援護を頼む!
近くにトエーリエがいるとわかっていたので火球は気にせず突っ走っている。思っていたとおり【結界】がすべてを防いでくれた。
ケルベロスは苛立った様子で前足を動かして瓦礫を吹き飛ばしてきたが、これも問題なく弾く。
守りは充分だ。
あとは数十メートルもある大型の汚染獣を斬るだけ。
ようやく間合いに入りそうだったので攻撃する体制に移ろうとしたら、地面から黒い触手が伸びてきて腕や体に絡みつく。左右を見るが極小や小型の汚染獣はいない。ケルベロスの能力のようだ。
ふと空が暗くなったので顔を上げると前足が迫っていた。
潰される直前でトエーリエの使った【結界】が発動して守ってくれたが、魔法ごと押しつぶそうとしているみたいでギシギシと不安にさせる音を立てている。長く持たないだろうことは理解しているが、あえてその場にとどまる選択をする。
腰をひねり槍を投げる態勢をとった。
限界まで光属性を付与していく。
転移魔法陣から来たみたいで新しい小型が数匹近づいているが、ベラトリックスが氷漬けにして動きを止めた。遅れてやってきたヴァリィが刀身にまとわせた魔力を拡大させて、巨大な武器にするとケルベロスの前足を斬る。【結界】への圧力がなくなった。
このタイミングを見逃さす、トエーリエが魔法の効果を切った。
「うぉぉおおおっ!」
光属性の魔力で拘束してきた触手を浄化させると、声を出しながら槍を投擲。ケルベロスの真ん中の頭に突き刺さる。痛みを感じたのか暴れ出したので、剣を振り切って動きの止まっているヴァリィを抱きかかえながら後ろに下がった。
「ポルン様! お尻と胸を触ってますよ!」
「鎧の上からだから問題ないだろ! 舌を噛むから黙ってろ!」
男所帯のトップだったのに乙女みたいな反応をされても俺が困る。助けるための行為なんだから黙って受け入れてくれ。
「グォオオオオオオッ!」
無事だった二つの頭が同時に叫ぶとブレスを出した。炎が伸びて都市を焼いていく。狙いは定まっておらず、辺り一面が火の海となってしまう。
近づくなんて無茶はできず、さらに後ろに下がって安全地帯まで来ると、ヴァリィをぽいっと投げ捨てた。
「いたたっ……お姫様のようにとは言いませんが、もう少し優しくしてくれても……」
「面白くない冗談を言ってないで前を見ろ」
気が付くと中心の頭は噛みちぎられていて消えていた。全身に光属性が回る前に取ってしまったのだろう。判断が早く適切だ。敵ながらやるな、と賞賛する感情がわき上がる。
槍は光属性が付与されたままなのでケルベロスは触れようとはしない。地面に突き刺さったままである。
「致命傷を避けたんですね。無駄に頭がいい」
「それだけじゃない。厄介な能力まであるぞ」
引きちぎられた切断面が盛り上がっている。周りの瘴気を使って頭を再生させようとしているのだ。完全消滅させない限り何度も復活しそうだ。そんなことさせない。
「援護を頼む!」
ヴァリィの剣に光属性を付与すると共に走り出す。
地面から触手がでてきたが剣で斬り裂いて道を作ってくれる。
残っている左右の頭が口を開いた。ブレスの前兆だが足は止めない。前に進む。
喉の奥が明るくなる。火球なのか、それとも線状の炎がでてくるのか、ここからじゃわからない。
だが、そんなの俺には関係なかった。
【アース・ウォール】
地面から壁がせり上がってケルベロスの顎にぶつかる。ガチンと歯から音が聞こえて口が閉じ、大爆発を起こす。顔は半壊していて目が飛び出し、舌がだらりと出ていた。
それでも残された三本の足でしっかりと立っていて、意識を保っていることがわかる。
「ちっ、しぶとい」
走りながら地面に突き刺さっている槍を拾う。
まだ光属性の魔力が残っていてるようだ。離れた距離で様子を見守っているトエーリエを見る。
「足場を作ってくれ!」
空中に階段の形をした結界が発生した。簡単にやってのけているように見えるが、非常に高度な技術を持ってなければ実現できない。トエーリエだからこそできたのだ。
一段飛ばしで駆け上る。
百段以上もあるのですぐには登り切れない。ケルベロスの尻尾が伸びてはたき落とそうとしてきたので、跳躍して十段も進む。
筋肉が疲労して足が重くなってきた。動きが鈍っていると自覚している。
下を見ると地面から伸びる触手が階段を飲み込んでいた。上昇スピードは俺よりも速い。ベラトリックスが一部を魔法で凍らせて破壊しているが、さほど意味がある行為には見えない。光属性を付与するポーションは飲みきってしまったので、たいした効果は発揮できてないのである。
捕まらないように駆け上がっていくが、半ばほどで追いつかれて足に絡まれてしまったので、放出している光属性の魔力量を増やして消滅させる。
安心できたのは一瞬。
津波のように押し寄せてくる触手の集合体が俺を飲み込んだ。接触まではしないが、周囲は何も見えない。視界を奪われたままではケルベロスの攻撃は避けられない。
節約したかったが仕方がないか。
放出する魔力の量を瞬発的に増幅させ、周辺の触手を消滅させると全力で階段をのぼる。