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誰も襲われなかった

「俺たちはトラピリオン都市が襲われて逃げてきたんだ。食料と水がない。ケガ人もいるので、少しでいいから余っている物があれば分けてもらえないか」

「条件がある」

「なんだ?」

「襲われたときの状況を教えてくれ」


 あそこには勇者だけじゃなく、護衛のために歴戦の戦士も数人は滞在している。並大抵の相手じゃ平民が逃げ出すほどの被害は出ないはずなのだ。


 想定していた以上の脅威が襲ってきたのは間違いなく、敵の情報を知りたかった。


「なんだそんなことか。構わないぞ」

「交渉成立だ。ヴァリィ、彼らに食料と水をわけてくれ」

「お任せください」


 事前に集めていた食料と水を子供たちに渡し始めると、男はようやく緊張から解放されたようで安堵したようだ。強い責任感を覚えていたんだろうな。


 憂いは軽くなったのだから、これでじっくりと会話できるだろう。


「ケガ人は話を後で回復魔法で治療してやる。先に話を聞かせてくれ」

「それは助かるが……いいのか?」

「感謝しているならさっさと話してくれ」

「わかった」


 よく見ると体が震えている。


 恐怖が蘇ってきているのだろうが、俺は男には優しくないので耐えろとしか思わない。視線で早く言えと伝える。


「襲ってきたのは肉がむき出しになった火の玉を出してくる気持ち悪い犬と、頭が三つもある見上げるほど大きい群れのボスだった」

「汚染獣か?」

「そ、そうだ……あれは……汚染獣だったッ!」


 腕で自らの体を抱きしめながら男が叫んだ。


 村を襲ったタイプと同じとみていいだろう。樹海からやってきたと思ったら人間が住む場所を攻めていたようだ。尖兵として派遣されたのかもしれない。


「ボスの個体はどのぐらいの大きさだったんだ?」

「建物の五倍、いや十倍ぐらいだろうか……すごく大きかった」


 大型の汚染獣っぽいな。勇者であっても負ける可能性のある相手ではあるが、撃退できたのだろうか。


「トラピリオン都市には勇者がいたはずだろ? 倒せたのか?」

「二日ほど戦いを続けてくれたが……どうなっているかはわからない……勝てたと信じたいが…………」


 瘴気から守る余裕がなくなったので非難命令を下したのだろう。


 言葉とは逆に男の表情からは絶望を感じる。


 生きてないと思っているみたいだ。残念ながら汚染獣に負けてしまったのかもしれない。


「汚染獣は追ってこなかったのか?」

「ああ。いくつかのグループに分かれて逃げ出したが、誰も襲われなかった」


 だから生き残れた、と言いたそうだった。


 汚染獣は人を見れば襲ってくる。近くに勇者がいても一匹や二匹ぐらいは追ってくるはず。それをしなかったというのであれば、大型が群れをしっかりと統制しているのだろう。知能の高い大型が率いる汚染獣の集団か。やっかいな相手だな。


 欲しい情報は手に入ったので、そろそろ男を解放するか。


「そういえばケガ人がいるんだったな。トエーリエ! 治療をしてやってくれ!」

「お任せくださいっ!」


 食料を持った子供とヴァリィを連れて丘の家にいる集団へ向かっていた。


「俺も戻りたいんだが、話は終わったか?」

「ああ、充分だ」


 男が去って行くのを止めず、見送る。


 声が聞こえなくなるほどの距離ができるとベラトリックスに話しかけた。


「使い魔はどこにいる?」

「ちょうど都市に着いたところです。外壁は半壊していて建物も無事なものはほとんどないですね。火事まで起こっています」

「汚染獣はいるか?」

「はい。肉が溶けかけている小型……百以上はいるかと。目撃された大型は都市の中心に居座っていますね。頭が三つあって凶暴そうです。近くに死にかけている男が五人……これは勇者……?」


 聞いている限り最悪な結果だ。勇者は大型の討伐に失敗して殺されかけているのだ。


 トラピリオン都市にいるのは戦闘経験豊富で、並の汚染獣なら確実に勝てるほどの実力を持っている。


「これから暫定的に大型をケルベロスと呼ぶが、使い魔で攻撃すれば勇者は助けられるか?」

「意識を失っているので意味はないと思います。全身が黒く変色しているので、あれはもう末期。一日もせずに死にます」


 体内に汚染物質が溜まり続けると皮膚が変色する。普通は数ヶ月かけて徐々に黒くなっていくのだが、ケルベロスは光属性の魔力で浄化する量を遙かに超える汚染物質を送り込んだんだろう。


 倒れている勇者たちは体温が下がって激しい痛みを感じ、体は動かせないはずだ。


「全力で走れば、間に合う……か?」

「ポルン様でも無理です。というか行かないでください。一人じゃ危険ですっ!」


 使い魔との視界共有を切ったようで、ベラトリックスは俺を真っ直ぐ見て怒っていた。


 また無茶なことをしようとしていると思われたのかもしれない。ミュールの護衛を優先しなければいけないし、さすがに自重はするぞ。


「試しに言っただけだ。行くつもりはない」

「なら、いいんですけど」


 納得してないようで疑わしい目を向けられてしまった。


 助けを求めるようにミュールを見る。


「ケルベロスの配下は村を襲った汚染獣かもしれません」

「ミュールを探して都市を破壊していると言いたいのか?」

「わかりませんが、可能性はあるかと」


 いやぁ、困ったな。これじゃ戦うしかない。


 護衛は中断して汚染獣を消滅させるぞッッ!!


 誰にも文句は言わせない!


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