新手
仮面の男は、藤原 雪音の死体を見ていた。
その体は上半身と下半身が分かれており、臓物は体外へ飛び出し、その中身を盛大に拡散させていた。
仮面の男は彼女の死体を蹴り上げ、呪詛を刻んだ。
死体に刻まれた呪詛は腐敗。
死体は腐る。
「ふぅ、終わりましたか。」
「なるほどですわ〜。それは結構な事ですわ〜。」
彼の背後から若い女の声が響いた。
仮面の男が振り返ると、そこには剣を持った女とメイド服を着た女がいた。
「あなた、誰ですか?」
「わたくしは何者なんですわ〜?」
剣を持った女が逆に質問をする。
彼女は上半分が白く、下半分が黒いワンピースを着ていた。
まるでどこかのお嬢様の様な服装で、首にはペンダントを提げていた。
彼女が持っている剣はどこか禍々しく、異様な雰囲気を纏っていた。
「私に聞かれても困るのですが。」
「我々は『愛の果実』です。」
メイドが答える。
彼女は黒い髪をポニーテールの様に纏めている。
その特徴的なつり目が仮面の男を睨んでいる。
「ああ、あの宗教団体ですか。」
「『愛の果実』ってなんなんですわ〜?」
「なんでお嬢様は知らないんですか!? この変な男も知ってるって言うのに……。」
メイドは呆れた様な目をお嬢様に向けた。
お嬢様はどこ吹く風といった様に仮面の男を見た。
「それで、彼を殺せばいいんですの~?」
「まあ、ここに居る人間は全員殺していいですからね。」
「ほう、ほう、私を殺せると?」
仮面の男がそう言うと、お嬢様は手で髪をなびかせた。
「そういえば自己紹介がまだでしたわ~。」
「無視とは悲しいですね。」
「……すいません、この人マイペースなんです。」
お嬢様が一歩前へ出た。
そして名乗りを上げる。
「わたくしは一ノ瀬 愛美ですわ~。こっちのメイドはリーンですわ~。」
「違います。」
「違くないですわ~。凄いリーンっぽい顔してますの~。」
「違います。私の名前は雫 愛美です。」
「なるほど、『龍の卵』が二人ですか。」
「じゃあ自己紹介が終わったので殺しますわ~。」
一ノ瀬 愛美の剣がバラバラに分解される。
その一つ一つが細い糸の様なもので繋がり、連鎖している。
「『Flexible Sword』」
蛇腹剣だ。
剣は九つに分けられ、その腹全てに目が付いていた。
それが開眼する。
九つの眼が、仮面の男を見た。
その中の、剣の先から三つ目にある眼が紫色に光った。
その瞬間、仮面の男の居た場所に巨大な石塊が出現した。
紫の瞳は石化を司る。
彼女は仮面の男とその周囲にある空気ごと全てを石に変えた。
すると、その眼は役目を終えたと言わんばかりに閉じた。
「おほほほほ、やはりわたくしの勝利ですわ~! それじゃあリーン、後は任せましたわ~。」
「……はぁぁぁぁぁ、またですか、お嬢様。まあいいですけど、いいですけど! 『Wooden Sword』!」
雫 愛美の手に西洋的な剣が出現した。
それは木剣だ。
模擬戦で使うような、殺傷能力を極限まで落とした剣だ。
彼女はそれを石塊へと振るった。
しかし、一度だけでは足りない。
何度も、何度も剣を振るった。
そして、134回目。
木剣が壊れた。
「はぁ……、はぁ……、はぁ……、これ、無理ですよ……。」
「まったく、何でリーンはこんな簡単な事も出来ないんですの~?」
「くそっ、簡単って言うなら自分でやれって話ですよ!」
「ほならね理論は嫌いですわ~。」
「なるほど、戦えるのはあなただけのようですね。」
言い合う彼女達の隣に先程石化させたはずの男が居た。
彼は壁に寄り掛かり、まるで余裕そうに振舞っている。
「石化したはずじゃないの!?」
「『Flexible Sword』」
一ノ瀬 愛美は『能力』を発動させる。
蛇腹剣の先から一番目の眼が白色に光った。
その後、その眼は閉じた。
「なるほどですわ~。」
「お嬢様、分かったんですか!?」
