ポルン様は!?
槍を拾って発生源を探す。周囲の瘴気は薄くなっているが、一部の地面だけ濃くなり始めている。ぱっと見でもわかるぐらいの差があるのだ。
「あそこの地面を吹き飛ばせ!」
ベラトリックスが火球をぶつけると、大爆発を起こして石畳と土が吹き飛んで大きな穴ができた。瘴気が噴水のように噴き出して、辺り一面が汚染されていく。
濃度が高すぎるため黒い煙のようになっていて、発生源は見えない。
「みんなは汚染獣の警戒をしてくれ!」
「ポルン様は!?」
「決まっているだろ」
心配そうな顔をしているヴァリィに笑顔を向ける。
「瘴気を出している原因を潰すんだよ」
「ご武運を!」
思っていたとおりの答えが返ってきて嬉しかったのか、笑顔で応援してもらえた。それだけで、やる気が満ちあふれる。
走ってから跳躍すると瘴気が発生してる場所に着地した。
腕を前に出して光属性を一方向に集中して放出、浄化していくと、黒い瘴気が薄くなっていき正体が見える。
腹が膨れ上がった壺のような形をした極小の汚染獣だ。呼吸をする度に高濃度の瘴気を吐き出しているようである。
大型の汚染獣も息をするように瘴気を撒き散らすが、濃度だけで言えば壺型の方が上だ。それも桁が違うぐらいに。
どうやって侵入してきたのかは不明だが、これが何匹もいるのだったら都市全体が即座に汚染されたのも納得である。
槍で突き刺して少量の光属性を流し込むと、壺型の汚染獣はすぐに消滅した。
能力は厄介だが強くはないみたいだ。
勇者見習いでも倒せるレベルである。
瘴気から汚染獣が生まれるとはいまだに信じられないが、目の前で起こった事実は否定できない。隠れている壺型を全て消滅させなければ、この土地は取り戻せないだろう。
「瘴気が濃い場所に極小の汚染獣が隠れている! ベラトリックスは怪しい場所を全て吹き飛ばせ!」
「わかりました! すぐにやります!」
宙に浮かんだベラトリックスは数十にも及ぶ火球を生み出した。
黒い瘴気が立ち上っている建物、通路、井戸、畑といった場所に向かって放たれると、次々に大爆発を起こしていく。壺型の汚染獣は姿を現しているはずだ。
あとは俺の仕事である。
ヴァリィの剣に光属性を付与してから、走り出して手当たり次第に壺型の汚染獣を槍で突き刺す。
何度も繰り返していくとただの作業だ。
考えるよりも体を動かすのを優先して浄化していくと発生源は全て潰せたが、都市全体を走り回って体力が切れてしまった。
「はぁ、はぁ……はぁ……」
仰向けに倒れて空を見る。
青かった。
奪われかけた土地を守ったんだと実感が湧く。
首を横に動かすとヴァリィとベラトリックスの歩いている姿が見えた。
「そっちは大丈夫だったか?」
「小型の汚染獣が数匹出現していましたが、ポルン様のおかげで倒せました」
光属性が付与された刀身を見せながら、嬉しそうにしている。
活躍できて満足しているのだろう。
俺の姿を見て小走りになったベラトリックスは抱きしめてくれた。
「怪我はありませんか?」
「走り疲れただけで元気だ」
「よかった」
大型と戦うたびに重傷を負っていたが、今回は無傷である。ポーションや仲間の存在も大きかったが、俺の適性が上がったことも無関係じゃない。
強くなっている。
今回の戦いを通じて感じたことだ。
「死んだ勇者の埋葬でもするか」
その後は難民たちを呼び戻して都市を再建する。時間と金はかかるだろうが、元に戻るはずだ。
遠い未来を想像しながらも体を起こすと、見覚えのある魔法陣が視界に入った。
「あれは……転移……」
壺型の汚染獣を都市中に仕掛けようとしたら時間がかかる。人に気づかれないようにするなら尚更だ。
大型や小型は瘴気によって出現したとしても、発生源だけはどこからかもってこなければいけないのである。
転移魔法陣を使ったのであれば、全ての現象に説明がつくぞ。
犯人探しは後にして対処しなければ。
「すぐに破壊してくれ!」
ヴァリィが剣を投げると、転移魔法陣に突き刺さって機能が停止した。
よかった。これ以上、汚染獣は出てこない……。
「あそこに大型が!」
わけないか。これほどまで入念に準備していたのだ、転移魔法陣が一つとは考えにくい。二つ、三つあると考えるべきなのだ。
ベラトリックスと同じ方向を向く。
三つの頭を持つケルベロスがいた。先ほど戦った個体よりも二回り大きく、全身に古傷があって長く生きた個体だとすぐにわかった。生まれたてよりも高度な戦い方をしそうだ。
「時間を稼ぐから二人は転移魔法陣の破壊を優先してくれ」
「ダメです! 私も手伝います!」
「気持ちはありがたいが、また別の汚染獣がやってくるかもしれない。それだけは避けたいんだよ」
引き留めてようとするベラトリックスから離れると、槍を構える。
「行け!」
二人は動こうとしない。これじゃダメだ。
「言う通りに動けないなら樹海での探索は一人でする。それでいいなら好きにしろ!」
返事なんて待たず走り出す。
三つの頭が同時に口を開いて火球を吐こうとしたが、構わず直進を続ける。
無謀な行動に警戒していたケルベロスではあったものの俺に策がないと思ったようで、火球を次々と出してきた。