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十章 新しい家族

 まずは石疊の岩盤温泉に浸かってみたが、今までの腰の痛みや関節の痛みが和らいでいくのが、神経に伝わって感じる。

 客室は満室であるにも関わらず、人が数人しかいない。

 もう入ったのか、これから入るのかはわからないが。

 露天風呂で暖まっている最中、また謎の声が聞こえた。

 今度は聞こえた方に手を伸ばしてみた。

 その瞬間「キャッ!」と女性の叫び声が聞こえた。

 何もないところからの叫び声に驚いて後ろに退いていしまった。

 「何!」当然の反応である。

 「もう。如何わしいとこ触らないでよ。」ぼんやり顔のようなところに赤い頬が出てきた。

 そしてそのままどこからともかく虚空に薄っすら靄が出てきて、白いスカートを履いた女性が出てきた。

 「君は一体誰なんですか。しかも此処男湯ですよ。」(結構若いように見えるが、私よりかは年上だ。)

 「そんなの、知ってるはよ。他の人達には見えないの。勿論君は例外にね。」

 辺りを回してみると、確かに私にしか見えていないようだ。

 「何故私にだけ姿を見せるんだい。」つい気になって聞いてみた。

 「ずっと見守ってたのに気付かなたったの。私あなたの死に別れた姉よ。生まれてすぐに養子に出されて、十八の時に交通事故でね。それでさ、急に十ちゃんが旅に出るって言い出して、家で聞いてたのよ。」(私に姉がいることにも吃驚したが、その姉が幽体になってずっと見守ってるって言っている。普通の人が聞いても朗らかおかしい話だと思うだろう。)

 「つまり、ずっと私の側にいたって言う事かい。」

 「そうだよ。気付かなかったんだろうけど、お姉ちゃんはずっと側にいたよ。」(そうだったのか。でもなんで今まで声が聞こえなかったのだろう。ずっといたならもっと早くに気付けていれば、家族の存在を認識できたのに。)

 「そうだったんですね。」(親には捨てられたかもしれないが、家族単位では見守ってくれている人がいた)のだと聰った。

 

 「そろそろ逆上せそうなので出ますね。周りの人も私が独り言をずっと話している人のような目で見てくるので。」傍からは何もいないところに話しかけているようにしか見えなかった。

 「大丈夫だよ。絶対私のことは見えないんだから。」そう言いながらも私はさっさと着替えて入口の前のベンチに座り込んだ。

 然し「この先の旅もずっといっしょにいるつもりだったんだけど、すずさんと冬ちゃんにもちゃんと説明しないとね。」一緒に行きたげな顔して言ってくる。

 「説明したらどうこうなる話なの。」(お姉ちゃんと読んで良いのかな。こんな状況で考えることではないけれど。)

 「大丈夫だと思うよ。最初は信じてもらえないのは当たり前だよ。だけど十の友達なんだから、多少変わった子達で信じてもらえそうでしょ。」(多少変わった子供って、私のことをずっと見守ってきているのか怪しくなってきた。)

 「少し楽観的な気がしますが。あと、恥ずかしいんですがお姉ちゃんと読んでもいいですか。」(今は弟らしく振る舞いたいという願いの元、言ってみたものの恥ずかしさが勝ってしまうな。)

 「当たり前じゃない。私はあなたのお姉ちゃんなんだから。」自身いっぱいの返事。本当に私の姉なのかも怪しくなってきた。

 「じゃあ、二人が来るまで待ちましょうか。」そう言うと姉は私の隣に座り、暫くの間見つめてきた。

 

 数分後

「お待たせしました。」頭の髪を拭きながら、耳の中の水を取るために頭を振りながら、暖簾から出てきた。

 「え!」絶句したまま持っていたものを落とす。

 二人が私を見て固まる。

 至極当然、後ろに幽霊がいるからな。

 「大丈夫ですよ。後ろの幽霊のことでしょ。この人は私の死に別れた姉なんです。」(信じてもらえるかな。)

 「十くん。お風呂で頭でも打ったの。」(そんな事あるのかと疑いすぎて、私まで怪しまれてしまっている。)

  「そうですよ。幽霊には吃驚しましたが、まさか姉と思うようになるなんて。そこの幽霊になにかされたんですか?」(鈴谷さんにまで怪しまれるとは、中々手厳しいな。)

 「もしかして取り憑かれちゃった?」

 怒涛の勢いで聞いてきたが、私の言っていることは本当なのにな。

 「取り敢えず部屋で話しましょうか。」(一旦場所を変えれば気持ちも多少変わるだろう。)

「そうですね。」と姉が隣に立って一緒に歩いている。

 家族が寄り添ってくれるのは初めてのことだった。

 そんな事もあってか胸も温かくなってきた。

 部屋についたらまず姉が質問攻めにあった。

 本当に姉なのとか、色々言っていたが間違いなく私の姉だ。姉が五歳の時に養子に出されていたのを、三歳の私が聢りと思い出しているからだ。

 一通りの質問が済んだようで、三人が一緒に揃ってきて私の前に座り込んだ。

 「お姉さんも連れて行こうよ。まだまだ私達も話したりない部分もあるし、十くんのことを愛してくれる唯一の家族なんだよ。」続けて

 「そうですよ。私達の親は何故か来てくれませんが、十ちゃんの家族が死んでまで見守ってくれてるんですから、折角ですし一緒にいきましょうよ。」さっきまでの反応と打って変わって、完全に信じてしまっているようだ。