「……ほう、『能力』の解析ですか。」
「おほほほほ、あなたの『能力』は全て筒抜けですわ~!」
一ノ瀬 愛美は扇子を開き、口元を隠しながら笑った。
「お嬢様、笑ってないでさっさと教えてください。」
「リーンはせっかちですわ〜。」
「うっざ。」
「まあ、特別に教えてあげますわ〜。あれは呪詛の塊ですの〜。大量の人間を殺して、その怨嗟が呪詛として顕現してるんですわ〜。そしてだんだんと自分が殺していない呪詛も取り込んで、膨大なエネルギーを生み出しているんですわ〜。」
「なるほど、どうやって倒すんですか?」
「あと750,097,421回さっきと同じ攻撃をすれば倒せますわ〜。」
「おけ、無理ってことね。逃げます。」
雫 愛美は逃げようとしたが、逃げ道が無い事に気が付いた。
「お嬢様、あれやってください。」
「嫌ですわ〜。」
「はぁ? あんたは生き残れるかもしれないけど、こっちは死ぬぞ! 自慢じゃないが、私は弱い!」
「知ってますわ~。死なば諸共ですの〜。」
「一人で死ね!」
「可哀想ですね。」
突然、雫 愛美の隣に仮面の男が現れた。
そして、仮面の下から触手が現れ、雫 愛美の顔を舐めるように触った。
「いや、キモイキモイキモイキモイ!」
「おやぁ、キモいとは心外ですねぇ。触手フェチに目覚めても良いんですよ?」
「きっしょいわ!」
「そうですわ〜! レディの体に無断で触れるなんて、万死に値しますの〜!」
閉眼していた蛇腹剣の先から三つ目にある紫の眼が、いつの間にか開眼している。
「『Flexible Sword』」
その眼が紫に光り、また仮面の男を中心に空間が石化した。
「あと750,097,420回ですの〜。」
「無理でしょ。」
「337,543,839,000秒位かかりますの~。つまり1万年以上ですわ~。」
「帰りたい。」
「あなた方には先程の少女みたいな規格外のパワーは無いようですね。」
いつの間にか石化から抜け出した仮面の男は彼女らにそう、声を掛けた。
「先程のとはなんですか?」
「ああ、先程まで他の少女と戦っていたのですが、彼女は一撃で私の命を5%程消し飛ばしましてね。まともに20発程攻撃を食らえば消滅していましたね。」
「うわ、ヤバい奴もいるんですね。」
「とにかく、『Flexible Sword』であなたを倒すのは無理ですわ~。」
「そのようですね、あなた方は私の敵になりえない。」
「ですので、もう一つを試してみますの~。」
「は?」
一ノ瀬 愛美は更に『能力』を発動させた。
「『Stay With You』」
彼女の背後から白い雲の様にもくもくとした何かが出現した。
それはまるで龍の様で、彼女の背後に陣取った。
「馬鹿な……『能力』は一人につき一つのはず……。」
「わたくしは特別ですもの~。」
「特別だとか、そういう問題ではない。」
仮面で顔は見えないが、明らかに彼は動揺していた。
「『能力』の詳細を教えてあげますわ~。知られても問題は無いですの~。」
一ノ瀬 愛美は白い龍を前方へ動かした。
その龍の腕が変形し、白い球が生まれた。
「『Stay With You』は殺した相手の『能力』を奪いますの~。あなたの『能力』も頂きますわ~。」
「嘘を吐くな! 二つならまだしも、『能力』を奪うだって!? あり得ない! 人間の容量を超えている!」
「嘘かどうか、直ぐに分かりますわ~。『Stay With You : You are my friend』」
白い龍が持つ球が弾けた。
周囲に白い煙が広がる。
「なにが……。『Cursed Circus』!」
仮面の男は呪詛を刻む。
事が出来なかった。
「は?」
呪詛が刻まれない。
いや、違う。
刻まれている。
「……呪詛がお互いを呪い合っている?」
「あなたの『能力』は呪詛を操る物ですわ~。」
