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一人で歩けるから、手を――

 馬車を何度か乗りついで田舎の方にまできた。


 この辺りで人が住める場所は少し先にある小さな村しかない。ここまで離れれば俺が元勇者だって知っている人はいないだろう。


 のどかな景色が続いているし、都会の騒がしさとは無縁だ。スローライフを送るには最適だろう。


 王家の目が届かないこの場所に住むのも悪くはないかもな。


「ポルン様、あれを見てください」


 せっかく現実逃避してたのに、空気を読めないベラトリックスがとある場所を指さした。


 言われなくても分かっている。というか気づいている。村の近くにどでかい真っ黒なバルドルド山脈がるのだ。


 あれは瘴気によって土壌が汚染されている証拠。光属性で浄化しない限り生物が住める環境にはならないだろう。


 ……って、汚染獣がいるなんて聞いてないぞ!


 見た所、だいぶ前から放置されていたみたいだ。討伐依頼を出さなかったのは被害が小さかったからか!?


 ドルンダ国王ちゃんと仕事しろよッッッッ!


 クソ! こんなことなら別の場所に移動するべきだった。


「どうしますか?」


 キラキラと輝いた眼をしてベラトリックスが聞いてきた。


 期待されていることはわかる。汚染獣を倒して山脈を解放してほしいと思っているのだ。


「しばらくは近くの村でお世話になる。その後についてはゆっくり決めるさ」

「確かに情報がないまま突っ込むのは得策ではありませんね。敵がどう動くか分かりませんし、しばらくは様子見しましょう!」


 明らかに俺を勇者扱いしている発言だ。汚染獣の討伐は新しく出現したイケメン君に任せれば良いのに。


 社会的地位を失った俺に何を求めているんだ?


 うーん……少し考えても答えは出なかったので放置することにした。悩む時間がもったいない。


「村に行く」

「わかりました。ご案内しますね」


 自然な流れで手をつながれてしまった。


 抜け出そうとしたら骨が折れそうなほど強く握られる。


「一人で歩けるから、手を――」


 彼女の髪がふわりと浮かんだのを見逃さなかった。


 最後まで言っていたら魔力を暴走させて俺にまで被害が出ていたかもしれない。


 昔から脳内にある理想の展開と現実に乖離が出ると暴れ出すのだ。びっくり箱のような女である。


「何を言いたかったんですか?」


 瞳からハイライトが消えている。俺の危機管理能力は正常に働いてくれたようだ。


 回答を間違えれば命に関わる。


 慎重に相手が望んでいる言葉を口にした。


「なんでもない。村に入るまで手をつないだままでいよう」


 笑顔になった。間違えることなく正解を選んだようだ。ベラトリックスの体内であらぶっていた魔力が収まっていく。


「だが何かあったらすぐに手を離してくれよ。守りにくい」

「もちろんです」


 声が弾んでいる。


 色々と諦めて歩き始める。なんとなく罪人になったような気分であった。




 汚染された山脈から徒歩で数分、村に着く。


 空気が淀んでいた。汚染獣の出す瘴気がここまで来ているのだ。この感じだと健康被害も出ていそうである。


 布を取り出すと光属性を付与する。淡く光って半径一メートルほどの空間が浄化された。


「瘴気がここまできている。これを付けるんだ」


 隣にいるベラトリックスの口に布を巻いた。

 

「光属性を付与してくれたんですね。ありがとうございます」

「数日しか持たない。効果が切れかけたら教えてくれ」

「はい。その時は、またお願いしますね」


 相手を気づかいながら自然と手を離せた。


 自由に動けるようになったのである。


 このチャンスを逃すわけにはいかない。


 すかさず次の一手を打つ。


「俺は村の様子を確認してくる。ベラトリックスは周辺の調査を頼めないか。瘴気が異常発生している原因を調べて欲しいんだ」

「お任せください。日が暮れる頃に戻ってきます」


 疑うような素振りはない。


 小さく手を振ってベラトリックスは去って行った。


「時間はかけて良いからなー! なんだったら野宿も良いと思うぞーー!」


 叫び終わると後ろ姿を眺める。


 少しだけ罪悪感を覚えるが、これも女遊びをするためだ。


 あるかどうかも分からない原因を頑張って調べてくれ。


「未亡人に手取り足取り教えてもらうぞ……ッ!」


 若くして夫を亡くした女性は、金を稼ぐため旅人に体を売ることがある。俺はそれを狙っているのだ。


 トエーリエあたりは不潔だと非難するかもしれないが、もう二度と会うことはないので問題にはならない。


 監視の目のない今日こそは夜通しで遊びまくるぞ!


 気分は非常に高まり、やや小走りで村に入る。


 すぐに萎えてしまった。


「汚染獣めぇ……」


 多少の健康被害は出ていると思ったが、予想を遙かに超えていたのだ。


 村にいる人々の顔色が悪い。みんな咳き込んでいて今にも死にそうに見えた。


 これもすべて汚染獣の影響によるものだ。浄化すればすぐ解決するだろうが、そうすると元勇者である俺が近くにいるとバレる。


 噂は王家にまで伝わり新勇者が活躍する場を奪ったと糾弾されるかもしれない。最悪は自由の剥奪だ。俺に難癖を付けて、王都から一歩も出るなと命令しても不思議ではない。


 とはいえ女遊びするためには瘴気を薄くする必要があるため、段階的にこの村を浄化する。


 地面に手をつけて光属性の魔力を注いでいく。全力は出さずに少しだけ。それでも効果はすぐに出て村を覆う瘴気が薄くなった。


 数日すれば村人たちの健康も良くなっていくだろう。


 仕事を終えた俺は寝床を探すため村の中を歩く。


 ベッドが掲げられている看板を見つけたので建物に入る。一階は食堂と受付を兼ねているようだ。食事のできそうなテーブルが並んでいて、奥にカウンターがあった。


「こんにちは。お泊まりですか?」


 カウンターにる妙齢の女性から声をかけられた。


 胸元が開いた大胆な服を着ていて大人の魅力がある。女主人って感じだ。


 これで顔色が良ければ最高だったんだけどな……。


「泊まる場所を探している。一部屋二人分だと一泊いくらだ?」


 最悪ベラトリックスが戻ってきたことを考えての発言だ。


「銅貨50枚、朝食付きだよ」

「それじゃ一ヶ月ほどお願いしたい」


 長期で泊まる客だと分かって女主人の顔が曇った。


「見て分かるとおり、ここは瘴気に覆われているんだよね。悪いことは言わないから早めに余所へ行った方が良いよ」

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