私が鍛えたんですから当然です
「すぐこの場から立ち去れば見逃すが、一歩でも前に出れば捕縛する!」
団長のグローズは一方的に宣言すると黙って腕を組んだ。交渉するつもりはないらしく、命令だという態度を崩さない。
見下すような視線を向けられているが別に気にならなかった。
仲間が怒っているので冷静になっているのだ。
「騎士団が俺の邪魔をする理由がわかる人はいるか?」
仲間たちをなだめながら聞くと一斉に俺を見た。
少しは興奮が収まったみたいなので、もう押さえつけなくても大丈夫だろう。手を離して待つが誰も答えない。
俺と同じくみんなも状況が飲み込めてないのだろう。
気持ちはわかるぞ。俺たちを排除したいのであれば、ドルンダは必ず裏から手を回す。こんな風に表だって邪魔なんてしないのだ。普通とは違う判断をしていることに強い違和感を覚えていた。
「考えてもわからないなら本人に確認してみるか。馬車を進めてくれ」
「はい」
トエーリエは手綱を動かして馬を歩かせた。
警告通りであれば騎士たちから攻撃されるはずなのだが、矢の一本も飛んでこない。
グローズが命令しても部下の半数以上が動いていないのだ。
かなり動揺している。
「ヴァリィの部下は誰が敵なのかわかっているみたいだな」
「私が鍛えたんですから当然です」
胸を張ってドヤ顔している彼女は珍しく可愛かった。普段はかっこいい系なのでギャップがあっていい。一人が嫌な性格をしているし、なつくと甘え坊なところはあるんだよな。
さらに馬車を進めて騎士団との距離を詰めると、攻撃の態勢を維持していた騎士が矢を放とうとしてきたが他の騎士に取り押さえられてしまう。グローズも同じだ。仲間から背後を狙われて地面に押さえつけられている。
結局、攻撃されることなく騎士団の所まできてしまった。
一人の男が前に出てくる。
顔に切り傷があってベテランの風格を持っている。
「ヤゴーゼ副騎士団長、久しぶりだな。元気にしていたか?」
「新しい団長になってから訓練が甘くなったので、みな力と気力が有り余っております!」
敬礼しながらヤゴーゼが笑うと、部下の騎士たちも続いた。
殺伐とした空気が和らいだように感じる。思っていたよりヴァリィは慕われているようだ。
「ドルンダに会いたいのだが中に入ってもいいか?」
「もちろんです。どうぞお入りください!」
騎士たちが左右に分かれて道ができた。
「王家に反逆したと思われるかもしれないぞ?」
俺としてはありがたいのだが、騎士たちの行為は国家反逆罪だ。
一族郎党殺されてもおかしくはないため、心配になってしまい、ついつい聞いてしまった。
「メルベル宰相からは許可を得ております」
「……あいつはドルンダと真逆の命令を出したのか?」
「その通りでございます」
「理由はわかるか?」
「現在、国王陛下は病によって倒れておりまして、錯乱状態でございます。まともな判断ができないため、周囲の反対を無視してあのような命令を下していました」
まさかあの男が重い病気になるとは思ってもみなかったが、意見が食い違っている理由には納得した。
「今は王位を譲るように調整中でして、現在はメルベル宰相が実権を握っており、我々がポルン様を通しても問題にはなりません」
王家乗っ取りを企んでいるようにしか思えない動きではあるが、貴族含めて納得しているのであれば俺からは何も言わない。
すべてを背負うなんてできないので政治は偉いヤツらに任せる。
「ま、アイツだけはドルンダに従い続けようとしましたが……」
ヤゴーゼが侮蔑の表情を浮かべながら、取り押さえている騎士団長を見ていた。
反論しようとしているのだが、口を押さえられているので言葉にはならない。訴えかけるような目をしているのが印象的だった。
汚染獣に従う騎士と愚王に従う騎士団長。
まともな選択肢が残ってないなと内心で深いため息をはいた。
「ドルンダが倒れているなら問題ないな。行こう」
「そうですね。見舞いぐらいはしてあげましょうか」
決して良い意味で言ったわけじゃないんだろうな。トエーリエは心配しているようには見えない。それは他の二人も同じだ。唯一、ミュールが大丈夫かな? と、一人でつぶやいていたが誰も答えなかった。
外壁に作られた門では身分の確認は行われなかった。
騎士たちが話を通していたみたいで顔パスだ。
通りを歩いている人々の中には俺のことに気づいて、手を振ってくる。無視するのは悪いので返事すると飛び跳ねて喜んでくれた。おっさんにモテてもうれしくはないんだが。せめて性別ぐらいは指定させてくれよ……。
「ポルンは人気者なんだね?」
「疑問形かよ! 女性にも人気があってモテてたからな!」
ついつい見栄っ張りな発言をしてしまうと、ベラトリックスが冷たい視線を送ってきた。トエーリエは馬を操作しているので顔は見えないが、同じようにしているだろう。ヴァリィはニヤニヤと笑いながらこの状況を楽しんでいる。
「そういうことにしておくね」
ポンポンと慰めるように肩を叩かれてしまった。ついにミュールからも俺がモテてないと勘違いされてしまったようである。
実際は違うからな!
俺のファンはみんな控え目な性格をしていて表に出てないだけだから!