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そんなこと……できるんですか?

 光の球を出して光源を確保すると階段を降りて最下層まで到着すると、金属製のドアがあった。よく見ればアダマンタイト製だ。周囲の壁もアダマンタイトでコーティングされているようで破壊は難しそうだ。俺が全力で攻撃しても無理だろう。


「私をドアの所に……」

「わかりました」


 支えながら巫女をドアの前に連れて行くと、古びた銀色の鍵を取り出した。装飾なんて一切ない、無骨なデザインだ。それを穴に入れて回すとガチャリと仕掛けが動いて解錠された。


 疲れ切っている巫女の代わりに俺が押すと、ギィと錆びた音を出しながら開く。


 薬品の臭いがぶわっと襲いかかってきて鼻にしわが寄った。


 部屋の壁一面に瓶がびっしりと置かれている。


 テーブルがあって上には試験管がいくつかある。中には赤い液体が入っていており、上の部分は透明の水みたいなものがあって二層に分かれている。近くには注射器がい転がっており、あまりよい場所だとは感じられない。


「ここは実験室?」

「秘薬を……作る……小部屋……ですかね」


 随分と苦しそうにしているので、テーブルの近くにあった椅子へ座らせる。


 背もたれに体重を預けた巫女は天井を見つめていて、動こうとしない。体力を回復するまで時間を潰すか。


 壁に置かれた瓶を手に取って、コルクの蓋を開けると甘い独特の香りがした。これは修行のお供として使っている秘薬だ。すべて同じものが入っているのであれば、数年分ぐらいはあるだろう。思っていたよりもストックがあるんだな。


 瓶を戻して今度は赤い液体の入った試験管を見る。


 底の方には凝固した物体があって、すぐに正体がわかった。


「入っているのは血液ですね。上にある黄色みを帯びた透明な液体は……」

「名前はありませんが、秘薬の原料ですよ」


 顔を上げたまま巫女が衝撃的な発言をしやがったぞ。


 まさか血液を使っているとは思わなかった!


「俺のを使っても秘薬は作れるのでしょうか?」

「世の中、そんな都合良くはありません。残念ですが私だけです」


 予想通りの答えだ。誰の血でもよければ各国で秘薬を製造でき、勇者候補生を一箇所に集めるリスクを避けられる。


 その方法を選ばなかったことから、製造には一定の条件があるとは思っていたのだ。


 またこれで巫女が敬われ、各国が支援している理由もわかった。彼女がいなければ人類は汚染獣と戦う勇者すら生み出せないのである。


「どして巫女の血だけが秘薬を作る能力があるのでしょうか?」


 不老という特殊な体質が、光属性の適性を上げる効果を生み出しているのかもしれない。


 俺は無邪気にそう考えていたのだが、顔をこちらに向けた巫女を見ると、そんな理由ではないような気がする。なんというか、陰の空気をまとっているのだ。ドロドロとした人の悪意みたいなものを感じ、政争に負けた貴族みたいな絶望感を思わせてくれる。


「人ではない血が混ざっているからです」

「まさか! いや、でも……そんなこと……できるのか……?」


 寒気を感じるほどの恐怖と嫌悪感を覚えた。


 生き残るためとはいえ、人類は本当に禁忌を犯してしまったのだろうか。


 そんなことないと、巫女本人に否定して欲しいと願っていた。


「それが、できてしまったんですよ」


 消えてしまいそうな笑みを浮かべると、巫女は上着に手をつけた。


 誘惑しているわけじゃないことはわかっている。何かを見せるつもりなのだろう。彼女の覚悟を受け止めると決めているのだから、視線はそらさず真っ直ぐ見る。


「関係者以外に見せるのはポルン様が初めてです」


 服がめくれて白い腹が見えた。


「ッッ!!」


 ヘソの上から胸の下あたりまでに黒い腫瘍みたいなものがあった。本人の意思とは関係なくうごめいているように見える。しばらく見ていたらパカッと開いて歯が見えた。


「口……なのか?」


 俺の覚悟を上回る異様な光景だ。


 思わず言葉に出してしまった。


「ええ、そうです。まだ生きているんですよ。この子」

「体に埋め込んだのですか」

「ええ、私は汚染獣と共存しています」

「秘薬の原料は勇者や国王すら知らない……人類は貴方にそんな酷い仕打ちをしながらも、忘れてしまっていたんですね」

「広めないようにして欲しいと言ったのは私なので、そんな気にしないでください」


 消えてしまいそうな笑みを浮かべながら、巫女は説明を始める。


「過去の大侵攻で滅びかけた人類は、光属性を持つ人の体内に汚染獣を寄生させて、血液に含まれている魔力を変質させる方法を生み出しました。さらに数十年かけて秘薬を生み出すことに成功したのです」

「他にも巫女みたいな人はいたんですね?」

「この村は実験鯛が住む場所だったんですよ。三百人近くはいましたが、生き残ったのは私だけでした」

「それは……」


 どんな言葉をかければいいかわかわらない。俺なんかが想像できないほどの苦痛と悲しみを感じてきたことだろう。


 汚染獣を殺すためだけに罪なき人々を殺し、今もなお少女を犠牲の上で平穏な生活を続けている。


 人とは、なんとも罪深い存在なんだ。


 俺を含めた歴代の勇者も無関係ではない。知らなかったとはいえ少女の犠牲の上に成り立つ秘薬を使って強くなってきたのだからな。


「栄養の大半をもっていかれているので激しい運動はできない体になってしまいましたが、長生きできるようになったので悪いことばかりじゃないですよ。だから、そんな顔しないでください」


 巫女が立ち上がるとフラフラしながら近づいてきて、俺の頬に手が触れた。


 かなり酷い表情をしていたようで、気を使われてしまったようだ。本来なら逆の立場にならなきゃ行けないのにな……。

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