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親の言うことをしっかり聞いて良い子にしているんだ

 ベラトリックスが王都に行ってから一週間ぐらいは経過した。


 村を守る必要があるため付近にいるであろう汚染獣は探しに行ってはない。


 草原や山脈の方には行かず、石碑の近くで子供たちと遊ぶ日々を過ごしている。襲撃などなく平和だ。


 一度だけ彼女の使い魔――クリスタルで作られた鳥から手紙が送られてきて、調べ事があるので戻れなくなるかもしれないが俺はいつも通り過ごしてくれと書かれていた。


 助けを求められたら王城に乗り込もうと思っていたが、問題ないのであれば動けない。


 不安はあるが今は魔女とまで呼ばれた彼女の実力を信じて待つとしよう。


 * * *


 昨日と変わらない朝を迎えると部屋を出て一階に降りる。いつも通りエーリカに朝食を頼もうとしたのだが、今日は雰囲気が違うことに気づく。


 なんというかピリピリしているのだ。


「何かあったのか?」


 カウンターで腕を組んで難しい顔をしているエーリカに聞いた。


「なんか今日、王家? の人が来るみたいです」

「ここに? どうしてだ……」


 汚染獣が近くにいる危険地帯だぞ。


 どれほど愚かな王族であっても観光しに来るはずがない。


 では真当な理由なのか? と問われれば首を横に振るしかない。この村は軍事的、産業的にも期待できる場所ではないのだ。訪れる必要がまったくないのである。


 答えが出ずに悩んでいるとエーリカが顔を近づけてきた。


「分かりませんが、村長が言うには新しい勇者で第四王子の男性が来るらしいですよ」


 驚いた。まさかイケメン君……じゃなくて新勇者が王族だったとは。


 歴代の勇者は全員平民だ。だからこそ王侯貴族の牽制役にもなって、権力が一極集中することもなく横暴な政治を阻止することもできていた。


 ある意味バランスが取れていたのだが、これからは変わってくる。


 力と名声、そして権力の全てを手に入れたのだから、今までよりも国を思い通りに動かしやすくなる。


 なるほど。適当な理由を付けて俺をクビにするには十分な理由になる。


 生かされているのが不思議なぐらいだ。なぜドルンダは俺を殺さない。


 まだ利用価値があるのだろうか。


「いつ来るんだ?」

「昼ぐらいらしいです」


 意外と早い。


 トエーリエやヴァリィが側にいるはずだから大丈夫だとは思うが、村の中で暴れないか隠れて様子を見よう。ベラトリックスのことも気になるしな。


 * * *


 エーリカとの話を終えると、いつもと変わらず不味いスープを飲み干してから石碑の掃除を始めた。農作業の手伝いができないほど小さな子供たちも集まってきて、一緒に手伝ってくれている。


 騒がしいが嫌いじゃない。


 こういった日常を守りたくて戦いの日々を続けていたのだ。十年という長い時間が無駄じゃなかったと実感できている。


「ね~~! おんぶしてー!」


 推定五歳ぐらいの女の子が可愛いおねだりをしてきた。


「いいぞ」


 もちろん断るなんてことはしない。将来大きくなったときを考えて種をまいておくのだ。


 背中に乗せると笑い声を上げながら手を振って楽しんでる。きっと大人には見えない何かに挨拶をしているのだろう。


「ずるいー! 俺とも遊んで!」

「私もーーー!」

「掃除は終わりだねっ!!」


 石碑を磨いていた子供たちが清掃道具を投げ捨てて群がってきた。体をよじ登ろうとする。


 動いたらケガをさせてしまうかもしれないので耐えていると、腕や肩に子供たちが登ってしまった。


「高ーーい」


 興奮していて暴れている。落とさないようにバランスに気をつけていると、さらに二人の子供が俺の背中によじ登って、おんぶされている女の子とケンカを始めた。


 さすがにこれは耐えられない。


 全員落ちてしまいそうなので暴れるなと注意しかけると、肩に乗っている男の子が叫ぶ。


「お馬さんがきた! すごいいっぱい人がいる!」


 ついに新勇者が村に着たようだ。


「何人ぐらいいる?」

「うーーんと、いっぱい!」

「そうか、いっぱいか」


 仲間を浄化しながら汚染獣と戦わなければいけないため、勇者は少数精鋭で動く。基本は四~五人ぐらいだ。


 光属性の適性度が高く、浄化の効率や威力があったとしても数十人が限界だろう。


 だから通常は子供が数え切れないほどの人間を派遣することはない。


 様子を見に行きたいから子供たちはさっさと家に帰そう。


「みんな急いで家に戻れ。親の言うことをしっかり聞いて良い子にしているんだ」

「えーーー」


 遊びの時間が終わりだと告げられて子供たちは、それぞれ不満そうな態度をした。


「これから村は騒がしくなる。俺の命令をちゃんと聞け」


 キツく言ったのが良かったみたいで、子供たちは渋々といった感じで家に戻っていく。


 一人になったので建物に隠れながら入り口を監視する。


 しばらくして馬の鳴き声が聞こえ、姿が見えてきた。


 先頭にいるのは王国の兵だ。それが百人、さらに騎士も数十人いる。中心部には豪華な馬車が二台あって王家の紋章が描かれた旗もある。あそこに新勇者と他の王族もいるのだろう。もしかしたら他にも国の重役がいるかもしれない。


 汚染獣討伐にしてはメンバーが豪華すぎる。


 周囲には馬に乗ったトエーリエ、ヴァリィ……なんとベラトリックスまでいた。


 調べ事があると言っていたのに中断してこちらにきた? 王城で何かあった? 具体的なことは不明だが、新勇者側についた可能性は高い。


 ベラトリックスは勇者という存在が好きというのは長い付き合いからわかっている。それは俺への気持ちを消すほど強かった。そういうことだったんだろう。


 その事実に寂しさを感じるが、女遊びをしようとした俺には何かを言う資格なんてない。


 チクチクと胸は痛むが、彼女の選択を尊重し、自由に動けると割り切るしかないのだ。

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