発力により吹き飛んだ。

 東雲 銀時は軽傷だ。

 受け身を上手く取れた。

 けれども、雫 愛美は違う。

 彼女は非戦闘員だ。

 その頭から血を流し、倒れ込んだ。

 『暁の化身』は二人同時に消し去るべく、炎を放った。


「……『Cursed Circus』、その子は勝ち筋になり得る。殺させませんよ。」


 炎は、逆方向へと飛んでいった。

 『憤怒』の力は二つある。

 一つはエネルギーの逆転。

 もう一つは、怒っている対象の行動を逆転させること。

 右に行こうとすれば左へ行き、左へ行こうとすれば右へ行く。

 それはヒック・ヘンダーソンによる最期の抵抗だ。

 しかし、『暁の化身』は既に理解していた。

 すぐさま、後ろへと行こうとする。

 そうすれば、前に行く。

 稼げた時間は一瞬だけだ。

 しかし、その一瞬で東雲 銀時は覚悟を決めた。

 雫 愛美を守ることは、『Golden Ring』の利益になるはずだと。

 『愛の果実』の教祖を倒す為には彼女が必要だと。

 そう信じて。


「『Don't believe F』、こいつを生かすことが、俺のダイイングメッセージだ。」


 『暁の化身』は恐れを感じない。

 だからこそ強く、脅威と感じる。

 二人同時に消し去るのではなく、この一人に集中すべきだと思う程には。

 『暁の化身』は決して油断せず、ただ一点に全ての炎を集めた。

 炎は東雲 銀時を襲った。

 戦いにすらならない。

 一方的な蹂躙だ。

 弱者に出来ることはただ一つ、力を合わせる事だけだ。

 東雲 銀時への攻撃を終えると、『暁の化身』は雫 愛美を狙う。

 彼女は依然として気絶したままである。

 炎が、彼女を焼く寸前、何かが炎に向かって飛んできた。

 それは掌程の卵だった。

 虫の卵。

 それはエネルギーを吸う。


「『Parasite』、寄生させて貰おうか、兄弟。」


 先生は頭部だけの状態で、エネルギーを吸った。

 その頭部にヒビが入り、やがて爆散した。

 しかし炎は全て消え去った。

 『暁の化身』はもう一度、炎を放とうとした。

 その時、ある物に気が付いた。

 それは卵だった。

 卵にヒビが入る。

 丁度、先生の頭部と同じ様に。

 先生の死がトリガーとなり、真の『能力』が孵化する。





――――――


体長7m程はありそうな巨体は、まるでムカデを模したかのような姿であった。しかし、それをムカデと称するにはあまりに恐ろしく、悍しく、冒涜的であった。その存在の外殻は形を名状するのもおぞましく、一目見るだけでこの一週間の間に食べた物をすべて吐き出しても収まりがつかない程度の吐き気を催し、何か途轍もない不安感が突如として観測者の心を侵食した。まるで止まったまま回転させられたように感じるほど三半規管が狂い、あらゆる物が歪んで見え、まともに立つことすらままならなず、老朽化した橋の上を歩いているようだった。心から何かが失われるような喪失感は不安感を増幅させ、精神の壊れる音とともに、魂が溶け出し、サナギの様に自分が目の前の化け物に変わっていくような感覚があった。それと共に全身の骨が組み変わり、肉は変化しようとし、体が引き裂かれる痛みを味わった。観測者が自分の体を見ても、何の異変もない。その外殻は変容の思念を送っていた。観測者の肉体はその思念を受け取り、変容しようとした。しかし、観測者にはそんな事はできない。だからこそ、実際に起きていること、起きようとしている事のズレが痛みとして襲ってきたのだ。そのことを何故か理解できた。そして、その外殻のわずかな隙間からは、世界の憎悪をかき集めて煮詰めたかのような暗澹たる色の粘液が絶えず湧き出していた。