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三章 自分のやりたいこと

「じゃあ、このまま何分か山を登ると猪八重谿谷の入口があるの。そこから谿谷を進んで行くルートでいい?」良いって言われても任せないと私は来たばっかりだからな。

 「私は此処に来たばかりだから、あんまりそういうこと知らないから案内してもらえない。」

 結構な坂を登って三十分。

 今は夏なのに涼しく、汗はすぐに冷たくなっていった。

 あまりにも心地が良く、「まほら」の一場面のように感じた。

 「こんな神秘的なところがあったんだ。」心から感銘を受けた。

 「ほら、あれが瀬戸の滝・瓶の滝だよ。」

 滝の飛沫が水面に弾ける音、鳥の羽ばたく音、自分が歩くたびに転がる石の音。

 すべてが新鮮だった。

 「自分がどんなことをしたかったのか、よくわかったと思います。今までの私はただ勉強をし、親に連れられることしかできませんでした。でも今は自分のやりたいこと、それは空の上の世界を見てみたいことが一番今は強く感じる。これが私のやりたかったことだと思う。」一気に思いついたことを言い流してしまったが内藤さんは。

 「すごい四十九院くん。でもすずって呼んでよ。お近づきになりたいからさ。」すずさんか。呼びやすい名前だが私にも愛称がつけられるのかな。

 「では、すずさん。私のことも名前で読んでくれますか。今まで名前で呼ばれたことがないんですよ。」

 「わかったよ。十二国くん。」

 気がついたらあたり一面に滝の音が広がり、私達を包みこんでいるようだ。

 鈴谷さんにはもう少しで帰ることを告げ、山道を降りていた。

 「なんでいつもでも明るく振る舞えるの。時には暗い時があっても普通じゃないかなと思ったんだけど。」

 「確かに私は学校では明るく振る舞っているよ、家でも...。やっぱなんでもない。」何かを咄嗟に隠しているように察しが付いた。

 この時少しだけすずさんとの距離が空いた気がする。

 家に帰るとやはり鈴谷さんが待っていた。

 でも今日は「おかえりなさい」と明るい声で言ってくれた。

 「今日はハグはしてくれないんですか。」いきなりのことに言葉を失うとはこのことだろうか。

 「え、仕事でしてくれたんじゃないんですか。」

 「仕事は仕事でやってますけど坊っちゃんのことは別です。」私のことも仕事のことも、同じようなことだと思うけど。

 「そうだったんですね。」

 「甘えたかったら何時でも言ってください。私に甘えてください。」

 「今は遠慮させてください。そこまで急に激しく詰め寄られると、心臓が止まりそうになるよ。」

 何かいつもと大きく違うと犇々と感じる。

 このあとなんかあるな。

 

 「今週が終われば夏休みに入る。それまでの内に聢りと学校生活に向き合うように。では先生からは以上。」

 今週も終われば早夏休み。

 流石に時間が早すぎるな。

 だけど空の雲は殆ど動かないまるで遠くの街や風・夏の季節を待っているかのよう。

 すずさんに教えてもらった癒敬の場所を思い出すと、今までに起きた楽しいことが蘇ってくる。

 やっぱり空の青さを知るということが一番楽しかったのかもしれない。

 「何見て考えているの。」

 「あっすずさん。空の青さを見てどこまで続いているんだろうと考えているんだよ。」遠くの青空と虹かかる山々を見つめながら言う。

 「なんか深いね」浅そうに言う。

 「勿論。空は海よりも広く海よりも深い。そんなところ知りたいに決まってるよ。あの青空の雲の上に何があるのかをね。」叙情的な雰囲気を醸し出しながら、自分は何を言っているんだ。

 …

 「じゃあ、いろんな空を見てみる?」

 最初は彼女がなんと言ったのかが分からなかった。

 なんでそんな事を言ってくれているのだろうか。

 けれどすずさんの家で何かが起きたのは、なんとなく察しが付いた。

 すずさんと一緒に自分のやりたいことができるのはとても嬉しいが、家を何日も開けてすずさんの家族は了承するだろうか。

 その上私の家の鈴谷さんをどうするかも問題になってくるな。

 今の鈴谷さんなら絶対についてくると言うはずだ。

 まあ、付いて来るのは別に問題じゃないが。

 如何せん家を長期開けるのは…山奥だから大丈夫か。

 「ねえ、じゃあさ来週の月曜日に出発しない?夏休みの初めの内に言っとけばさ、さほど支障もないしさ。」

 トントン拍子で話が進む中、疑念が残るが道中で解決してくれればよいと楽観的な考えを持っていた。

 確かに早めに行っとけば後ででも他のやることはできる。

 「すずさん何か私に隠し事してない?」

 「ん、!なんにもないよ。本当に何にもないから。」やっぱり何かあるけど、詮索するのも良くない。

 「じゃあ七月二十九日に出発でいい?」

 「うん。」

 (先ほどとは違い高らかな返事だったな。余計に気なる)

 ちょうどチャイムが鳴った。

 「起立!礼、ありがとうございました。」

 「こっちは鈴谷さんを説得して連れて行こうと思うから、すずさんはちゃんと親御さんを説得してきてください。では今日のところはもう帰りましょうか。」

 (鈴谷さんは説得するまでもないような気がする。)

 「うんわかったじゃあまた明日ね。」

 

 〜数日後〜

 「鈴谷さんお願いだから。すずさんも一緒に行きたいって言ってるから。」

 「坊っちゃんと二人きりがいいんですけどムスッ。」

 「三人もしくはあちら側の親も来るから二人きりにはならないって。しかも鈴谷さんとは何時でも旅行に行けるでしょ。」

 「それなら…遠慮なく私も付いて行きます。」嬉しそうに飛び跳ねるような勢いで、承諾してきた。

(意外と粘ったな。)

 「で何時行くんですか。」

 「七月二十九日を予定してるんですけど、空いてますか。」

 「来週ですね。わかりました。とても楽しみです。先程は駄々捏ねてごめんなさいです。お詫びに私の方からハグさせてください。」両手を広げて、待ち構えてきた。

 「いやいいですから。」それを避けようとするも、あまりに私が弱すぎる。

 

 一方その頃

 「勝手なのはわかってる。でも私ももう自立した子供だから。」

 「とはいえまだ未成年だろ。聢り親の許可を得ないと。それにひとりじゃないと言ってたけど、一緒に行く子にも迷惑かけてるんじゃないのか。少しは考えなさい。」

 (明日から夏休み。出発までまだ時間はある。)

 

 場所は変わって

 「鈴谷さん。アイスコーヒー持ってきてくれない?」

 「はいただいま。」

 真夏にはグッと冷たいものを飲むのが爽快すぎる。

 ただ最近やりたいことをやりすぎて心が感傷しすぎている。

 気をつけよう。

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