 二人があんまりにも宥めて来るので「ずっと一緒にいていいよ。」と認可してしまった。

 「私も初めてのことだから、恥ずかしいんですよ。血のつながった家族の存在を知れて。」

 「ところで十。私もずっと付きっ切りで見てたわけじゃないし、もう大人なことはしたの。」思わず聞き返したいほどの質問が聞こえた気がした。一度考えて

 「そんな事するわけ無いでしょ。」と慌てて言ってしまったためか、皆が私を凝視してくる。

 「じゃあ、今日しちゃいます?」何を言っているんだ皆は。

 結句この話は笑い話で終わってしまった。

 そのまま夜を明かす気でいるのか、全然布団に入っても三人はなにか話していた。

 そんな眺望を見ていたら私のほうが眠くなってきた。

 (明日あたり扇子を渡すことにするか。)


 三人の会話

 「じゃあ、まず私からね。十ちゃんは昔は口が厳しくて、私にもきつく当たっていたけれどそれ以上に彼なりに考えた結果だから、誇らしいなとは思いました。けど言いたいことはもっとはっきり言ってほしいな。」照れながら言う。

 「私が初めて会った時、緊張なんて一切していない様子だったよ。私のほうが緊張して話しかけるのに躊躇してたぐらい。でも一緒にいて本当に楽しい。ずっと一緒にいたいなと思って。」惜しそうな顔で言う。

「私唯一気にかけていた家族だから。小さい頃からよく知ってるは。でも生きている内に逢いたかったなって今でも思うの。幽霊と人間じゃあんまり話せないですからね。」

 三人が三人で互いに、私との出逢いや性格を分かち合っているのか。それもまた良しだな。

 

 翌日「ここは、」目を擦りながら目の前の展望を見た途端、身體が凍りついたように動かず絶句していた。

 足元にはくさむらが広がっており、更に一段上の方には、大きな層雲と彩雲が浮き上がっていた。

 日の燃えるごときの雲模様に、差し掛かる日差しが日暈を造り、夏の雲の草原を照らしていた。

 「ついに来てしまったか。空の呪いだ。」呆気にとられていて気付くのに時間だかかってしまったが、

 「このまま帰れないのか。もう三人には会えないのか。」遣る瀬無い気持ちで一杯になった私の心は、もう現実にはないことを気付いてしまった。

 今までとは違う感触がしていた。今までの夢とは違う感触。その時もう帰れないのだと心付いてしまった。ただ絶望は感じない。

 空を大きく見上げると、心配がこみ上げてくるだけだった。

 「今頃三人は何をしているのかな。最後の最後まで本当のことも言えなかったし、渡したい物も私損ねてしまったな。こんなことなら最初から言っておけば良かった。」後悔先に立たずとは當にこのことだろうか。

 何気ない平生の中のほんの些細なことを失ったとしたら、それは大きな因果につながるということを強く実感していた。

 

 一方その頃

「大変だよ、二人共!十が。どこにもいないんだ。」慌てた姉が二人を起こす。

 「なんで。何処にもいないよ。」何処を探しても見つからなかった。

 「まさか...」鈴谷さんが車の中で話したことを思い出した。

 そして三人で事情を共有し、次すべき行動について考え始めた。

 

 「十ちゃん雲の上の草原に行ったって言ってた。その後も何回も夢に出てきたの。それが「朱の空」っていう小説の内容と殆ど合致しているの。話の内容の最後では、空の呪いにかかって誰かが犠牲になることで異常気象が静まるっていう話なの。ヒロインの遠野遙香は主人公を助けに行って、戻ってくるんだけど異常気象がまた再来して結局東京の待ちは天候がずっとすぐれないまま終わるの。」

 

 「つまり十を助けに行ったら何処かで異常気象が続くってこと?」心配そうに尋ねる。

 「多分そうなると思う。だけど助けに行くためにはまず代々木の廃ビルまでいかないといけない。そこに祀られてる天候の神でもある稲荷様に強く願えば、十ちゃんがいる世界に行けるってこと。」落ち着いて冷静に話す鈴谷さん。

 「でも今から車じゃ時間かかっちゃうよ。」

 「十ちゃんのお金使わせていただきますよ。」と言い新幹線の切符を買い、東京まで向かうことに即決した。

 車は旅館の人に、暫く止めさせてもらうことになった。(有料)

 「でも代々木の廃ビルになんでそんな神社が。」

 「今はそれでも行かないと。」と鈴谷さんが猛烈に行動を起こした初めての瞬間だった。

 「すずちゃん。家族は大丈夫?」お姉さんが心配して聞いてきた。

 「大丈夫です。」快く返事をし十くんに(また会いたい)と強く願っている。

 「でもこの儘だとかなり旅が長くなるし、もしかしたら帰れなくなっちゃうかもしれないの。」元々の旅の期間が、予想以上に長くなる可能性を訴えているようだった。

 「私にとっても十くんは家族です。お姉さんと一緒で助けたいんです。」その瞬間新幹線の警鐘がなった。

 新幹線内に飛び込むと固い決意の元、鈴谷さんの元に向かってどうしたらよいかを考えた。

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