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十二章 在りし日の家と幼馴染

 「まさか、十ちゃんがここに来たいとはね。」

 「田端に住んでいたんですか?」

 「そうよ。田端。私はここの出身だけど十ちゃんはここで育っただけ。」

 大きな勾配の坂を登っていると「あっ、ここです。私が育った元の家。九年間ずっとこの場所で育ったんだ。何も変わらないまま残ってますね。」

 「そうですね。この坂のフェンス越しで見えるこの景色。懐かしいものですね。」

 (東京都北区田端六丁目四-十八は私の育った街。)

 「十くんはなんで親に従うの?捨てられたと思うなら従わなければいいのに。」

 (本当にすずさんは。でもこういう所なんだよな。私が好きなの。)

 「慥かに捨てられたと思っていますよ。でも従わないと親が色んな手段を使ってきますからね。でも今回の引っ越しはとても良かったと思いますよ。引っ越しして良かったって。だってすずさんと出会えていろんなことを知れました。その御蔭で鈴谷さんとも心が繋がりました。そんなことを教えてくれたすずさんには頭が上がりませんよ。」

 ふと上空を見上げると青空に虹がかかり、白く色のついた風が見守るかのように渦を巻いていた。

 「さて次はどこに向かいますか?」

 

 東京駅に向かう道中。

 「因みにエレはどうしたの?」

 「名古屋の旅館の人に面倒見てもらってます。ただ「お金を支払ってきてるので全然大丈夫です」って。」

 「私新幹線初めて乗った。滅茶苦茶早かった。あんな乗り物があるんだね。」

 これからもう一回乗るということを知っているため正月気分になって言った。

 「あんまりはしゃがないようにね。東京は人が多いから。」

 東京駅に着くと「東京駅内の駅弁を買っておいてください。私は三人分の新幹線の予約をしてきますので。」

 「わかりました。」

 

 駅弁屋の前

「どれにしましょうか。」

 「私はこれで。」

 「良いですね。では私はこれにします。」

 「十くんのはこれで良いかな。」

 「良いと思いますよ。」

 一方私は「東北新幹線。三人。予約。発券できましたね。」と発券機でチケットを買い駅弁屋に向かった。

 「お待たせしました。」出口の所で袋を持った二人を見つける。

 「これがチケットです。早速行きましょうか。」

 「そうですね。」駅舎内につくとすずさんが興奮して言った。

 「この駅さっきまで乗ってた電車の駅よりも広いですよ。端が見えないです。」

 「新幹線は電車よりも圧倒的に長いからね。では乗り込みましょうか。」

 あらかじめ銀座で買っておいたスーツケースに、衣類を入れたものを座席の後ろに置き席についた頃には発車していた。

 「さて駅弁は何を買ってくれたのかな。」袋を開けて二人が弁当を取った。

 私のはタコ飯だった。

 (淡路の蛸壺に入ったタコ飯を買うとはよくわかってるな。)

 感心している最中さなか、鈴谷さんから思いもよらない質問が来た。

 「前から気になっていたんですが、十ちゃんの背中には傷があるんですか。」

 「!」

 「その、昨日私を持ち上げてくれた時に見えたんですけど。その時は聞いても話してくれなさそうだったので今聞こうかなと。」

 無遠慮に見つめると、俯向いてしまった。

 「では有りの儘話しましょう。慥かに私は背中に傷があります。鈴谷さんが家に来る前から蜿蜒えんえんと前。」

 

 〜回想〜  {}回想 「」現実

{私町子。あなたの名前は?}幼気な少女が無表情の少年に向かって自己紹介をしている。

 {僕は四十九院十二国。}

 {十二国?どんな意味なの?}

 {わからない}俯向いたまま答える。

 {大丈夫だよ。一緒に遊ぼうよ。}

 「この子とは六歳の時に出会ったんだ。宮城から引っ越したしたての私に話しかけてくれたのは彼女が最初だった。親から決別された私と同い年の少女の存在が、なんとも離し難い存在へと変わってしまった。」