「お嬢様、『能力』ってどういうことですか? あいつ自身が呪詛なんじゃないんですか?」
「この男の『能力』は6秒間だけ対象を激怒させるんですわ~。呪詛は怒りと憎しみの具現化、つまりはこいつの『能力』はそれを増長させるんですわ~。」
「6秒間? それ以上操っている様に見えますが……。」
「6秒間が終わった後にまた『能力』を発動させているだけですわ~。」
「6秒の意味ってなんですか?」
「そしてわたくしの『Stay With You : You are my friend』は状態の共有ですわ~。存在する全ての呪詛がお互いを打ち消し合っているんですわ~。これなら直ぐに消滅させられますの~。」
「最初からやってください!」
「うぐっ……がああああああああ!」
突然、仮面の男が苦しみ出す。
呪詛により命が削れていっている。
もうすぐ、終わる。
彼の肉体はそれを理解しているのだ。
危険信号としての痛み。
男が久しく感じていなかったもの。
それを受け男は思った。
「コロスッ!」
怒りを、憎しみを、忌まわしき敵を討ち滅ぼす激情が、彼の胸中を支配した。
呪詛が消えていく、打ち消しあっていく。
それは蠱毒だ。
呪詛がお互いを呪い合い、より洗練された呪詛へと昇華させていく。
最後に残った、最凶の呪詛。
その呪詛の名は――――
『憤怒』
今、至上の憤怒が一ノ瀬 愛美を襲う。
真瀬 愛美の心臓を手に入れた木城 瑠璃は、戸惑っていた。
「あの道化師、全く帰ってこない……。」
仮面の男と木城 瑠璃は同じ『Another World』の仲間だが、お互いに仲が良くない。
仲が悪い訳ではないが、積極的に友人になろうだとか、そういうことではない。
あくまで同じ目的の為に行動を共にしているに過ぎない。
「あいつは結構強かったが……、負けたのか? まあ、勝っているにせよ、負けているにせよ、まだ戦っているにせよ、目的の物は手に入れたし置いて帰るか。」
木城 瑠璃がそう呟いた時、彼女の後方の扉が開いた。
そこから現れたのは白のスーツを着た男だった。
「帰す訳ないでしょう。」
「まあ、そうだろうな。」
木城 瑠璃は脳内で目の前にいる男の情報を検索した。
「ああ、『闇市』の四天王か。」
「『闇市』と言うのはあくまで一つの事業に過ぎませんがね。」
それを聞いた木城 瑠璃はふっと笑った。
「そうだったな。じゃあ訂正させて貰おうか。『Golden Ring』の四天王、東雲 銀時。確かお前は東区の領主だったと思うが……北区までご苦労だな。」
「へぇ? よく知ってるじゃないか。」
「ああ、流石にお前ら全員の『能力』までは把握していないがな。だが、智恵とか言ったか? そいつの『能力』なら知っているぞ。」
「ペラペラとよく喋るね。時間稼ぎかい? まあ、いいさ。乗ってやるよ。」
東雲 銀時は一つ息を吐いた。
「智恵の『能力』、『Hand Crusher』は確かに強力だ。君たちが警戒するのも分かる。だが、無意味だよ。」
「勝てないからか?」
「違う。彼女はさっき死んだ。」
「!?」
幸運だ。
『Hand Crusher』が居ないのであれば、『Another World』の有利に進める事ができる。
木城 瑠璃はそう、考えた。
だが同時に、なぜ目の前にいるこの男はそんな情報を教えてくるのかという疑問も浮かんだ。
彼女はその情報が嘘である可能性も念頭に置きながら、慎重に見極めようとした。
「なんで彼女が死んだのに、こんな冷静でいられるか分かるかい?」
「ま、まさか……!」
「ククク……奴は四天王の中でも最弱。だから死んでも問題はない。」
「ば、馬鹿な! 『Hand Crusher』が最弱? そんなのはったりだ!」
「さあ、どうだろうね。試してみるかい?」
「……『Lasy Desert』!」
「『Don't believe F』」
Fの侵略。
Fは信頼出来ない。
Fを使うことなんて恐ろしい。
