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八章 世界の秘密の真相

 神戸旧居留地に到着。

 車を降り二人は見たことのない町並みはしゃいでいた。

 「あんまり散らばって行動しないでね。」

 「十ちゃんはいかないんですか?」

 「私は少し休んでから向かいますよ。何かあったら連絡してくださいね。」

 「わかりました。すずちゃんにも伝えておきますね。」

 (私はバレないで此処まで来れたことに、滅茶苦茶安堵しているよ。このまま少しだけ車で寝てよう。)

 小声ですずさんが「寝ちゃいましたね。」と囁いた。

 「そうですね。私たちで先に回りましょうか。」

 

 四十九院くんの夢の中

 (此処は。苦しい。)

 「はっ。」

 眼の前に広がる光景に、絶句し立ち尽くしてしまった。

 「此処は雲の上の草原!ただ空に浮いていない。地面のような感触だ。」雲に感触がある。水の滴の塊がなぜ着地っできるんだ。

 その際遠くから夥しい量の雫の魚が来るのが見えた。

 「こっちに向かってきている。」逃げるような素振りを見せると、一瞬で魚は私の元へ到達した。

 一面私の周りを泳いでいる。

 「なんだこの魚は。」そういうと走って群れを抜け出した。

 眼の前に広がる光景にただただ言葉が出ずに、たたずむことしかできなかった。

 「この空は。」私はこの空に見覚えがあった。

 そう口遊んだ瞬間、また大抵通り車の中で寝ていた。

 「また夢だったのか。」呟いたところで懊悩した。

 あの空は「朱の空」に出てくる挿絵とそっくりだった。

 でもどうして小説の内容が実在していたんだ。

 「もしかして。」今まで起きたことを、できる限り思い出してみた。

 「朱の空」という小説と同じ話が、今自分のみに起きていることに気がついた。

 (「朱の空」の話の続き。空に魅せられた主人公が、そのまま空に取り残されてしまうことになるが、ヒロインが分厚い雲を貫いて、雲に縛られていた主人公を空の呪いから切り離す。それに必要なのは、暑い熱情。)

 「暑い熱情!」そんな巫山戯ふざけた話があるものなのか。

 改めて考えてみてもおかしな話だ。

 (ただこの話と今の私の境遇は努々合致している。)

 「なら.」

 何かを真剣に察するように空を睨み上げた。

 

 一方その頃

 「今此処は大丸神戸店だね。」地図を指差しながらすずさんが微笑みながら言った。

 「パット見古そうですけど、二千年代に震災で修復されたそうですよ。最初のお店は大正時代に建てられた呉服屋さんだったそうです。」看板立てに刻まれた刻文字を読み上げていった。

 「呉服って。」恐らく着物との違いを聞いているのだろう。

 「反物や織物のことを指すんですよ。着物は着るもの全般を指す言葉で呉服とは全然元来の意味が違うんです。」

 「へぇ、冬ちゃんも物知りだね。」

 「これは坊っちゃんから教えていただきましたから。」謙遜して照れている。

 「此処は?」

 「此処は旧居留地38番館としか書いていませんね。」

 「でもおしゃれな建物ですね。」外観や外燈を指さして言う。

 「古き良き港町に働く、外国人のための家って感じですね。」當に正解を言ってしまった。

 「そうですよ。」後ろからいきなり話しかけてきた。

 「うわぁ〜!!」

 いきなりの声に二人とも声を荒げて驚いていた。

 「私ですよ。」(驚かせることができたのは成功できた。)と心の中で面白く思う。

 「いきなり話しかけないでくださいよ。心臓止まるかと思ったじゃないですか。」心の底から驚いたと、謂わんばかりに責め寄ってくる。

 「ごめんて。そんなことより、此処は鈴谷さんが言った通り外国人労働者向けに建てられた建物なんです。昭和のはじめに作られた建物ですが、この旧居留地38番館だけが空襲で壊されずに済んでるんです。」

 「夜になるときれいなんでしょうね。」

 「此処らへんの街の夜景はとてもきれいですよ。今日も予定変更して今日は此処で一泊しますか。夜景もみたいでしょ。」

 「「是非そうしてください。」」

 (この二人共益々テンションが上ってきてるな。詐欺にだけは引っかからないようにね。)

 その後も旧居留地15番館や神戸市立博物館に寄って、神戸の一角の街を巡った。

 (何処も彼処も昔ながらの建物の町並みが続いている。一風変わった雰囲気を体験できてよかったのかな。)

