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助かったよ

「私が戦います! ポルン様は周囲の警戒を!」


 次々と復活する小型の汚染獣にヴァリィが斬りかかる。


 溶けかけた肉が中を舞い、犬の頭が飛ぶ。俺が刀身に光属性を付与したので、倒れると同時に灰になって消えていく。


 死体が邪魔になって戦いにくくはならない。予備動作が大きい炎のブレスは当たることなく、体力が持つ限り負けることはないだろう。


 戦闘は任せて汚染獣が出現する原因を探るために瘴気の濃い場所を探っていく。


 上空は青空が広がっていて最も薄い。逆に地面からは煙のように黒い瘴気が立ち上っている。


「地下に何かあるのか?」


 しゃがんで土を触ってみると瘴気が侵入してこようとしてきた。樹海にいたときすら経験したことのない濃さだ。光属性の魔力で浄化してもすぐに新しい瘴気が放出されてしまうので、発生源を断たないと都市は永遠に人の住めない場所となる。


 早めに対処しておきたいのだが、残念なことに難しそうだ。


 一段と濃い笑気を感じたので顔を上げると、倒したはずのケルベロスがいた。俺たちが与えたダメージはなさそうだ。別の個体と思った方が良いだろう。


 俺をギロリと睨みつけると、三つの頭が同時に口を開く。


 横に走って破壊された家の壁に隠れる。


 数秒遅れて炎が襲ってきた。火球ではなく線のように伸びている。


 直撃はしていないが炎に囲まれてしまって動けない。熱い空気を吸い込んでしまい肺が痛く、チリチリと肌が焼けていく。息が苦しい。


 ダメもとで飛び出すか?


 いや、そんなことをしてしまえば焼き殺されるだけだ。


 攻撃が終わる隙をついて逃げようと思ったのだが、どうやら三つの頭が順番に炎を出しているみたいで、炎が弱まったと思えばすぐに強くなる。何十秒待っても途切れる気配はない。


 ヴァリィは小型と戦っていて、俺がピンチだとわかっても動けないだろう。


 こうなったら槍で穴を掘って身を隠すか?


 そんな無謀な計画を立てていると、周囲の土が盛り上がって壁ができる。これはベラトリックスの魔法だ。


 ナイスアシスト! ブレスから逃げる道を作ってくれたので、全力で走り出す。


 何もない空間から二匹の小型の汚染獣が出現した。


 肉がドロドロに溶けている犬だ。種類は変わっていないが新しい個体であるのは間違い。


 瘴気が一定以上濃くなると汚染獣が自然発生するのか?


 いや、今はそんなことを考えている暇はない。


 槍を地面に突き刺しながら高く飛ぶと、勢いを殺さずに前を塞いでいる小型の汚染獣を飛び越える。


 振り返ることはしない。距離を取るために全力で走る。


 背後から空気が震えるほどの振動を感じているので、ケルベロスが追いかけてきているのだろう。ブレスを吐かれたら今度こそ丸焼きになって死ぬ。


 左右を見て隠れられる場所を探す。


「ウォォオオン!!」


 鳴き声が聞こえたので振り返ると、氷の槍で串刺しにされたケルベロスがいた。傷口から氷が広がっていて体は動かしにくそうである。


 槍を回転させながら勢いをつけて投擲すると、体に突き刺さって付与された光属性の魔力が侵食していく。数十メートルにも及ぶケルベロスが再び灰になって消えてた。


「助かったよ」


 手を軽く上げながら【フライ】の魔法で都市内部にまできたベラトリックスへ礼を言った。


「ポルン様のお役に立てたのであれば嬉しい限りです」


 木で作られた杖を握りながら微笑んでいる。心から言っていることはすぐにわかった。


 きっと樹海に行っても同じように助けてくれるだろう。頼もしい仲間だ、なんて感動していいたら、周囲の瘴気が異常なほど濃くなってきた。都市周辺の瘴気が急速に集まっているようである。


 急いで放出している光属性の魔力量を増やし、浄化を続けていたが間に合わなかった。


「ケルベロスが五匹も……ポルン様……」


 通常、大型同士は群れない。単体で戦う。それでも並の勇者では殺されてしまうほど強い。


 それが複数もいるのだ。

 

 経験豊富なベラトリックスさえ恐怖で震えるほど、絶望的な状況だ。


 囲まれているので逃げるなら上しかない。


「飛ぶんだ!」


 長い間に染みついたクセというのだろうか。ベラトリックスは命令に対して即座に対応し、【フライ】を使って俺と一緒に上空へ退避する。


 下は火の海だ。五匹同時にブレスを吐いている。


 少しでも遅れていたら焼き殺されていたな。


「守りを頼む」

「お任せください。ですから……」


 今からお願いすることが不可能だと思ったのか、最後まで言えなかったみたいだ。

 

「俺を誰だと思っているんだ。必ず仕留めてやる」


 だから代わりに言ってやった。


 樹海を目指している勇者なら乗り越えられると。


【ライト・ジャベリン】


 光属性専用の魔法だ。魔力を圧縮して槍の形を作っていく。


 たった一本ではあるが体内の魔力を全て注いでいるので、小型ぐらいまでなら近くにいるだけで消滅するほどの威力を秘めている。


 だがそれでも、大型をまとめて消すには足りないだろう。


「漏らしたのは任せたぞ!!」


 助けにきているヴァリィに向けて叫びながら光で作られた槍を投げた。


 炎の絨毯で隠れてしまった地面に突き刺さると、破裂する。目が眩むほどの光を放つ魔力が広がっていき、ケルベロスたちを飲み込んでいく。三匹は完全消滅させたが、残り二匹はまだ実体を保っている。


「消えてぇぇええっ!!」


 光属性に変換するポーションを飲んだヴァリィが魔力で作られた巨大な剣を振り下ろす。


 消えかけているケルベロスは動けず、体は両断されて灰になる。もう一匹も振り上げた剣によって頭部が両断されて消えた。


 大型を五匹同時に出現させるほどの瘴気を使ったこともあって、しばらく汚染獣は出現しないだろう。魔力が切れかけて気を失いそうになっているが、今のうちに原因を特定しなければ。


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