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自慢することじゃない

「いい連携ですね」


 回避ばかりしている男は、俺たちが格下だと言わんばかりの余裕そうな笑みを浮かべている。


 隙も多い。攻撃を誘っているように見えて俺は警戒して動かないが、ベラトリックスは違ったようだ。見た目とは違って冷静さを欠いているようで、光を飲み込むような黒い槍を数十本生み出しては、金髪の男に向かって放っている。


 仕方がない。静観するのはやめて助けようと思った瞬間、浄化しきれなかった中型の汚染獣が肉の塊を飛ばした。


 結界のように張っていた光属性の魔力だけでは瞬時に浄化しきれない。一部は残って建物を破壊して、破片が飛び散る。


 クソ! このままじゃ汚染獣を倒しても村の再建が難しくなるぞ。


 内心で焦っていると、また中型の汚染獣が肉塊を飛ばす。


 今度は村長の家に向かっている。直撃すれば守るべき人々が死んでしまう。


「金髪男は任せたッ!」


 仲間が勝つと信じて走り出す。限界まで身体能力を強化すると屋根に飛び乗り、さらに跳躍すると肉塊を槍で叩き落とした。何とか間に合ったと思う余裕なんてない。中型の汚染獣は自らの体をすべて使って、数十にも及ぶ肉塊を作り出して飛ばしたのだ。


 自らの命に執着してない。

 常識では考えられない行動である。


 体内にある魔力の大半を使い、光属性を付与して放出。村周辺の浄化能力を強化すると、小さめな肉塊は上空で消滅した。数は大きく減ったが、それでも十近い肉塊が村長の家に向かっている。避難した人たちが居るとわかって狙っているのだろう。


 クソッ。人間みたいに嫌らしい攻撃をしてくる。


 屋根から跳躍して近づいてくる肉塊を槍で叩き落として行くが、数が多くて二つほど逃してしまった。


 槍を投げても一つは残るが、被害は抑えられる。せめても死人が出ないようにと祈りながら構える。


 光の矢が飛んで肉塊と衝突、消滅させた。


「テレサ! でかしたぞ!!」


 屋根の上に座り込みながらも親指を立てていた。顔色は悪いが俺の役に立てたのが嬉しいようで、満足そうにしながら倒れた。魔力切れで気絶したのだろう。


「消えろ!」


 体をねじり力を溜めてから解放する。残った肉塊に光属性の付与された槍が当たり、パンと音を立てて破壊、浄化していく。


 魔力を使いすぎた俺は視界がぐらつき、膝をついてしまった。


 槍はクルクルと回転しながら地面に刺さる。


 汚染獣は倒したので放っていた魔力の放出を止めると、体が少し楽になった。


 仲間の様子が気になったので金髪男の方を見る。


 ヴァリィは血を流しながら地面に倒れ、トエーリエとベラトリックスは首を掴まれて体を持ち上げられていた。足をばたつかせて抵抗しているが、金髪男はびくともしていない。酸欠によって顔色悪く集中力が乱れているようで、魔法の維持ができず黒い狼は消えていた。


 助けに行かなければ。


 フラ着きながらも立ち上がる。


 金髪男が俺を見た。


「プレゼントだ」


 距離はあるのにそう聞こえると、同時に二人が俺に向けて投げられた。避けるわけにはいかない。受け止めると吹き飛ばされてしまい、屋根から落ちてゴロゴロと転がる。


 咳き込みながら二人の様子を確認する。体は汚染されていないが気を失っているようだ。死んでないと分かりほっとする。後は倒れているヴァリィの確認をしたいのだが、金髪の男を倒してからになりそうだ。気づかないうちに接近されていた。


「光属性持ちの人間ですか。勇者、ですね」

「元だ。もう勇者じゃない」

「では、他にも光属性持ちの人間がいるんですね? それは知りませんでした」


 当たり前だろと言いかけて口を止めた。


 適正レベルを考えなければ光属性持ちは国に数人はいる。


 世間では常識なのだが、金髪の男は知らなかったように見えたのだ。


「だったらどうするんだ?」

「そうですねぇ……何人か捕まえて実験でもしましょうか」


 ぞわっと恐怖を覚え、全身の毛が逆立った。


 実験動物を見るような目だ。対等な相手だと思っていないような、そんな視線だ。


 こいつを生かしてはいけない。


 残り少ない魔力を使って身体能力を強化して足払いをしたが、跳躍して避けられてしまった。続く攻撃として地面に転がっている石を拾って投げつける。空中では移動できないこともあって腕で防いでくれた。


 視界から俺が消えた一瞬を狙い、後ろに回り込む。


 金髪の男が着地する前に体を抱きしめ、背後にのけぞる。頭が地面に直撃して首の折れる音がしたので、手を離して距離を取る。


 仰向けになった金髪男は、骨が折れたままの頭をブラブラさせながら立ち上がった。


 予想できた中で最悪に近い結果が出てしまったようだ。


「体を汚染獣に乗っ取られているのか」


 人の死体に潜むタイプがいたのだから、寄生して操る汚染獣がいても不思議ではない。


「まぁ、そうですね。化けるの上手いでしょ」


 金髪男はすでに人間としての生は終わっていた。バドロフ子爵は、この事実を知っているのだろうか。


「自慢することじゃない」

「脳を食べて理解するのに時間がかかったんですよ。ちょっとは褒めてくれても良いじゃないですか」

「褒める? 汚染獣を? するわけない。お前たちは一匹残らず、俺が倒す」


 邪悪な発言そのものだ。生かしてはおけない。なんとしてもこの場で消滅させなければ。


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