Fは世界を破滅へと導くに違いない。
だが、全ての事柄はFに通ずる。
「駄目だ。Fを追い出さないと……。そうしないと安心して戦えない……。」
「これが俺の『能力』。対象にFへの絶対的不信感を植え付ける。人間がこの『能力』に抗うことは出来ない。」
「じゃあ、俺で試してみろよ。」
「!?」
東雲 銀時の背後に、とある男がいた。
東雲 銀時はその男について知っていた。
『楽園』の近くにある学校で、教鞭をとっている男だ。
その男は藤原 雪音、橘 愛美、真瀬 愛美の担任だ。
「……なるほど確かに。お前たちに効くか試してみたかったよ。」
「ははっ……精神構造がどう関係するか、俺も気になっていたよ。」
「まあ、お前たちを駆除する為の第一歩といったところか。」
東雲 銀時は先生の種族名を叫んだ。
忌々しい、侵略者の名を。
「『火星人』!」
「はっ、地球人がほざきやがる。」
先生の身体はみるみる内に変形していった。
体色はペールオレンジから、血の様な赤黒い色へ。
四肢は裂け、それが一本一本触手と化していた。
頭は目が異様に肥大化し、口は横に大きく広がり、鼻と耳は皮膚と一体化した。
それは火星人の様相だ。
「『Don't believe F』!」
その『能力』が先生を襲う。
しかし、木城 瑠璃のように不安に押し潰される事は無かった。
「はっどうやら俺はお前の『能力』に耐性があるみたいだな。」
「ああ、そのようだ。耐性があるらしい。」
東雲 銀時はそう言うと、高笑いをした。
そしてひとしきり笑うと、今度は打って変わって無表情で先生を見た。
「耐性があるだけだ。無効じゃない。」
「なに……?」
そこで先生は一つの違和感の見つけた。
それは違和感と言うのは奇妙なものだった。
F。
Fが宙に浮かんでいた。
まるで東雲 銀時を守るかのごとく。
そしてFが先生目掛けて発射された。
(これは恐らく幻覚だ。)
先生は胸中で分析する。
(当たってもダメージはない。)
先生は避けない。
いや、むしろFへと突き進んだ。
「なあ、火星人。これは幻覚だからダメージはない。お前はそう考えたな?」
東雲 銀時は向かってくる先生に何をするでも無く、ただ立っていた。
「だが、それは間違いだ。」
Fが先生に直撃する。
すると、当たった部位が溶け出した。
赤い皮膚が裂け、中からは緑色の体液が噴き出す。
「なんだ……これは……!」
「幻覚さ。幻覚だが、幻覚だからこそ、お前はそうなっている。自己破壊。これが『Don't believe F』の真の力だ! お前は実際にはFに当たってはいない。だが、お前の体はFに当たったと勘違いをし、自己破壊を行った。」
「……なるほどな。耐性……か。あくまで耐性に過ぎないと、そう言う訳か。」
「人間相手にしたように、精神を不安で満たす事は出来ないが、これならお前ら相手でも戦える。」
先生は悟った。
勝てない、と。
先生が諦めの境地に至った時、それは起こった。
「なんだ? 地震か?」
『闇市』が大きく揺れた。
そして感じる、異様な熱さを。
先生は、『火星人』はその熱を知っていた。
これは―――
「太陽だ。」
一瞬にして、東雲 銀時の後方に光の柱が生まれた。
彼も振り返り、その正体を見た。
光の柱のように見えたそれは、実のところ違っていた。
それは残像だ。
高熱による光が、精神に焼き付いて離れないのだ。
「お、おい……『火星人』! あれ何か知ってるのか!?」
「……あれは『暁の化身』だ。まともに戦えば即お陀仏だよ。」
「クソッ新手かよ!」
『暁の化身』は光を収束させ、人形となった。
先程までとは打って変わって真っ黒の、まるでそこだけ穴が空いているような、そんな人形だった。
「お前たち。」
それは先生と東雲 銀時に話しかけた。
『暁の化身』にとって『火星人』も地球人も変わらない。
ただ、己より格の低い者たちだ。
