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罪人が! 調子に乗るな!

 逃げ出したバドロフ子爵が再び動き出すには時間がかかる。


 その間に内部を整える必要があり、今から準備を進めている。


 まずは俺の肩書きだ。正式に雇われることとなり、期間限定ではあるがアイラ直下の専属護衛になった。これで屋敷にいてもおかしくはなく、常に側にいられる。


 続いてやることは身内の調査だ。


 不正がどこまで広がっているのか、改善の余地はあるのか、そういったことも調べなければいけない。とはいっても時間はかけられないので、手っ取り早くヴォルデンク男爵を売った人から聞き出そうと考えている。


 ということで、処刑される日を待っているメイドに会うため、俺とアイラは地下牢へ来ていた。


「やつれましたね」


 鉄格子ごしに見えるメイドは痩せこけており肌がボロボロだ。


 目はくぼんでいて、ろくに寝れてないことがわかる。


 いつ処刑されるか怯えている日々を過ごしていたのだろう。


「殺しに来たの?」


 先に裏切って攻撃してきたくせに、責めるような口調だった。


 自暴自棄になっているなら尋問しても喋らない可能性はある。拷問する方法もあるが、貴族令嬢であるアイラには当然として俺もしたことがない。痛みから逃れるために嘘をつかれるかもしれなので、できれば避けたい。平和的な方法で終わらせたかった。


「あなたを殺すとは決まっていません。これからの態度次第では、刑罰が軽くなるかもしれませんよ」


 事前に話し合って決めていたことなのだが、アイラは生き残れるかもしれないという希望をぶら下げる発言をした。


「それは嘘。簡易裁判でも処刑と決まったし、今さら結果は覆せない」


 平民の反乱を恐れている貴族は刃向かった相手を許しはしない。


 故に貴族殺しは未遂であっても重罪である。


 この女が死ななければヴォルデンク家の面子が立たないので、罪を軽くする方法は取れない。言っていることは正しかった。


「表向きは殺したことにして、生かす方法もあります」

「どうやって?」

「代わりを用意します。あ、もちろん無垢の民じゃありません。ちゃんとした重罪人ですから安心していいですよ」


 メイドは黙ってしまった。


 生き延びられるもしれないとわかって、脳内で必死にどうするべきか考えてるのだろう。


「嘘じゃないよね?」

「家名にかけて守ります」

「それじゃ信じられない。契約魔法を使って」


 流石に度を超えた要望だ。


 アイラが優しく接し、俺は悪役になると事前に決めていたので、鉄格子を蹴り付ける。


「罪人が! 調子に乗るな!」

「ひいっ!」


 怒鳴りつけたらメイドは小さな悲鳴をあげた。


 心は痛むが、これもアイラを守るためだと言い聞かせる。生かすのであれば反抗する気を無くさなければいけない。


 それができなければ、安全のために殺さなければいけないのだ。


「お前はアイラ様が質問されたことに応えれば良い。そうすれば、生き残れる」

「本当、なの?」

「信じなければ、この場で死ぬだけだ。この場で処刑する許可も得ている。どうする?」

「…………わかった」


 ようやく自分の立場というのを受け入れたようなので、鉄格子から離れる。


 護衛として警戒しながら二人の会話を見守ることにした。


「なぜお父様を裏切ったの?」

「最初に知りたいのがそんなことなのね」


 明らかに幻滅したような態度だ。


「今になっても理由が分かってない。それが原因だよ」

「意地悪しないで詳しく教えて」


 メイドの顔に憎悪が浮かんだ。


「いいでしょう。教えてあげる。貴方の父親であるヴォルデンク男爵は表向き、妻を亡くした可哀想な男、娘を溺愛する父を演じていたけど、実際は違う。低賃金で使用人や兵を働かせるだけじゃなく、毎晩私を寝室に呼び出し――」

「それ以上は言わなくて良いです」


 話を遮ってアイラが止めた。


 金目当てだと思っていたら、ヴォルデンク男爵への恨みが原動力だったのか。


 これなら処刑されるのを覚悟して裏切ったのも納得できる。


「なんで止めたの? アイラ様が大好きな父親の痴態をすべて語らせて」

「止めて下さい! 聞きたくありませんっ!」


 珍しく声を上げてアイラが怒っていた。


 バカにできる雰囲気ではなく、メイドはこれ以上何も言わずに口を閉じる。


 貴族であれば汚い部分も受け入れる器量というのが必要になるのだが、若いアイラには難しかったのだ。家族だからこそ、異性関係にはある種の潔癖さを求めているのかもしれない。


「裁判では顔を隠した男から毒を入れるタイミングまで指示があったと聞きましたが、それ以外に覚えていることはありますか? 些細なことでも良いので言ってないことがあれば教えてください」


 父親の話題から毒について変えたようだ。


「そう言われても困る。本当に何も……男性で体格が良いぐらいしか分からなかった。剣をぶら下げていたから戦える人ってぐらいしか特徴はない。話はこれだけ。すべて話したんだから約束は守ってくれるよね?」


 下卑た笑みを浮かべたメイドには悪いが、まだ聞きたいことがある。


 決定的な情報は手に入らないと思っていたので、そろそろ本題に入ろう。


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