それは観測者の…いや、生物の本能からくる恐怖心を呼び覚ました。この場所にいるのが人間でも、猿でも、鳥でも、イモムシでさえも変わらず、同じ恐怖を味わい、動くことすらできないだろう。古来より続く恐怖が、生物の根幹をなす所にしっかりと刻まれていた。観測者たちの祖先が記憶した恐怖が今日まで受け継がれて来たのだと、そう実感した。この存在の前では種族なんてものは関係なく、個体の識別すら不要だろう。目の前にいる全ての物体は、ただ己を畏怖する者たちの集合体でしかない。そういうふうに生物はできている。知識が無くても死ぬ事を恐れるように、この存在を恐れることは当然の事であり、それが生物として正しい事であった。さらにその粘液は周囲の大気を汚染し、全てを自分のものにするかのように、その領域を拡大していった。それは刺激臭と死体の腐った臭いを混ぜたような混沌とした異臭を放っていて、それを嗅いだだけで、息が詰まり、肺は焼けるように熱くなり、全身の血管という血管に狂気が染み渡り、心臓は目的を忘れてその怪物に共鳴した。もうすでに呼吸はしていない筈なのにその臭いは消えず、死ぬまで、そして死んだあとも魂にこべりつき、永遠とこの苦痛が続くかの様に思えた。頭の中で何かがのたうち回って、誰か別の人間の思考に支配されたと感じたが、それは確かに観測者自身の思考であった。自分を自分と認識できず、何処か他人のような感覚になっていったが、苦痛と恐怖だけは与えられていた。腹部に見える部位は絶えず、不規則に脈動していて、それは観測者に異様な想像を掻き立たせた。まさに、人間がこの中でもがいているのではないか、だとかそれよりも恐ろしいものが蠢いているんじゃないのか、などの支離滅裂で、正常な精神を持っている者なら馬鹿げていると思うだろう妄想とも言える狂気的な思考を引き出してきた。もしかすると、それ以上の狂気がそこには詰まっているのかもしれないと思い至ったとき、その脈動が止まり、その部位が開いた。観測者がそれを見た瞬間に観測者はそれを理解してはいけないと直感した。理解してしまえば、狂気の濁流により、理性の防波堤はいとも容易く破壊され、どれだけ精神力の強い人であろうとも一瞬のうちに廃人と化してしまうということだけを理解した。いや、そうではなかった。開いてなんていなかった。すべては観測者の妄想で、今もそれは脈動している。観測者は狂気の幻想を見たのだ。それでも確かにその幻想を理解していれば、観測者の理性は消え失せていたという、そんな実感があった。その腹部から無数の足が生えていた。いや、それを足と言っても良いものだろうか。観測者がそれを足と認識したのは、その怪物の第一印象がムカデだったからだ。その足は腹部から生えていた。腹部の側面に生えていたのではない。体のいたるところから棘のように生えていたのだ。その歪さが観測者の心を掻き回した。そして一般的なムカデなら頭部に当たるであろう部位から放たれる異音を聞いた観測者の中で、精神を蝕まない者はいないと確信できる。それほどまでに冒涜的で、あらゆる摂理に反していた。その音はまるで邪神を崇める賛美歌のように、不協和音により奏でられるオーケストラのように、観測者の心を抉り取り続ける。人間界に存在するどんな言葉であろうともこの存在への恐怖心を表すには言葉足らずになってしまう。最も素晴らしく、最も悪徳な音楽は収まるところを知らず、だんだんと生物に理解させた。それは深淵を称えていた。世界の中心に位置する者への歌だった。聞いてしまった、覗いてしまった。もう遅かった。万物の王は暗黒の世界でただそこにいた。理解した、してしまった。このムカデのような怪物は、龍を称える者だったのだ。人間の理解と想像を超えた存在を観測した者は、発狂した。



