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男ってのはそんなもんだよ

「勇者制度の問題については今後考えるとして、話を戻しましょう。ポルン様は適性をあげたいとのことですが、いつから修行の洞窟に入りますか?」

「できるだけ早くお願いしたいです」


 大侵攻の起こる可能性が出てきたのであれば、のんびりなんてしていられない。


 気持ち的には今すぐにでも洞窟へ飛び込んで修行を始めたいぐらいだ。


「秘薬を用意しますので、明日の早朝からお入りください。滞在は何日を予定していますか?」

「一カ月」

「さすがに長過ぎではありませんか? 二週間ぐらいで適性の上限にくると思いますが……」

「そんなことはありません。最低でも一カ月は必要ですよ」


 適性の限界については本人の感覚でしかわからない。曖昧ではあるが経験則からなんとなくわかるのである。


 客観的に判断できないからこそ、巫女は俺の言葉を信じるしかなかった。


「ポルン様は本当に規格外の適性をお持ちなんですね」

「歴代勇者と比較しても?」

「ええ、そうです」

「でしたら、一カ月以上の滞在を許可と秘薬を用意してもらえないでしょうか。私が強くなれば大侵攻が止められるかもしれませんよ?」

「そんなこと言われたら拒否できないじゃないですか。ズルいです」


 頬を小さく膨らませながら、巫女は拗ねてしまった。


 いつもはお高くとまっているような態度を見せているので、意外と可愛いじゃないかと思ってしまう。ギャップにやれてしまったのだ。


「普段からそういった態度を取れば村の人たちともっと仲良くなれますよ?」


 ちらっと村長の方を見た巫女だが、視線はすぐ俺に戻る。


「昔から巫女は畏れられる存在でした。私がイメージを崩すわけにはいきません」


 もしかしたら手遅れかもしれないぞ。


 今日の出来事は村長を通じて全員に伝わって、しばらくはこの話題で持ちきりになるだろう。新しい話題に飢えている暇人には、よい刺激となるだろう。


 そうやって他人事のように思っていたのだが……。


「それにこんな姿を見せるのは、ポルンさんだけですから」


 巫女の発言によって、俺は巻き込まれてしまう。村長が俺の方を見ると、人差し指と中指の間に親指を入れて先端を少し出す仕草をしやがった。


 あれは男女の交わりを表現するジェスチャーだ。


 神聖な巫女だったんじゃないのか?


 目すら合わせられないくせに、なんで俺には積極的に行けと言うんだ。


「誤解するような言い方は控えた方がいいですよ」


 じゃないと俺と巫女のカップリング話で村中が盛り上がってしまう。


「あら、私は誤解されてもいいんですけど」


 頬を赤くさせるなって!

 勘違いされるだろ!

 威厳とやらはどこにいった!


「俺は困ります!」

「ふぅ……そういったところも変わってませんね。残念です」


 そもそも俺はロリコンじゃないから巫女は趣味じゃない。


 仮に見た目がタイプであったとしても、俺はまだ汚染獣と戦いたいので落ち着くつもりはないのだ。


 そう考えると、やはり娼婦のお姉さんたちは最高だな。後腐れなく楽しめる。空いた時間で彼女たちといっぱい遊びたいのだが……なぜか嫌われやすい傾向にあるみたいで困っている。最初は国王あたりが圧力をかけて、元勇者でも夜遊びはさせないようにしているのかと思ったが、別の国に移動しても同じ結果だったので今は違うとわかっていた。


 有力な仮説が否定されてしまい、娼婦のお姉さんに嫌われる理由は原因不明のままだ。


 他の人からは好意を向けられることもあるので、見た目や臭いが悪いってわけじゃないと思うんだが……。


「ポルン様?」

「すみません。ちょっと考え事をしていました」


 話をまともに聞いてなかったと受け止められてしまったようで、巫女はさらに機嫌が悪くなってしまった。先ほどの発言は意外と本気だった、のか……?


 困ったな。読み間違えてしまった。巫女の眉はつり上がって、見たことがないほどの不機嫌な表情に変わる。


 これダメなやつだ。見た瞬間わかった。


 俺、ベラトリックスやトエーリエで何度も経験しているから詳しいんだ。


「もういいです。修行の洞窟の入場許可は出す。秘薬も後で用意しましょう。ですから、さっさと出て行ってください」


 顔すら見たくないといった感じで、巫女は視線を村長へ向ける。早く命令を実行しろと無言で圧力をかけているのだ。


 目は鋭く全身から怒りが溢れ出ていて恐ろしい。


 立場の弱い老婆じゃ逆らうことなんかできず、俺の腕を引っ張ってきたので立ち上がった。


 今の巫女と話を続ける意味は見いだせないので、小さな家を出て行く。


 老婆と二人っきりになってしまった。


「老い先短い私のためにも、もう少し賢く立ち回ってくれ」

「変に夢を見させるよりマシだろ?」


 叶わぬ思いを持ち続けるなんて苦しいこと、彼女にさせるわけにはいかない。


 死に急いでいる男のことなんてさっさと忘れるべきなのだ。特に巫女の人生は長い。いい男が見つかるさ。


「ポルンも不器用だな」

「男ってのはそんなもんだよ。自分で決めた道を歩み続け、止まることはできない」

「だが、惚れた女がいたら別じゃろ?」


 信念を曲げてまで一緒にいたいと思える人と出会ったことはないが、もしそういった存在がいるのなら槍を置いて平和に過ごす可能性はある。しかしそれも昨日までの話だ。


 大侵攻が始まるかもしれないとわかった今、黙って平和を享受するなんてできない。


「将来くるであろう世界の滅亡に目をつぶって、平和に過ごせと言いたいのか? そんこと絶対にしない。お断りだ」


 別に困っている人を助けたいわけでも、世界を救う英雄になりたいわけじゃない。故郷が滅ぼされた俺と同じ経験を、今を生きる子供たちにさせたくない。ただそれだけのために戦うと決めたのだった。

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