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今回は俺が悪かった

「なぜ止める?」

「破廉恥だからですっ!!」


 顔を赤くしながら俺に近づくと、腹筋を指でなぞってきた。


 言っていることやっていることが違う。なんというか、抑えきれない本能みたいなのを感じた。


「だが水中に入らなければ探しようがない」

「そうですが……っ!」


 話ながらテレサは手のひらを腹筋につけて堪能し始めた。体に触るのも畏れ多いみたいな雰囲気を出していたくせに、なんて欲望に弱い女だ。


 今まで出会ったことが無いタイプで、どう反応すれば良いか分からない。戸惑っていると抱きつこうとしてきたので、さすがに頭を抑えて止める。


「あぁ……逞しいからだがっ……」


 残念がるようにつぶやかれてしまったが、これ以上はかまってられないので無視する。


「まあ、任せろって」


 頭を軽く押すとテレサは離れたので、脱いだ上着に強く光属性を付与させてからテレサに投げ渡した。


 これで俺が離れてもしばらくは安全だ。


 俺から物をもらったことで目に理性が戻ってくる。自分が何をしていたのか思い出したようだ。


「申し訳ございません」

「俺は気にしていない」


 場所がここじゃなければ喜んでいたので許しておくことにした。


 岩の影に潜んでいる極小の汚染獣たちも近寄ってはこない。


 軽く体を伸ばしてから歩いて地底湖の中に入っていく。


「明かりをご用意いたします!」


 テレサが光の球を俺の隣に作り出した。


 魔法の光は水につかっても消えないので水中探索には使える。


「助かる!」


 手を振って礼を言ってから数歩進むと急に深くなった。頭まで水に入ってしまう。


 光の球も続いて水中に入って水底を照らす。


 浄化された水の透明度は高く、中の様子は見えるが生物はいない。汚染獣がいた形跡すらなく、本当にここで封印されていたのか疑いたくなるほどだ。


 だが小型ではありえないほどの瘴気が蔓延しているので情報は正しい。


 やはり結界を破壊して勝手にどこかへ行ったのか?


 巨体を見落とすほど俺たちは間抜けじゃない。洞窟から抜け出して外に出れば村にいても気づける。


 何がどうなっているのかまったくわからない。


 一体どこへ行ったのだろうか。


 大型が暴れれば数個の国は滅びるらしいが、そういった話は聞いてないので地上で暴れず潜伏しているのだろう。


 結界を出るときに傷を負って回復待ちか?


 可能性はある。すると山脈のどこかに潜んでいるかもしれない。時間をかけて洞窟を調査するよりも、外に出て瘴気が濃い方を探索しよう。


 そろそろ息が苦しくなってきたので水面に出た。


「大型の汚染獣はいましたか?」

「いない! やはり結界を壊して抜け出していたようだ!」

「やはり……」

「そっちに戻る。周囲を警戒してくれ」


 地底湖を泳いで岸につき水からでて立ち上がる。髪から水がしたたり落ちたので頭を振って飛ばす。


 歩こうとしたがズボンはぐっしょりと濡れていて重く、不快だった。


「少し後ろを向いてくれないか」

「はい!」


 また触れたら困るので命令すると、素直に従いテレサは地底湖の出口の方を向いた。


 これなら触られないで済む。ズボンを脱いでパンツ一枚の姿になると、ズボンをねじって水分を落とす。全力を出してしまうと布がボロボロになってしまうので、意外と手加減が難しい。慎重に絞っていく。


 充分に水分を抜いたらズボンを何度か振ってしわを伸ばしていると、急にテレサがしゃがみ込んだ。


「これは……ガラスの鳥? 誰かの使い魔?」


 視線を向けると普段からベラトリックスが使っているクリスタルの鳥がいた。


 口に羊皮紙を加えている。


 穴が空いていてボロボロで伝言を伝えるのに適してない。


 嫌な予感がする。


「ベラトリックスからの連絡だ!」


 村の方に問題が起きたのだろうか。焦る気持ちを抑えて走り、鳥が加えている羊皮紙を奪い取る。


 崩れた文字で「何があっても無視して。絶対、村には戻らないで国外へ逃げて」と書かれていた。


 意味深な内容だ。村や彼女たちに何か大きな問題が起こったのだろうか。


 もしかしたら汚染獣が襲ってきているのかもしれない。


 嫌な想像ばかりが膨らんでいく。


 こんな手紙なんて無視すると即座に決めた。


「調査は中断する。村に戻ってベラトリックスと合流――」


 指示を出そうとしたらテレサが鼻血を出しながら一点を凝視していた。俺の股間だ。


 しまった! ズボンをはくの忘れていた!


「ずみばせん……」

「謝らなくて良い。今回は俺が悪かった」


 急いでズボンをはいて上着も身につける。


 これで彼女も落ち着くことだろう。


「村に汚染獣がきているかもしれない。調査は中断して急いで戻ろう」

「勇者がいるのに、駆けつける必要ありますか?」


 服の袖で鼻血を拭き取りながらテレサが当然の疑問をぶつけてきた。


「大量の兵を連れて村に来ていたし、浄化する対象が多すぎて魔力が持たないんだろう」


 今みたいに浄化の対象がテレサだけなら魔力なんてほとんど減らない。


 しかし百人以上となれば別だ。平均的な魔力持ちだと考えても長くは持たない。


 村の外に逃げ出すにも時間がかかる。ベラトリックスたちが全力で攻撃して早めに倒すしかないのだが、手紙を送っている時点で上手くはいってないことがわかる。


「汚染獣討伐は少数精鋭が基本です! 新勇者はそれすら守らず、何をしている!」


 光教会との関係が相当悪化しているんだろう。テレサの言葉から積み重ねた恨みを感じる。


 人類共通の敵である汚染獣との戦いですら心が一つになっていないことに、世界が滅びの道に進んでいる気がして仕方がない。


 杞憂であれば良いのだが……実際はどうなんだろう。狭い世界しか知らない俺に目の前のことしかわからず、今さらながら無知だということを嫌と言うほど思い知らされている。


 俺はもっと世界のことを知る必要があるのかもな。


「落ち着け。まだ汚染獣が来ているとは確定してない」

「そうでした! すぐ確認しに行きましょう」

「もちろんだ」


 テレサを背負うと走り出す。行きの半分の時間で外に出る。分厚い雲に覆われて薄暗かった。


 崖のほうに移動すると眼下に村が見える。


 村には球状の結界が張られており、無数の触手が破ろうとして取り囲んでいる様子が確認できた。

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