――――――





 『暁の化身』は、ムカデと向き合う。


「悍ましい。ああ、悍ましい! 龍の遺物め! 世界に寄生するだけの虫が!」


 ムカデはその言葉を無視し、動き出す。

 『暁の化身』は炎をムカデに向かって放つ。

 それがムカデの頭部に直撃する瞬間、ムカデはバラバラになった。

 肉体の崩壊、とでも言うべきその現象は、頭部に収まらず、全身粉々になった。

 しかし、それは崩壊では無かった。

 分裂だ。

 小さなムカデの群れが、分裂しながら『暁の化身』へと接近する。

 ムカデの一匹が、炎に触れる。

 そして徐々に群がっていく。


「私を喰らう気か!」


 ムカデはただ、そのエネルギーを貪る。

 炎がその身を焦がそうとも、ムカデは食事を辞めない。

 ムカデを燃やし尽くすのが先か、『暁の化身』を喰らい尽くすのが先かの勝負が始まった。





 雫 愛美は目を覚ました。

 起き上がろうとすると、頭がズキリと痛む。


「一体何が……。」


「起きたー?」


「っ!」


 彼女の隣に『悪魔』がいた。

 どうやら雫 愛美を介抱していたようだ。

 その服の至る所に血が付着していたが、不思議と『悪魔』自体にはダメージがないようだった。


「……生きていたんですね。」


「死ぬかとー、思ったー。」


「……。」


 雫 愛美は起き上がるのを諦める。

 横になった状態で周囲を見渡すと、そこにはムカデのような化け物と『暁の化身』が戦っていた。

 雫 愛美は見ないふりをして、仰向けに寝転んだ。


「……化け物が多すぎるんですよ。」


「んー?」


「『暁の化身』も、あのムカデも、あなたも、お嬢様も、ここにいたみんな化け物です。」


「君の『能力』もー、だいぶ化け物じみてるよー。」


「そうじゃないんですよ。」


 雫 愛美は心の底からその気持ちを吐露する。

 それは紛れもない本音。

 『悪魔』にだからこそ、吐き出せる。


「みんな、死ぬかもしれないのに、あんなのに立ち向かって。はっきり言ってイカれてる。」


「でもー、君だって戦ったよー?」


「私は仕方なく戦っただけですよ。こんなくだらない争いに巻き込まれて。何が『龍の逆鱗』だ! 願いを叶える? どうでもいい!」


「……『外典』」


「は?」


 『悪魔』の気だるげな顔が変わる。

 それはとても深刻そうで、しかしあまりにも似合わない。

 だがその顔は、これから話されることの重大さをありありと物語っていた。


「『外典』を見つけ出さなくてはならない。」


「何を急に……。」


「『死神』はこの世界に居る全ての知的生命体を消し去る気だ。」


「……。」


「『死神』に『外典』を渡してはいけない。」


「……。」


「君は死にたい?」


「そりゃあ……、生きたいですよ。」


「じゃあー、一緒に戦おうー。」


 また、気怠げな雰囲気に戻る。

 『悪魔』の提案は、切実な物だった。

 雫 愛美を『悪魔』の『能力』で縛ることは出来ない。

 『Wooden Sword』はそれを許さない。

 害ある『能力』は全て弾かれる。

 だからこそ、これは提案だ。

 契約では無く、お願い。

 雫 愛美の『能力』は世界で最も異端だ。


「戦いたいとは思うんですけど、『正典』が……。」


「君のー、『能力』はー、『正典』にー、由来しないよー。」


「!!!???」


「そもそもー、害ある物をー、全て弾くんだからー、『正典』もー、弾くよー。」


「え、じゃあ私、騙されてたってことですか!?」


「そうだねー。」


 哀れな雫 愛美は呆然としていた。

 まさか、『Wooden Sword』が自身の『能力』だったとは、思いもよっていなかった。


「……戦います。」


「『Let your wishes come true』」


 『悪魔』は『能力』を発動する。

 だが、その契約は成立しなかった。


(やっぱりー、弾かれたかー……。)