 {おはよう十二国くん。}

 {あ、おはよう}おどおどしながら挨拶を交わす。

 そして時は流れて。{おはよう十二国くん。}{おはよう町子さん。}

 時は流れて{おはよう四十九院くん。}{おはようけ、。}

 クラクションが鳴りながら車が近づく。

 咄嗟に身體動く。

 「気付いたら私は入院していた。親が入院させてくれたが見舞いには来ない。そこには私の幼馴染も来なかった。なぜ来なかったかはわからない。でもその時はとても悲しかった。だけど事情があるのだと思って、退院して中学に入学した。けれどそこに幼馴染の姿はなかった。」

 「今その子はどこに?」

 「わからない。ただ他の友人に聞いたら見かけたことがあると、教えてくれたからまだあの町にいたのかな。」

 「今でも会いたいと思う?」

 「そうだね。会えるものなら会いたいよ。聞きたいこと、話したいことも数多にある。でももう会えないのかなって思うよ。そんな奇跡が起こらない限り。」

 「奇跡は絶対起きるよ。だって私と出会って旅に出て、色んな体験もできたのは奇跡でしょ。関わった人たちの、選択や分岐の積み重ねで起きたんだよ。」諭すように言う。

 「それもそうですね。」と鈴谷さんが食べながら話す。新幹線の一角が笑いに包まれた。

 

 暫く新幹線が寂寞せきまくに包まれていた。

 目覚めたときには郡山を過ぎていた。

 (この近くの空は雲から流れてくる、白雲が低空を飛んでいるのか。)

 窓から覗く見晴らしの良い叢には、白石蔵王の果樹園が見えている。

 (二人はまだ寝ていた。限限まで寝かせておいてあげよう。今見えているのは親潮か。)

 {次は仙台です。}

 早々新幹線は目的地に着いてしまった。

 「二人共起きてください。もう着きますよ。」

 「わかりました。」

 「大丈夫です。」

 二人がゆっくり体を起こし、水筒を一杯開かした。仙台駅構内に入ると先程までの光景とは打って変わって、都会に様子が見受けられる。

 「流石に街の形も変わったな。」昔のことを思い出しながら下車。

 「まずは此処で観光します。そしたら一泊して、私の生まれた家に。」

 なにか私の足に感触を感じて話すのをやめ、足元に目をやると「エレ?エレ!」

 「なんでこんなところに!」

 「そんなことより早く行こう。」

 「今のはすずさんが?」

 「私じゃない。」

 「私だよ。」

 なんとも可愛らしい声でエレが鳴いてた。

 猫が喋ったことにその場が固まる。

 「エレ今喋った?暫くの間黙っててね。」

 「わかった。」と言い私に抱かれた。

 「取り敢えず行きましょうか。」笑い事ではないことをあたかも冗談な雰囲気でやり過ごす。ツッコまれないようにしよう。

 途中で猫用のケースゲージを買いエレを入れた。

 「まずは伊達政宗公によって作られた、瑞鳳殿を見に行きましょうか。その後帰る時に宮城野区の宿があるので今日はそこで。」

 「調べてくれてありがとうね。早速行ってみましょうか。」

 バスに揺られ数分、仙台の町並みを潜り商店街を渡り着く。

 

 「ここが瑞鳳殿。今の時期は人が多いと思ってたけど、あまりいないですね。」

 「では写真撮りますね。はい撮れました。」

 写真の現像を見ると姉が明瞭に写っていた。

 「お姉さんも一緒に旅をしているみたいですね。」

 「十くんの隣りにいるよ。笑ってる。」(面白そうに写真を見るが、なんで姿を表さないのだろう。)

 「屹度十ちゃんが戻ってきて嬉しいんですよ。」

 「そうですね。」

 探訪先を回りつつ、海を目指した。

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