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有名な話です

 家は一部屋しかなかった。しかもテーブルとベッドしかなく他に物はおかれてない。非常に生活しにくい場所だ。明かりは数本の蝋燭の光のみ。薄暗い環境だ。相変わらず、ここにいるだけで気分が落ち込みそうだった。


「お久しぶりです。ポルン様の活躍は、こんな田舎にまで届いていましたよ」


 部屋の中心に少女がいた。足を折りたたむようにして床に座っている。年齢は十ぐらいで、最初に会った時と同じだ。不老だと聞いていたときは嘘だと思っていたが、時間を経て変わらぬ姿を見たら信じるしかないな。不謹慎にも、メルベルと会わせたら長寿トークで盛り上がりそうだなと思ってしまった。


「元気でしたか?」

「おかげさまで、風邪一つ引いておりません」


 小さく微笑んでいる姿は庇護欲をかき立てるが、見た目に欺されてはいけない。俺が支えている村長よりも歳を取っているのだ。油断すれば食われてしまうという危機感は持った方が良いだろう。


 村長を支えながら先に座らせると、彼女は頭を下げて額を床につけた。巫女の姿は極力、視界に収めてはいけないというのがこの村に住む人々のルールらしい。


 俺は関係ないので床の上に座ると真っ直ぐ目を見る。


「この村に再び訪れたのは、私に会いたくなったからですか?」


 ある意味間違ってはいないが、誤解されそうな表現を使われてしまった。周囲にベラトリックスたちがいたら、ちょっとした騒動になっていただろう。一人で来て正解だったな。


「光属性の適性をさらに上げたいと思って挨拶にきました」

「そういえばポルン様は最大まで上げていませんでしたね。それでも歴代の勇者に負けない力があったと思いますが?」


 巫女の目が鋭くなり、まとっていた気配も剣呑なものに変わる。


 隣にいる村長は体が震えていて気圧されているようだ。


「汚染獣が高い知能を持ち、喋る個体がいることをご存じですか?」

「その問いをすると言うことは、ポルン様は出会ってしまったのですね


 目を少し大きく開くと、驚きながら聞き返されてしまった。


 契約の話まですると説明が面倒なので、メルベルとの詳細は黙っておこう。


「ええ。それも二匹です」

「それぞれ、どのような能力を持っていましたか?」

「一匹目は不死、二匹目は分裂と人の体内に寄生する能力です」


 世界の常識がひっくり返るほどのことを伝えたのに静かだ。まったく反応がない。


「俺の話を聞いても驚かないということは、巫女は特殊な汚染獣がいることをご存じだったのですね」


 隠し事は不要だと思ったのだろう。


 一呼吸置くと、秘密を打ち明けるような表情に変わった。


「少し昔話をしましょう。今から約五百年ほど前、人類は一度滅びかけたことを知っていますか?」

「汚染獣の大侵攻ですね。有名な話です」


 理由はわからないが樹海から汚染獣どもが大量に出てきたことがあった。当時の勇者が力を合わせて戦ったが、数に押されて国が次々と滅んでしまったという歴史がある。


 あと一歩で人類が滅ぶところまで追い詰められると、なぜか汚染獣どもは樹海に戻っていった。


 勇者による撃退はできなかったのだ。


 そう、俺たちは汚染獣ごときに見逃してもらい、今を生きていることになる。人類史上最大の失敗と恥だ。


「権力者の思惑によって、勇者の力によって撃退したとの嘘が広まり真実は闇に葬り去られてしまいましたが、実は少しだけわかっていることがあります」

「巫女は何を知っているのですか?」

「侵攻と撤退には知能ある汚染獣が関わっています」

「俺の出会った特殊な個体が過去の反乱に関わっていると言いたいのでしょうか?」

「はい。間違いありません」


 不死の特性を持つメルベルなら、過去の大反乱に関わっていても不思議ではない。当時を覚えているのなら、聞けば何か教えてくれるかもしれない。これは後でやるとして、重要なのは知能ある汚染獣と大侵攻の関係だ。


 既に二匹、存在を確認している。


 ヤツらが汚染獣を扇動しているのであれば、明日にも樹海から出てきて人類を蹂躙しても不思議ではないし、今度こそ完全に滅ぼされるかもしれない。


 そんなこと、俺が生きているうちは絶対に実現させないという強い気持ちが湧き上がってきた。


「歴史通りに動くなら遅くても十年、早ければ数年以内に汚染獣の侵攻が始まるかもしれません。ポルン様どうしますか?」


 質問した巫女の瞳は不安で揺れているように見える。


 人類の危機が迫っていると聞いて逃げ出すなんて思っているのかもしれないが、見くびらないでほしい。命の危機が迫ろうが、人類が滅びかけようが、俺のやることは勇者時代……いや、その前からずっと変わらない。


「光属性の適性を持った人間として、体が動く限り汚染獣と戦い続けます」

「勇者をクビになっても?」

「愚問ですね」


 ふっと力が抜けたように見えた。巫女としての重圧が少しでも軽くなったのであれば、この村に訪れた価値があるというもんだ。


「死ぬかもしれないのに戦ってくれるんですね」

「それが俺の生きる理由ですから」

「ふふ。歴代勇者の中で、そう言った方は何人もいません」

「勇者と認定したヤツらの見る目がなかっただけですよ」

「かもしれませんね」


 昔は知らないが、今は光属性に適性があって国王が認めれば勇者と名乗れる。逆に国が認めなければ、どんなに適性があっても名乗れないのだ。


 たかが国王ごときが勇者として相応しい人物を見抜けるとは思えず、やはり選定方法に問題があるとしか思えなかった。


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