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勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~  作者: わんた


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約束は守るんでしょうね?

「アイラ様、そろそろ次の話に……」

「わかってます」


 俺が催促すると覚悟を決めたようだ。


 彼女の尋問が再開される。


「まだ他にも聞きたいことがあります。屋敷で働いている人たちの不正について、知っていることをすべて話してください」


 ヴォルデンク家の恥になるため、簡易裁判では触れられなかったことだ。身内を整理しなければ外敵とも戦えないため重要な情報である。


「私に同僚を売れってことね」


 主人を毒殺しようとし、依頼人を裏切ることはできても、一緒に働いてきた仲間だと躊躇するようだ。彼女の価値観が垣間見られた様な気がした。


「できませんか?」

「……命には代えられない。話すよ」


 悪意を感じさせる顔をしながら、メイドは嗤いながらゆっくりと口を開く。


「全員」

「え?」

「全員が不正しているんだよ」

「そんな……まさか……どうして?」


 半数ぐらいまでは予想できたが、まさか屋敷に働いている全員が不正をしているとは。想像をはるかに超えている。絶望的と言って良いだろう。


 バドロフ子爵へ抵抗する前に自滅してしまいそうだ。


「乱暴される上に、領地が潤っても給金は安いまま。当然でしょ。メイドは屋敷の情報を売ることもあったし、兵は夜になると敷地内で賭け事をして仕事をさぼってた。借金で苦しんでいた人もいたんじゃないかな。もちろん賄賂も受け取っているよ。金さえ握らせば何でも情報は流すし、罪人を勝手に釈放する」


 倫理観が崩壊した職場だ。


 勇者として色んな地域に行き、多くの貴族と関わってきたが、ここまで酷いのは滅多にお目にかかれない。それほど珍しい状況である。


 まともな仕事なんて期待できないだろうから、アイラが誘拐されたのも納得だ。簡単だっただろう。


 ヴォルデンク男爵が積極的に犯人を調査しなかったのは、身内が信じられなかったからかもしれない。


 強いショックを受けたアイラが倒れそうになったので、慌てて支える。


「ありがとうございます」

「いえいえ、それよりも話の続きを」

「そうですね」


 目の前の現実から逃げることなく、気丈にも戦おうとしている。


 精神面が急成長していると感じた。


「お父様は知っていたのですか?」

「さぁ。どうだろうね。お貴族様の考えなんて私にはわからないよ」


 俺とは正反対に冷たく突き放すメイドだった。


 男爵に無理やり何度も犯されたのだから、娘に強く当たってしまうのも仕方がない。それはアイラも分かっているようで、耐えるような顔をしつつも反発することなく受け入れている。


 貴族としては珍しい。

 感性がまともである。

 だからこそ悪役になってでも助けてあげたいと思ってしまう。


「その通りだな」


 アイラを俺の背に隠して会話を引き継ぐ。


「で、誰がどんな不正をしていたのか具体的に教えてくれ」

「約束は守るんでしょうね?」

「情報の裏が取れれば身代わりを処刑して、お前は他の領地で暮らすことになる。完全なる自由だ」

「なら、いいよ。教える」


 羊皮紙と羽ペン、インクを取り出すと、メイドが淡々と伝える不正行為について書いていく。


 横領や賄賂、賭け事、書類の改ざんと、数々の不正を書いていく。関わっているメンバーも多く、メイドが言ったとおり全員不正していたのは間違いなさそうだ。あの医者だって、あまり効かない薬をヴォルデンク男爵に売ることがあったらしいと聞いたときは、驚きのあまり何度か聞き直してしまった。


 羊皮紙をアイラに渡してから、再び鉄格子の前に立つ。


「なに? もう用はないでしょ? まさか殺すつもり?」


 腕で自分の体を抱きしめながら、メイドは後ろに下がった。


 怯えているようで足が震えている。


「そんなことはしない。約束は守る。だが……」

「何よ?」

「解放されても資産は没収されたままだ。金なんてなく、知らない土地に捨てられる。その意味が分かるか?」


 言いたいことが伝わったようで顔は強ばった。


 人脈や金のない女が一人で生きているほど、世間は甘くない。見た目は悪くないし若いから娼館で働けるだろう。で、数年後、病気になって死ぬ。そんな運命が決まっているのだ。


 俺は聖人ではない。相手が犯罪者でアイラのためであれば、冷徹な態度も取れるのである。


「なんとかして……! 私はやり直したいの!」

「不正について言い残しはないか?」


 悲痛な叫びを無視して、改めて確認した。


 こうやって追い詰めたことで、メイドは必死に思い出そうとしてくれる。


「一つ、言い忘れていたことがあった」


 ほら、まだあったじゃないか。

 これを待ってたんだ。

 脅して正解だったな。


「聞いてやるから教えろ」

「ルビーの鉱山を警備している兵の数や採掘情報を横流ししている女がいる」

「誰だ?」

「メイド長のイレーゼ」

「先ほどの話だと、ヴォルデンク男爵の趣味嗜好や取引情報を商人に流していた女だな。ルビー鉱山の情報も同じヤツに教えているのか?」

「わからないけど、多分、違う」


 すると相手は一人に絞られる。ルビー鉱山の情報を手に入れて得をするのは、バドロフ子爵だ。相手はその関係者だろうな。


「どうしましょう……彼女も捕まえたら屋敷の手入れが滞ってしまいます」

「でしたら、放置しましょう」

「いいのですか!?」


 予想外の提案にアイラは思わず大きい声で聞いてきた。


 顔を彼女の方へ向ける。


「ええ、もちろんです」

「もしかして何か策があるのですか?」

「後で教えるので少し待ってください」

「わかりました。ポルン様のこと信じてますからね」


 短いか会話を終えると、メイドに槍を突きつける。


「提供してもらった情報の裏が取れ、騒動が一段落したら住む場所と金を用意してやる。それまで大人しく待ってろ。わかったな?」

「うん。私も信じるから。頼んだよ、本当に頼んだよ!」


 鉄格子を握り、メイドは必死にお願いしていた。


 安心してくれ。先に裏切らない限り誠実に対応するさ。

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