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一章 初めての心の動き

 子供の人生というのは人生の年数と比べれば非常に短い。けれど子供本人は長く感じている。

 然し時が立つのは徐々に早く感じてしまう。

 この長くも短い時間を大人はどう思っているのだろうか。

 子供に教えても甘受してくれるだろうと思っているのだろうか。

 然しそれはまるで列車のようだろう。

 列車は決まった道を決まった時間に通るようになっている。

 ましては違う道を走ったり渡ったりしたら人間は元に戻すように強制する。

 けれどそれでも列車はそんな人生を送りたいのだろうか。

 これは子供に関しても同じことが言えるだろう。

 人生という自由なレールを親が管理し決まった道しか通らないように調整し、少しでも外れると元に戻すためにいろいろなことをしてくる。

 けれど子供は本当にそれを望んでいるのだろうか。

 そんな望みがあったとしても簡単に無視されてしまう。

 

 雪を駆け、雲を数え、雨に遊び、風に吹かれて、花に埋もれ、草笛を鳴らす。

 命を育むために必要なもの。

 少年・少女の本当に話したいこと、本当にしたいこと、どんな人生にしたいのか。

 この物語はそんなことを探していた二人の一番長い夏、世界の秘密を知る物語である。

 「命は儚いもの」この小説は僕が一番好きだった本だ。

 今日は親の都合で遠い宮崎の日南市に引っ越すことになったため、越す準備をすることになった。

 生まれて十五年間過ごした土地。別れは感慨な雰囲気を出してくる。

 然しそんな事を続けていれば、人生の中の幾千幾万の別れがもっと辛くなってしまうだろうな。

 「思い残すことは全てこの中に入れよう。」と空き斗缶に思い出の写真や品物、本などを詰め込んだ。

 旧友に渡すことにしたが受け取ってくれるだろうか。

 未だに不安なまま時間は待ってはくれず進んでいった。

 急に決まって急に出発だったからだろうか、名残惜しさがあとからじわじわと心を巡っていく。

 東京最後の日、私は旧友に別れを告げ旧友との約束を交わした。

 「離れていても絶対に戻ってくるよね。」少し涙ぐみながら手を差し出す。

 「多分ね。それまでさようならだね。大丈夫{さようなら}っていう言葉は、別れじゃなくてまた合う約束なんだよ。だから大丈夫。」手をしっかりと握った。この温もりは忘れないだろう。

 この瞬間不安も何もかもを預かってくれたような気がした。

 (元気に逞しく生きてほしいものだ。親みたいと思われるかもしれないけど。)

 そもそもなぜ引っ越すことになったのかという話である。

 父親は古代民俗学の学者、母親も大学病院の看護師。

 (こんな家庭環境で育った私をどこか遠くの新しい場所、新しい町、新しい高校、新しい友達に囲まれたところに追いやりたかったのかな。なら私は最初から生んでほしくなかったな)

 こんな気持ちはとても久しぶりであった。

 

 家を売り払い車に少々の荷物を乗せ出発した。

 親はそのまま東京に残って仕事を続けるそうだ。

 「やっぱり私は邪魔になったのかな。」少しでも望みを残していたが、もう親のことなどどうでも良くなってしまった。こんな人生を送り続けるんだったらな...。

 「そんな事は決してありませんよ。坊っちゃん。」勇気を持って弱々しい声で言った。

 (彼女はメイドの鈴谷さん。鈴谷さんとは色々あって私専属のメイドをしてくれている。三年前から一緒にいるが基本何でもやってくれる。今年のはじめには運転免許を取得して、今回の引っ越しでずっと二人きりになる仲だ。鈴谷さんはほとんど笑わないし、寡黙な人だ。ただ私に対しては気にかけているのか、口数は少ないが心配してくれる。)

 「何故だい。」この時本当に意味がわからなかった。親は私を捨てた見れば分かる話だ。

 「私の親は鈴谷さんと私を現に捨てているじゃないか。」慰めはもう聞きたくないこの一心だった。

 「確かにそうですね。私の境遇よりもひどいかもしれません。けどそれでも。」

 「この話はこれで終わりでいいかい。」独り言はもうしないでおこう。

 「はい。ごめんなさい。」少し強く言い過ぎてしまったかな。

 沈黙が続く中私は黙々と「青人草」という小説を読んでいた。

 丸一週間かけて宮崎県に入った。

 引越し業者はもう到着しているそうだ。

 山の奥へ益々入っていく。

 何十分もかけて到着。

 山の奥の奥。

 住所は宮崎県日南市  猪八重いのはえ二〇三-五-七。

 (緑豊かで空気も澄んでる。東京とはまるで違う。)

 「坊っちゃん。先に荷物出しますね。」玄関前の廊下の奥で鈴谷さんが顔を出して伝えてくれた。ただ帰する所、無表情のままだった。

 「そうしてくれ。」(思わずいつも通りの喋り方で命令してしまった。初日に怒鳴ってしまったこと、まだ根に持ってるかな。早めに謝っておかないと。)

 {昔はもっと構ってくれたのに。(鈴谷さんの心の声)}片付けも粗方終わって夕飯を食べた。転入先の高校には来週出席という形だった。(それまでは鈴谷さんの手伝いでもしないとな。それに加え)

 こうして引越し当日の夜が明けた。

 

