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四章 いざ旅立て

 とうとう出発前日。

 (すずさんには行けると返信が来ているが、それ以外のことが努々(ゆめゆめ)返ってこない。行けるということは分かるが、家の事情は大丈夫だろうか。)

 ということですずさんに家に来てみた。

 (なんの連絡もせず、来てしまったが大丈夫だろうか。)

 ドアノブに手を伸ばした途端、勝手にドアが開く。

 「あっ」ドアの端が頭に当たったまま

 「すずさん!」

 「十二…国くん。」

 目を見合わせたまま一間の時間がたって、家に入れてもらった。

 「急にお邪魔してしまってすいません。どうしてもすずさんの様子が気になってしまって。」

 「いえ、いいんですよ。聢り連絡しなかった私も悪いですし。」何の事情があったのだろうか。

 「私はすずさんの家の事情はわかりません。ただ私が悩んでいたり困っていた時助けてくれたのは、すずさんです。だから私も力になりたいと思って此処に来たんです。」思い切って言ってしまった。

 ふと本棚の方を見ると、すずさんの家族と思わしき笑顔の三人の写真を見つけた。

 仲睦まじいとてもいい家族じゃないか。

 見つめていると「この写真?この写真は私が六歳の時の写真。」

 何かを察したようにすずさんが話し始める。

 すずさんは懐かしくも悲しそうな目で写真を見つめる。

 「何があったんですか。」無責任にも関わらず思わず言葉にしてしまった。

 「私は本当はずっと明るい性格だって言われてたの。それはお母さんがいたからだと思う。お母さんが私の大好きな音楽の枠を広げてくれたから。昔はずっと音楽が大好きだった。けどまだ六歳のときにね死んじゃったの。川に取り残された名前も知らない子供を助けに行ってそのまま戻らなかったんだ。」つまり母親はもう亡くなってしまったということか。

 「…。」あまりの衝撃に言葉が詰まる。

 「でもそれでも、お母さんの言ってくれた、どんなときにも笑顔でいてねっていう願いだけは、叶えようと思ってさ。」あまりおもりにさせてもこの後の人生が辛くなってしまうな。

 (悲しい過去を背負いながらも、親が現実にはいなくても親の愛は聢り届くものだと強く実感させられる。)

 「なんかごめんね。こんな暗い話もっと明るくしないと、お母さん悲しんじゃうからさ。」

 「ただ無理はしないほうがいいと思うよ。それこそお母さんのためにね。」

 「ありがとう、十くん。//でも……」

 「でも?言いたいことは言ったほうが良いよ。お母さんはすずさんに元気に生きてほしいと思っているはずだから。」

 「私わからないの。十くんにしたいこと聞かれたとしても私応えられない。」

 「今はそれでいいと私は思うな。だってこれからの人生短いわけじゃないでしょ。ならまだまだこれからの人生の中で見つければいいじゃん。しかも明日から僕ら旅に出るんだよ。なら一緒に見つけてみないかい。」偉そうなことを言ってしまったなとつくづく思う。

 「うん」

(いま十くんって呼ばれたような気がするな。)

 

 ようやく陽がてっぺんまで登った頃お父さんと和解できたとのこと。

 「さて私はさっさと宿題を終わらせて本を読まなければ。」そう言うと夏休み課題と書かれた封筒から、数学・国語と書かれた問題集を取り出し、机の上で開いた。いざ始めようというところで