「ん? どうしました?」


「いやー、何でもないー。それじゃあー、『暁の化身』をー、倒そうかー。」


「……やっぱり戦うのやめようかな。」


 『悪魔』にはプランがあった。

 『憤怒』だ。

 あれはヒック・ヘンダーソンの死後も発動し続ける。

 あれを用いれば、『暁の化身』にダメージを与えられるだろう。


「……なるほど、計画は分かりました。でも『憤怒』って触れないと思うんですけど。」


 『悪魔』は『Wooden Sword』を指した。


「私の役割が大きすぎません?」


「そんな事ー、ないよー。」


「あなたは何をするんですか?」


「……監督ー?」


「やっぱり私だけ重労働じゃないですかっ! 何で監督なんですかっ! 仕事しろっ!」


「それはー、監督がー、何もしてないって事ー?」


「言葉狩りすんなっ!」


「ちなみにー、『Wooden Sword』ってー、形を変えられるー?」


「えぇ……?」


 雫 愛美は唐突に真面目な事を言い出した『悪魔』にドン引きつつも、『Wooden Sword』の変形を試した。

 変化は顕著に起こった。

 木の剣が、木製のシマエナガに変わった。


「あっ、できました。」


「……何でー、シマエナガー?」


「可愛いじゃないですかっ!」


「まあー、いいけどー。」


 変形出来るならば、戦略の幅は広がる。

 しかし、しかしだ。


「変形出来るならー、『Sword』じゃないでしょー。」


「えっ、どうでもよくないですか?」


「駄目だよー。名前はー、ちゃんとー、しないとー。」


「なにそのこだわり。怖っ。あとで決めときますよ。」


 作戦開始だ。

 ムカデと『暁の化身』が戦っている。

 ヒック・ヘンダーソンの死体は、その奥にあった。


「無理だね、帰ります。」


「どうやってー、帰るのー?」


 軽口を叩きながら、迂回ルートを探す。

 『悪魔』なら通れる道はあった。

 しかし、雫 愛美には無理だ。

 一番確率が高いのは、戦いの真ん中を突っ切る事だ。

 何故ならば、雫 愛美はあらゆる害を無効化できる。

 物理的な壁を乗り越える事は困難だが、火の中を突き進むことは可能だ。

 可哀そうな雫 愛美の目はもう死んでいた。


「じゃあー、頑張ってねー。」


「!!?? あなたは行かないんですかっ!?」」


「私はー、通る必要ー、ないし―。」


「……終わりですよ、もう。」


 『悪魔』が離れる。

 一人になってしまった。

 だが、逃げる訳にもいかない。

 逃げたところで意味はない。

 最後に終焉が訪れるだけだ。

 抗わなくては。

 生き残るのが、ただ一人だけでも。


「『Under The World』」


 脳裏に浮かんだ、その名を言う。

 それは進化だ。

 『悪魔』と共に抵抗する覚悟により、『能力』が進化したのだ。

 雫 愛美は木を纏い、歩みを進めた。





 『暁の化身』はムカデ相手に苦戦を強いられていた。

 ムカデの性質は増殖と分裂。

 異様な速度で増え続けるムカデを焼き切るのには時間が掛かる。

 だが、時間の問題でもある。

 『暁の化身』が持つ火力であれば、いずれ焼却し終える。

 問題なのは木の剣だ。

 あれはどれだけ『暁の化身』が燃やそうと、決して影響を与えられない。

 真に恐ろしいのは、その力はまだ開花しきっていないと言う事だ。

 『Wooden Sword』がどうなるか、誰も知らない。

 それは世界の理を超越しかねない。

 まず始めにに排除すべき異端だ。

 だが、それをするにはムカデが邪魔だ。

 『暁の化身』は消耗し過ぎた。

 その時、『暁の化身』は自身へと向かって来る影に気付いた。

 灰の塊。

 それは木を燃やして作った様な灰だった。

 しかし、粉状では無く塊で。

 『暁の化身』はそれを見て、すぐに『Wooden Sword』が進化した事を理解した。

 『能力』の質が変化している。

 重要な事は、その『能力』を検証すること。

 それだけだ。

 『暁の化身』は人形となる。

 そして、雫 愛美と対面した。


「あー……、どうも。」


「……。」


「え、えーっと……、向こうに行きたいんですが、通してくれませんか?」


「……断る。」


「やっぱりそうですか……。じゃあ、仕方がないですね。」


 雫 愛美の姿が消える。

 『Under The World』は透明になる。

 ただそれだけの『能力』。

 しかしそれは害を跳ね除ける力と合わさり、無敵の絶対防御を実現させる。

 だが、それだけで『暁の化身』を止める事はできなかった。

 『暁の化身』はその炎を周囲に撒き散らした。

 そこで、一つの場所だけ炎が弾かれた。

 つまり、そこに雫 愛美がいる。


「?」


 しかし、複数地点から同じ様な反応があった。

 『暁の化身』はすぐさま理解した。


「分裂したか」


 透明化と分裂。

 それが進化した『Under The World』の力だ。

 ただ、攻撃されないことに特化した『能力』。

 だが、そんな彼女にも弱点がある。

 『暁の化身』は地面を掘り、土煙を舞い上がらせた。

 この土煙は『能力』ではない。

 故に彼女にも通用する。

 そして、彼女の目的は『憤怒』である。

 それを手に入れる時、必ず目視で確認するはずだ。

 その一瞬で十分。

 いくら弱体化したとはいえ、それだけの時間があれば人間を一人殺すのに十分だ。


「そうはー、させないよー」


 だが、彼女にも仲間がいた。

 ムカデと『悪魔』だ。

 『暁の化身』の一瞬が妨害される。

 そして、雫 愛美は『憤怒』を手に入れた。


(えっと、これでどうすれば……)


 取り敢えず『憤怒』に『Under The World』を巻き付けたが、ここからどうすればいいか分からない。


(えっこれもしかして、このまま戦うの……?)


 雫 愛美の身体能力は常人のそれと同等である。

 近付けば死ぬ。

 取り敢えず彼女は『憤怒』を丸めた。

 空気の圧縮を行うのだ。

 だが、『暁の化身』は同じ技を食らい続けるほど愚かではない。

 雫 愛美が空気の解放を行うと同時に、『暁の化身』も周囲の空気を吸い込んだ。

 『暁の化身』の内部にて急速に熱せられた空気は、超高速で膨張し、破裂する。

 同じ技にて相殺する。

 空気圧縮はそれほど恐ろしい技ではない。

 もっとも厄介なのは直接触られること。

 雫 愛美がもう一度空気を加圧する。


「無駄だというのが分からんのか! もう一度相殺してくれるわっ!」


 だが、それが相殺されることはなかった。

 雫 愛美は空気の解放を地面目掛けて行なったのだ。

 彼女の身体が吹き飛ぶ。

 それでも、彼女はもう一度加圧を始めた。

 今度の解放は『暁の化身』と逆の方向。

 つまり、空気を解放した瞬間に彼女の身体は『暁の化身』方面へと吹き飛んだ。

 『暁の化身』は彼女を妨げるすべを知らない。

 彼女はあらゆる『能力』を無効化する。


 そして、『憤怒』が『暁の化身』をえぐったのであった。

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