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汚染獣で間違いないぞ

「どうした? 先ほどの勢いがなくなっているぞ!」


 反撃しても硬化した表面をつらぬ抜けないと気づかれたようで、人型の瘴気は嗤いながら攻撃を続けている。


 今は殴り、蹴るといった原始的な手段しかとってないが、瘴気で作った武器ぐらいは作るだろう。


 人間を下等種族だと見下して慢心している状態を続ける方が、こちらにとって都合がいい。無理して攻撃しようとはせず、苦戦しているように見せながらも結界に封じ込められないよう動き回る。


 近くにいる羽虫がムカつくのと同じように、目障りな存在である俺に集中してリュウールの存在には注意を払っていない。魔法陣の起動を待ちながらも何かしているので、汚染獣どもに気づかれないように立ち回らなければ。


「メルベルを追い出したと聞いていたが、たった一人の人間を殺すこともできないのか?」

「下等生物のくせに俺を愚弄するとは……ッ! 許せん!」


 挑発された経験なんてなかったようで簡単に激怒してくれた。瘴気を固めて作った斧を持つと、二匹とも同時に振り下ろしてくる。


 軌道は単純だ。スピードも目で追えるぐらいだ。余裕を持って体を傾けて避けると槍を横に振るって、人型の瘴気をまとめて吹き飛ばす。思っていたとおり軽い。分体であればまだ勝算はあるが、本体で来られたら一人じゃ対応は無理だろう。考えが甘かった。樹海の攻略は仲間が必須である。方針を変える必要がありそうだな。


 起き上がろうとしている人型の瘴気に向かって跳躍し、落下の勢いを借りて突き刺す。不意をつけたようで硬化されておらず体を突き抜けたので、光属性の魔力を全力で放って一気に浄化した。残りは一匹だ。


 また数を増やされる前に対処するべく、槍を突き出すが硬化されて弾かれてしまう。


 手が痺れるのを感じながら立ち上がった人型の瘴気の足をかける。受け身すら取れずに転倒してしまう。頭を踏みつけようとするが、瘴気の濃度が高まった。結界で封じ込めようとしてきたので下がる。


「ちっ、気づいたか」


 あと一歩が足りなかった。腰を落として左手を前に、槍を後ろに引いて構える。


 人型の瘴気はすぐに襲ってこない。平常心を取り戻したみたいで表情は至って普通だ。


 何を狙っている……?


「下等生物のわりに、よく動くことだけは認める。少しだけ本気を出してやろう」


 半径十メートル近くの空間に異変が起こった。景色がぐにゃりと歪み、瘴気が濃くなる。走って範囲がから逃げようとするが、数歩進むと瘴気が濃くなって身動きが取れなくなる。先ほどよりも範囲は広く、また発動スピードが速いので逃げられなかった。結界に閉じ込められてしまう。


 瘴気を強く押しつけられているようで指一本動かせない。それどころか呼吸すら怪しい。普通の人間では一分持てばいいほうである。だが、今回に限っては相手が悪かった。


 中に入ってわかった。これは俺には効かない。


 光属性の魔力を一気に放出すると瘴気が浄化され、同時に結界までも破壊してしまう。


「……なっ! それほどの力があったのかっ!?」


 驚いて動きが止まっている瞬間を狙って人と型の瘴気に触れ、光属性で浄化する。


 一瞬の出来事で、汚染獣は何をされたかすらわからなかっただろう。メルベルが俺に討伐依頼をするわけだ。相性が良すぎた。


「はぁ、はぁ……力を使いすぎた、か」


 体内の魔力が底をつきそうだ。息切れがして頭がクラクラする。眠れば回復と同時に適性はかなり上がりそうだが、それも生きて帰れたらの話だ。


 視界がぐにゃりと歪んで膝から力が抜ける。


 地面に顔をつけそうだと他人事のように思っていたら、急に止まった。心配そうな顔をしたリュウールが覗き込むようにして俺を見ている。瘴気の中では独りでいることが多かったので、すぐ近くに動ける仲間がいるってのは新鮮だ。一人じゃないと思えて心強い。


「顔色が悪いけど大丈夫……?」

「ああ。少し休めばすぐによくなる」

「よかった」


 男装しているが性根は真っ直ぐなんだろう。純粋に心配してくれていたみたいで、大丈夫だとわかるとパッと笑顔になった。


 支えてもらいながらゆっくりと地面に腰を下ろす。


「あれも汚染獣だったんだよ……ね?」


 己の目で見たものが信じられないといった感じだ。


 汚染獣は本能のまま暴れ回る凶暴な存在というのが一般的であり、高度な知能をもち言語を操る個体がいるなんて想像したことなかったんだろう。勇者として長く活動していた俺ですら、つい最近まで同じ認識だった。リュウールがおかしいわけじゃない。


「俺たちを除いて汚染された樹海で生きられる生物なんていない。汚染獣で間違いないぞ」

「そう、ですか……」


 これから勇者として活動するリュウールには刺激が強かったみたいで、力なくペタリと座り込んでしまった。心が折れてしまわないか心配になるが、こればっかりは一人で乗り越えるしかない。


 それが退けたのは分体だ。本体がやってくる前に、植物をいくつか土ごと採取すると革袋にしまっていく。これで耐汚染の研究が進めばいいのだが。


「ねぇ」

「ん?」

「あれなに?」


 視線を地面から空に向ける。腕を組んだ男……人型の汚染獣がいた。


 全裸ではあるのだが下半身は竜の鱗で覆われていて、汚い逸物は隠れて居る。髪は赤く、肌は白い。目は鋭く俺を貫くように見ていて殺気を感じた。とんでもない高濃度の瘴気を周囲に放出していて、耐性のある勇者といえども触れれば即死しかねない脅威を感じる。


「俺が倒した汚染獣の本体だな。魔法陣は?」

「多分、起動している」


 横っ腹を突っついて合図を送る。


「な、なに?」

「魔力が切れかけている俺じゃ倒せない。逃げるぞ」

「あ、そうだね。うん」


 敵がこっちを睨んでいるというのに、リュウールはゆっくりと立ち上がっている。


 そんな間抜けを見逃すほど甘くはなく、人型の汚染獣は周囲に圧縮された瘴気の弾を作り出す。


 俺がリュウールを抱きかかえて走るのと同時に放たれた。地面に着弾すると土が飛び散る。物理的な衝撃すらあるようだ。


「逃げるな! 俺と戦えっ!!」


 汚染獣の言うことなんて聞くわけないだろ。攻撃を避けながらも無視して走り続ける。あと一歩というところで真後ろに複数の圧縮された瘴気の弾が当たったみたいで大爆発を起こし、宙に浮いて吹き飛ばされてしまう。


 背中に強い痛みを感じるが都合はいい。


 地面に着地するとゴロゴロと転がって魔法陣に入ると、周囲の景色が一変して洞窟の中に転移していた。

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