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死ぬまで付いていきますからね

 食事に夢中なトエーリエとベラトリックスも集めて、大侵攻の隠された真実を伝えた。


 裏には高い知能を持つ特殊な汚染獣が関わっており、人類は勇者の力ではね除けたわけじゃなく見逃してもらい今も生きていることを知ると、三人は大きな衝撃を受けたようだ。


 人類は汚染獣には負けないといった自信がボロボロと崩れていったのだろう。


「知能の高い汚染獣は少なくとも二匹、樹海の外で活動しています。もしかしたら次の大侵攻の準備を進めているかもしれない……ということですね」


 ヴァリィは確認するように聞いてきた。緊張で顔が強ばっている。


 自分が生きているときに大侵攻が起こるかもしれないと、恐怖をいだいているのだろう。


「いつ起こるかわかるんですか?」

「残念ながら不明だ。しかし予兆はある。勇者の数が大きく減ったら始まると思ってくれ」


 ミュールの方を向くとうなずいてくれた。


「汚染獣がポルン様を暗殺する可能性も考えないとダメですね。私たちで守りましょう」

「そうですね。もう一人にはさせません」


 ベラトリックスの意見にトエーリエが追随した。


 え? そういう話だったっけ!?


 二人が俺の腕を掴んで離さない。


 危機感を共有する目的で話したんだけど、自由を失ってしまったように思える。まさかもう女遊びできないんじゃないか……?


 助けを求めるようにヴァリィを見たら、にっこりと微笑まれた。


「これから外に出るときは、私たちの一人は連れて歩くようにしてくださいね。絶対に逃がしません」


 笑顔なんだけど目だけはマジだ。敵を斬り殺すような鋭さがある。


 彼女たちが協力体制を敷いてしまったら逃げ切るのは不可能だ。絶望が心を支配していく。


「一人になりたくなったらどうすれば……」

「汚染獣がいなくならないと無理ですね」


 この一言ですべて繋がった。ああ、そうか。俺が女遊びできないのは汚染獣のせいだったのだ!


 ようやく真の敵がわかったぞ。


 全滅させれば勇者制度なんてなくなるし、娼館に入り浸っても責められるようなことはない!


 平和になったら娼館にこだわる理由もなくなりそうだが、他によい手が思い浮かばないのだから仕方がない。今はマグマのようにグツグツし続けている情熱を汚染獣にぶつけてやる。


「だったら話は簡単だ。準備を整えて樹海にる汚染獣どもを殺し回るぞ」

「素敵です!」


 俺が宣言した目標は真の勇者と呼べるもので、ベラトリックスが飛び跳ねて喜んでいる。


 こういうところは変わってないなと少しだけ嬉しくなった。


「私たちも参加していいんですよね? 戦うときも、死ぬときも、一緒が良いんです。ダメですか?」


 ベラトリックスはぐいっと顔を近づけて、真剣な面持ちで艶やかな唇を開く。


 トエーリエとヴァリィも同じ気持ちだと言わんばかりの顔をしている。逃げ、誤魔化しはできない。樹海の現実を知った今、表面上は悩んでいるが実のところ結論は出ている。最終決断を下せてないのは、言ってしまうと彼女たちの命を背負うことになるので逃げていただけだ。


 汚染獣と差し違えてでも消滅させてやると生きてきて、何を失っても怖くないと思っていたのに。なんて情けない勇者なのだろう。


 こんな弱音まで知られてしまったら、勇者が好きなベラトリックスには嫌われてしまいそうだな。


 遠回りしてしまったがようやく覚悟を決めると、いつも通りの声色を意識して口を開く。


「樹海に住む汚染獣は思っていたよりも強く、俺だけじゃ中心部にすら辿り着けない。三人が協力してくれたら嬉しく思う」


 俺の言葉を聞いた瞬間、ベラトリックスとトエーリエは目に涙を溜めながら抱きついてきた。やや遅れてヴァリィも続く。森の中を歩き回って戦闘した上に水浴びすらしてないので汗臭いのだが、誰もそんなこと気にしていなかった。


「ようやく本当のパーティメンバーになれました」

「死ぬまで付いていきますからね」

「私も同じです。この剣は国ではなくポルン様に捧げます」


 他にもよい道は沢山あるのに、みんな俺を選んでくれている。嬉しいと感じるが、同時に本当によいのだろうかと疑問も浮かぶ。


「すべての立場を失ってもか?」

「もう家とは絶縁してますから大丈夫です」

「私も団長の地位を返上して、家族には死んだ物として扱ってくれと言っています」


 トエーリエとヴァリィは予想を軽く超える行動をしていた。ずっと前から覚悟は決めていたんだな。


「私だってドルンダに契約破棄を伝えているので問題ありません。もし何か言ってきたら焼き殺します」

「そこは話し合いで解決しような」


 物騒なことを言ったベラトリックスの頭を撫でながら、さっさと樹海を攻略しなければと決意していると、俺たちを見守っていたミュールが話しかけてくる。


「ねぇ質問があるけどいい?」

「何でも聞いてくれ」

「その三人を連れてポエーハイム王国へ戻っても大丈夫?」

「…………た、たぶん、な」


 家を捨てた貴族が二人、さらに国家戦力として抱え込んでいた魔女が一人、俺が原因で出て行ってしまったのだ。


 普通に戻ったらドルンダはぶち切れるだろうな……。


 国王という立場、面子もあるので簡単には許さない。道中でよい案を考えておくが、どうしようもなければメルベルに押しつければいいか。



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