 翌日箱を全て開け中身を片付けた。

 けれど荷物も少なかったので、そこまでの時間はかからなかった。

 (今頃親は何をしてるかな)

 そんな事を考えていても、精々私は捨てられたということぐらいしか頭には残っていいない。まるで脳の中の海に漂う残滓のように大きくなっていく。

 (車の中で鈴谷さんなんて言おうとしていたのかな。)そう気に成り始め聞いてみることにした。

 会いに行こうとすると、「坊っちゃん、これ」と

 両手に含まれた箱を出してきた。ステッドラー製の筆記箱であった。

 「今日御誕生日ですよね。東京にいるうちに買ってきました。」

 「それは嬉しいことだが、とても高いだろう。」

 「いいえ私にはこんなことしかできませんから。」とあまりにもはっきり言った。

 「ありがとうございます。大切にしますよ。」(こんな鈴谷さん初めてみた。やはり初日のことを覚えているからか?)

「あの、鈴谷さん車の中で厳しく言い過ぎてしまって申し訳なかったです。気にかけてくれただけなのにあんなに。」心を悔やんで頭を下げた。続けて

「車の中で私に何を言おうとしたのか教えてくれますか。」

「良いんですよその話はもう。私も迂闊すぎました。坊っちゃんのプライベートにまで口を出してしまって。」淑やかな声で言って、話をはぐらかそうとしている。ただこれ以上の詮索はしないでおこう。

 そんな時突拍子もなく、宮崎県日南市という体験できないことをして、たくさんの思い出を残そうと思った。

 まずは学校までの道のりを確認したかった。

 川や橋を歩いて四十分のバス停まで行ってバスで最寄りの駅まで二十分。

 そこから電車で二十五分、駅から学校まで歩いて三十分。

 (計二時間近くも通学にかかってしまうため、行くだけでも疲れてしまう。ただ鈴谷さんに送り迎えをしてもらうのは申し訳ない。)

 近くの支川の河川敷を歩いているとおそらくこれから通うであろう高校の子たちが帰っているのが見えた。

 (来週から私もあの高校に行って、この道を通ることになるんだろうな。)

 この日の夜は色んな気持ちが混ざり合い、山奥の虫の声が聞こえあまり眠れなかったまま朝を迎えた。

 

 今日は初めての高校への登校日。

 私は結局一睡もできなかった。

 山の中の誰もいない道を通りバス停まで向かうと、バス停のベンチに腰を掛けていた女子高生を見つけた。

 制服からおそらく同じ高校だろう。

 私もベンチに座りバスが来るのを待った。

 十分くらい山の話し声しか聞こえなかった。

 (バスが来るのがこんなに遅いなんて。)少々苛立っていると淡々と時間が過ぎていくのを繊細に感じた。此処まで時間の流れを感じ取ったことはなかった。

 慣れない時間を過ごしている内にバスが来たようだ。

 バスの中にはもちろん誰もいない。

 私とあの子以外は。なぜあの子はこんなところのバスまで来ているんだろう。途中にもバス停はあるのに。一先ず小説を取り出した。

 「青人草」を読んでいた時ひょんなとこから声をかけられた。

 少しおどおどしている様子だったが「日南高校ですよね。」と。心を読まれたかと思ってしまった。

 いきなりのことで驚いたが続けて「転入生ですよね。もし良かったら学校まで案内しましょうか?」と優しく怒涛に聞いてきた。

 一人というのも物寂しい。

 (然し...)

 結局付き添う形で高校まで着いた。

 「私の教室は一年二組だから。転入生は職員室に行って先生と一緒に教室に行くの。じゃあ、また。」かなり積極的に話してくるような人だった。

 「はい。ありがとうございました。」

 (私の教室も一年二組なんだよな。あの子の言う通り職員室に行って来よう。)

 「今日からお世話になります。四十九院と申します。」

 「はい。四十九院つるしいんくんね。私は君のクラスの担任になる黒川です。それじゃ、早速教室の方へ行きましょうか。」

 先生とともに教室に入ると複数人の生徒たちがいた。

 東京都は違い人数もあまり多くない。

 ただ元気はたくさんあるようだ。

 「先生が静かに〜」と言ってもかまびすしいままだ。

 けれど其の中にやけに落ち着いた子がいた。

 朝、一緒に登校した子だとすぐに分かった。

 (東京と変わらぬ生活を送りたいものだと身構えていたが、もっと身構えなければならないようだな。隣がすでに話したことのある経験者だとすると色々お世話になりそうだ。)

 

 驚いたものだ。

 授業も大して変わらない。

 然し送りの子が隣になるとは、とんだ奇跡だと驚いた。

 (ようやく学校が終わった。でもまた長い道のりを通って帰らなければならないと思うと体力がね。)

 靴箱から靴を取り出すと呼びかける声が聞こえた。

 朝のあの子だ。

 「帰りも一緒に帰れないかな?私と同じ方向の人君しかいないからさ。 ...私内藤。内藤すず。あなたは」改まった声で手を差し伸ばしてきた。

 「僕は四十九院・十二国。よろしく。」

 手を交わした瞬間、夕日の斜光が眩しく入ってきた。

二章の投稿は12月頃を予定しています。是非閲覧ください。

常時誤字脱字の受付をしております。

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