「お前たち、鬼の因子を持つ『龍の逆鱗』がどこにあるか知っているか?」
「鬼の因子……コアか!」
「……ふぇっ! あれ、何かFが怖かったような……。」
「……。」
東雲 銀時は木城 瑠璃に掛けた『能力』を解除していた。
恐らくいざという時のためだろう。
先生は知っていた。
真瀬 愛美が『龍の逆鱗』を所持している事を。
そしてそれが鬼の因子ではない事を。
(まあ、どちらにしても渡す訳にはいかんがな。)
『火星人』、『Golden Ring』、『Another World』『暁の化身』。
この場を制するため、全員が『能力』を十全に発揮する。
南区と北区の統治者である、南原 総司と波北 修三郎は異常事態を察知し、集合していた。
「おいおいおい、修三郎の爺さん! やべぇ事になっていやがるぜ!」
「うむ……、まさか『龍の逆鱗』を巡ってここまでの争いが起こるとは……。」
彼らも『龍の逆鱗』を求める以上は戦いを覚悟はしていた。
だが、ここまでの規模となるのは予想外だった。
彼らが今居るのは北区の管制室。
今、『闇市』の天井に、地上へ続く巨大な穴ができた所だ。
これは道だ。
『暁の化身』が通る道。
その存在は動くだけで災悪を引き起こす。
「……取り敢えず、『龍の逆鱗』だけでも確保したいな。」
「ああ、そうじゃな。所で、お客さんじゃよ。」
「あら、バレていたの。」
「うーわっ最悪〜。」
彼らの後ろに居たのは20歳程にみえる女性二人組だ。
一人は白いワンピースに、ワンポイントのアクセサリー。
非常に落ち着いた雰囲気を纏っていた。
もう一人はゴスロリを着た、非常に派手な女性だった。
対象的な二人だが、お互いを信頼しているような、そんな距離感だ。
「我々は『魔女会』と申します。私は『辰』の古崎 愛美。こちらは――」
「自己紹介とかする必要ある〜? ま、つぐみ姉様が言うんなら私もするけど〜。『卯』の上代 美衣奈。覚える必要ないし。お前らはここで死ぬから。」
「『魔女会』? ああ、魔女の眷属どもか。」
「ほぅ、斬りがいがありそうじゃのぅ。」
波北 修三郎が前に出る。
その言葉とは裏腹に、手には刃物の類を持っていなかった。
不気味に近づく老人を警戒し、二人は一歩下がった。
その瞬間、古崎 愛美の足が切れた。
「ぐっ……!」
「つぐみ姉様!」
「ふむ、浅いな。耄碌したか。」
古崎 愛美のワンピースが血で汚れる。
「お前ぇ! よくもつぐみ姉様を!」
「美衣奈、大丈夫。彼の言うように傷は浅いから。」
「けど!」
「分かっているわ。どうせ倒すのだしね。」
「!」
古崎 愛美が立ち上がる。
それに呼応する様に上代 美衣奈は敵を睨みつけた。
彼女らはその言葉を叫ぶ。
「「『変身』!」」
二人の服が変わっていく。
古崎 愛美は灰の様なドレスを基調としており、どこか機械を連想させるアクセサリーを身につける。
身体のラインに沿うように、一匹の龍が走るようなデザインと、胸の中心にネジのようなブローチが現れる。
そのブローチの真ん中に緑色の宝石が嵌められていた。
上代 美衣奈は黒いドレスだ。
薄いフリルが多く現れ、まるで半透明なドレスを着ているかの様だった。
特徴的なのが、頭に着けられたウサギ耳だ。
そこに二人の魔女が顕現した。
「改めて自己紹介をしましょう。私は『機械龍』、メカニカル。」
「『影兎』、シャドウィーちゃんよ!」
運命の輪は回り始めた。
「さてとー、面白くー、なってきたねー。」
上空、『悪魔』は『闇市』を見下ろしていた。
その口元は隠す気もないほど三日月に歪んでいた。
「どこにー、ちょっかいをー、掛けにいこうかなー。」
今、『闇市』には『愛の果実』、『火星人』、『Golden Ring』、『Another World』、『暁の化身』、『魔女会』、『悪魔』が蔓延っている。
藤原 雪音の冒険は続く!