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勇者の俺がクビになったので爛れた生活を目指す~無職なのに戦いで忙しく、女性に手を出す暇がないのだが!?~  作者: わんた


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お父様っ!!

 このタイミングでの来客は何か裏がありそうだ。アイラも同じ事を思ったのだろう、門番に質問をする。


「お客様は誰ですか?」

「バドロフ子爵のようです」

「っ!!」


 サラマンダーに殺された誘拐犯が言っていた名前だ。


 誘拐を指示した犯人である。


 アイラが不在の間に何をしに来たのか。いくつか予想はできるが、明るい話題でないことは確かであった。


「急ぎましょう」

「はい」


 勇者として磨かれた直感が手遅れだと囁いてくるが、足を止める理由にはならない。もしかしたらまだ巻き返せるかもしれない。そんな淡い期待を持ちつつ、アイラの手を取って門を通り抜け、庭を走る。


 兵士はいないようだ。人数が少ない。真面目に警備しようとしたら一人当たりの負担は大きそうだ。


「来客用の部屋――応接室はどこにあります?」

「二階の真ん中です!」


 指をさして教えてくれた。窓から人の影が見えた。誰かいる。門番が言ったとおり来客はありそうだ。


 この高さなら跳躍すれば届く。窓を割って乗り込むことも考えたが、こちら側の失点につながる可能性もあるため止めた。


 先ずは誰にも気づかれないよう屋敷内に入ろう。


「アイラ様のお部屋はどこですか?」

「あそこです!」


 三階の角部屋か。バルコニーと大きな窓があるもののカーテンを閉め切っていて、外からでは中が見えないようになっている。病で倒れた設定なのだから当然の対応か。


「ちょっと失礼しますね」


 膝裏と首の方に腕を伸ばして抱きかかえると、魔力で身体能力を強化して跳躍する。三階へ行くには距離が少し足りない。二階の窓枠を蹴り、さらに上昇してバルコニーに入った。


「ビックリしました~っ!」


 涙目で文句を言うアイラが少し可愛いと思ってしまったが、何も言わずに降ろす。


 部屋に入ろうと窓を開けようとするが、鍵がかかっていて動かなかった。


「私の部屋から中に入るんですよね? お任せ下さい」


 胸に手を当てて自身ありげに言ったので、横に移動して譲る。


 鍵を持っていると思ったのだが、なんとアイラはガラスを殴って割ってしまった。さらに腕を通して解錠してしまう。強盗みたいな動きだった。


「これで入れますよ」

「おぉ……そうです、ね」


 笑顔で言われてしまい、突っ込めない。アイラは一人で先に行ってしまった。


 俺も後に続いて部屋に入る。


 部屋のど真ん中に天蓋付きのベッドがあった。花の模様があって貴族の令嬢が好みそうなデザインだ。色は赤をベース。髪色と会わせているようだった。


 ソファはベージュ、ローテーブルはガラスで作られていて非常に凝っている。化粧台まであり貧乏男爵だと聞いていたのだが、内装は非常に豪華だ。


「お父様がルビー鉱山の利益で真っ先にやったことは、屋敷の内装を派手にして装飾品や高価な武具、魔道具を購入することだったんです」


 典型的な成金貴族の動きだ。


 恥ずかしそうに笑いながら、アイラは部屋の奥にあるドアを開けた。


「ここから先は私が案内します。行きましょう」


 屋敷に入ったので正体を隠す必要はなくなった。


 ローブを脱ぎ捨てて、汚れたピンクのドレスを露わにしながらアイラが走り出す。


 廊下を進み階段を降りて応接室の前に着いたので、ドアノブを握る。


「旦那様ーーーーっ!!」


 悲鳴にも似た叫び声が聞こえた。


 ドアをアイラが開けようとしたので、止める。


「私が先に入ります」


 何があるか分からない。槍を持つ手に力が入る。


 ドアを開けて応接室内を素早く観察する。


 テーブルを挟んでソファが二つ。左側には胸を押さえた男性が倒れていてメイド服を着た女性が膝をつき、呼びかけていた。近くにカップが落ちている。紅茶の中身がこぼれていて毒が入っていたのかもしれない。


 右側のソファには金髪をオールバックにした男性と護衛らしき存在がいる。さすがに鎧は着ていないが腰に剣がぶら下がっていて、俺の姿を見ると賊と判断したようで剣を抜いて、斬りかかってきた。


 動きはたいしたことない。槍で弾き、蹴りを入れて吹き飛ばす。


「お父様っ!!」


 アイラが倒れている男性に駆け寄った。


 彼がヴォルデンク家当主ということであれば、オールバック男がバドロフ子爵か。


 事態が急変しているのに慌てている様子はない。優雅にカップを口につけて紅茶を飲んでいる。


「ヴォルデンク家、アイラ様の護衛をしているポルンだ! この状況を説明してもらおうっ!」


 起き上がった護衛は俺の言葉を聞いて動きが止まった。賊ではないとわかってくれたようで、攻撃はしてこない。バドロフ子爵を見て判断を仰いでいる。


 メイドはかかりつけの医者を呼びに行くため、部屋から出ていく。


「これは、これは、アイラ様ではないですか。ご病気は治ったのですか?」


 カップを置いてバドロフ子爵が立ち上がった。


 誘拐犯を指示した犯人だというのに白々しい態度である。こういった悪意の塊みたいな人間は嫌いだ。正直、今ここで斬り殺したいぐらいである。


「ええ、もうすっかり元気です。それよりお父様に何をしたのですか?」

 

 ヴォルデンク当主を抱きかかえ、泣きながらもアイラの目だけは鋭い。


「ルビー鉱山の警備と報酬について話し合っていたら倒れただけです。持病でもあったんですか? 私の方こそ説明して欲しいですね」


 あくまで何も知らないという立場を貫くらしい。


 この場にいる全員が嘘だと思っているのだが、証拠がないので追及は不可能だ。何より当主を助ける方が優先であるため、仕掛けてこないのであれば放置だ。


「デンベル様!」


 当主の名を叫びながら医者が入ってきた。


 白髪の男性だ。初老に入ったぐらいの年齢で、使い込まれた大きなバッグを置くと中を開いた。

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