 「坊っちゃん。コーヒーお持ちしました。」筆を止めてコーヒーを受け取る。その時にカレンダーに書かれた、鈴谷さんの誕生日を見つける。

 「ありがとね。あ、ちょっとまってね。はいこれ」引き出しの奥にしまっておいた、包み紙に包まれたプレゼントを出した。

 「何でしょう。」

 「鈴谷さん。今日誕生日でしょ。一緒に暮らしてるんだから祝わないと。」

 ふと鈴谷さんの顔を見ると大粒の涙と涙筋が太陽の光で光って見えた。

 一瞬気に入らなかったのかと焦ったが、

 「私とっても嬉しいです。坊っちゃんと一緒に暮らせてよかった。これは楠瀬先生の新作ですね。楽しみにしてたんですよ。ありがとうございます。」興奮しながら礼をされる。

 「いえいえ。普段いろんなことでお世話になってるから、何かしてあげられないかなと思ってね。」

 「全然そんな。本当にありがとうございます。でも坊ちゃんも読みたかったんじゃないんですか。私が読んであげましょうか。」なんでその発想に行き着くのだろうか。

 あまりに興奮して言うものだから、萎縮してしまうな。

 楽しい日常もいいが、やりたいことよりもまずやらなければならないことからしていかないと、未来の自分が痛い目を見ることになってしまう。

 計画的にやろうと此処ろに刻んだ。

 

 日も暮れ始め鈴虫が鳴き始めた。

 浴室から出たときには一面夕紺色になっていた。

 (自分の時間が進まずとも、時の流れは決して止まることがないことを、遠回しに教えてくれたのだと思う。明日は読書感想文でもやろうかな。どの本が良いか迷うけど。)

 「もう晩ごはんですよ」

 「ありがと。でももう少しだけ此処にいさせてくれ。」

 (もう晩御飯の時間になってしまったのか。鈴谷さんも変わったな。いつも以上に張り切っているように感じるし。)

 夕食後私は晴れていたので、昔使っていた望遠鏡を引っ張り出してみた。

 夜空を覗いていると日中とはぜんぜん違うものが広がっていた。

 昼間でも星は常に僕らの頭の上に浮かんでいる。

 時間によって空はいろんな顔を見せてくれる。

 まるで私を惹き込むかのように空は魅せてくれる。

 夢中になって空を撫でるように見ていると、鈴谷さんが遠目で見ていた。

 見られたことは恥ずかしいが、この感動とは引き換えができないと思った。

 「私もみてみたい。」目を輝かせた鈴谷さんがレンズを覗き込むと驚きと、鳥肌が止まらない様子であった。

 (なんとも初々しい夏だな。今年は初めてのことばっかりだ。でも初めてを経験するのも悪くないかな。)

 時間を忘れて2人で星空を見ていると、一際目を引く青く輝く涙が降っていた。

 ほうき星もちらほら見えるが、太く長い尾を引くあの星は彗星だ。鈴谷さんも見つけたそうで、とてもはしゃいでいる。

 「あれはクロイツ群の彗星だと思う。」得意げに話す。

 「坊っちゃん物知りですね。とてもきれいです。」

 (落ちなければいいんだけどな。こんなに近いこともあるんだな。)

 

 筆者より{なにかの伏線にでも繋がりそうな発言をしているが、この彗星は殆どの可能性で落ちませんし伏線にも出しません。}

 

 「今日はもう寝ましょうか。」興奮も冷め、夜も遅い時間になっていた。

 

 朝のテレビを見てみるとやはり昨日の星空のことについての特集をやっていた。

 いよいよ今日から一週間ほど旅に出る。

 鈴谷さんが運転する車ですずさんを迎えに行くと、鈴谷さんに「坊っちゃんは助手席ですからね。」と言われてしまった。

 「そろそろ名前で読んでください。しかもそれだとすずさんが後ろ一人になってしまうじゃないですか。そんなこと、私は嫌ですよ。」少し強気で言うと、鈴谷さんは萎縮して、「ごめんなさい」と弱々しく言った。

 「お待たせ。ごめん少し遅れた。」と言い乗り込んできた。

 「全然大丈夫ですよ。良し、これで準備も整った。まずは九州の出入り口まで出発ですね。」

 次なる欲求を満たすために、三人で旅に出た。この先の旅は屹度きっと良いものになるだろう。

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