 「ホテルはビジネスホテルを予約しといたよ。旅館とも違って味わいはあると思うよ。」(私は旅館のほうが良いかもと思ってるんだけれど、体験はしておかないとね。」

 早速近くにあるビジネスホテルに向かった。


 「ロビーで寛いでてくださいね。」そういう前から、二人はソファーに深く座り込み疲れを取っていた。

 カウンターで部屋鍵とサービス表を頂いた。

 部屋に入ってみると両側がくっついたベッドがあった。

 「寝る時どうする。」

 ベッドが二つ。

 人が三人。

 そしてクワトロベッドになっている。

 「十くんは真ん中に寝てね。」

 まぁそうするしかないのか。

 「夕食は外でなにか食べないといけないんで、なにか自分たちで探して見てね。できれば近場でお願いしますよ。」もう運転するのは気が引ける。

 「私此処で。釜飯の本店だって。」(それは美味しそうだな。)

 「私は此処で。牛亭で神戸牛を食べたいです。」(それも美味しそうだな)

 「そうだな。」

 (とても悩むな。二人が同じ物を選びそうだったから聞いてみたら、全然違うものを所望してきた。)

 「二人で相談できる?」取り敢えず此処は二人に任せてみよう。それでも決まりそうになかったら、私がどちらかを選ぼう。私が選んだら二人も納得言ってくれるだろうか。)

 「じゃあ、二人で考えます。でも十ちゃんは良いの?」

 「私は何でも食べれるからね。好きなものを選んでいいよ。」そう言うと車の中で見た夢が気になったのか、窓越しに空を見上げる。 

 (今日の夜は曇りか。)

 「そういえば昨日もそうでしたけど、十ちゃんの夢を見ました。」追憶を振り返ったかのように報告してきた。

 「私も十くんの夢を見た。」 

 「え!?」(すずさんも鈴谷さんも私の夢。何故だろう。只管ひたすらに驚くことしかできない。事情を聞いてみよう。)

 

 「なんで私の夢を。」

 「わからないけど十くんが本当に雲の草原の上に立って歩いてた。私は落ちながら見てたけど、叫んでも叫んでも聞こえてなかったみたいなの。空を見ると十くんの周りの雲を回るように、大きな龍が動いてたの。」

 「私もそんな感じの夢を見た。だけど夢ってすぐに忘れるから、と思ってたんだけどずっと覚えてるの。しかも連続して見た。もしかして「朱の空」と同じですか。」(私の夢を直ぐ側で見ていたように語っている。同じ夢を見ていたのかもしれない。)

 「やっぱり「朱の空」と同じか。」鈴谷さんも知ってるほど有名な佐埜芳旧さの よしふるの小説だ。

 「朱の空って。」

 「小説にあるんだよ。」

 「空に魅せられた主人公の仁一が、空の呪いにかかって雲に縛り付けられるの。その時の挿絵にそっくりだった。でも世界を変えたとしても戻ってきてほしいっていう、ヒロインの思いが空の呪いをちぎって物語は終わるの。」

 「そんな本があったんだ。世界を変えてもあの人に会いたい。」「もしこのまま私が空の呪いにかかって、雲の上で戻らなくなったら代々木に行ったら大丈夫だよ。代々木の廃ビルの上に鳥居があるから、強く願いながらくぐると私は戻ってこれるよ。ただそこからその土地には異常気象が続くんだ。でもいつかは晴れるよ。それが天気だからね。」冗談らしく言った。

 「笑い事じゃないでしょ。まさか小説と同じってことは作者も経験したってことなのかな。」

 「わからない。この小説描いた佐埜さん。とっくに亡くなってるから。」今の自分達ではどうすることもできないため只管考えることしかできない。

 

 そんな事を考えながらも神戸の夜景の中を歩き、鯛めしを食べに出た。

 明石海峡大橋のライトアップが遠くの方に見えた。

 「これが鯛めしですね。」

 卓上に出された、大きな釜を見て言った。

 「ただ鯛を入れて炊込みごはんにしただけじゃないからね。だしも鯛もご飯にだって拘ってるのが神戸の鯛めしなんだ。」そう言いながら二人の茶碗によそいながら話した。

 「本当だ。いい具合にご飯が絡み合ってる。味もこんなに濃いものなんですね。」

 (食は命を育むけど、美味しければ心も育むか。)

 烏龍茶を一杯飲んで客室に戻った。

 ルームサービスを見てみてもさほど気になるものはなかった。

 「さて旅の続きはまた明日だな。京都を飛ばして名古屋に行こう。」

 「えっ京都飛ばしちゃうの!」顔を近づけ迫ってくる。

 「その代わり富士山なら見えますよ。」鈴谷さんがなだめるように言う。

 「京都も建物ならよく見えるよ。残念ながら立ち寄っている時間があまりないんだ。京都は入り組んでいるからね。高校の説明では修学旅行は京都に行くらしいね。その時に見てもらえませんかな。」

 「わかった。名古屋で富士山見るか。」素早く切り替えをし気持ちを入れ替えたようだった。

 (本当に男勝りだな。見る目が変わってくるよ。)

 「今日のところはもう寝よう。」(果たせるかな、車を運転してしまったお蔭でまことに疲れてしまった。今日は何か他の夢を見てみたいな。)

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