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クビになるのは俺だけだ

「新しい勇者が見つかったからクビ……だと?」


 三人の仲間と俺の二十歳を祝うパーティーをしていたら、国王からの使者から冷酷な言葉を告げられた。


 王家の押印がされた手紙まであるので嘘ではないらしい。


「……理由は?」

「手紙に書いておりますので。それでは」


 どうやら既に勇者という立場から転落してしまったようだ。


 国王の使者は失礼な態度を取ると、手紙をテーブルに叩きつけて貸し切っている飯屋から出て行ってしまった。


 魔女のベラトリックス、騎士団長ヴァリィ、聖女とも呼ばれているトエーリエが気まずそうに俺を見ている。三人とも輝くような美しさを持つ女性なのだが、さすがに今はそれも曇っているように感じた。


 誕生日に、国のトップからクビを言い渡された哀れな男が目の前にいるのだから当然だろう。


 手紙を拾って読む。


 文字を読むとあまりにも酷い理由が書かれていた。


「俺よりもイケメンで血筋の良い勇者が見つかったらしい」


 勇者とはこの大陸に作られた制度の一つだ。


 おおまかに大陸の東側に人間、西側にエルフや獣人といった多様な種族が住んでいる。大陸の中央は樹海が広がっていて、そこには魔物の他、土地を不浄のものにする汚染獣がいる。樹海から出ると農作物や人類に大きな被害が出てしまうのだが、普通の攻撃は効かない。倒すには光属性をもつ人――勇者の力が必要だ。


 光属性を武器に付与して攻撃して倒す。


 これが汚染獣の必勝パターンなのだが、実はこの属性はかなり希少で国内に一人いれば良い方だ。少ないときは大陸中に二人しかいない時代もあったらしい。


 まあそれほどまで貴重なのだから、勇者に選ばれた時点で死ぬまで続けないといけないと思っていたのだが、つい先ほど事情が変わった。


 新しい人材が見つかったのは驚きである。


 民衆の希望、国の象徴としての側面もあるため、見た目が良い男に乗り換えたい気持ちは分かる。まぁ、だからといって即日クビになるとは想像外だったが。二人体勢で運用しようとは思わんかったのだろうか。


「それとクビになるのは俺だけだ。三人は新しい勇者をサポートするように、なんて書いてある」


 彼女たちは勇者の動向を監視する役割も担っているので納得の指示だ。


 何も気にしてないのだが、仲間はちょっと違うようで申し訳なさそうにしている。


 誕生日を祝う空気じゃないな。


 手紙を懐にしまうと席を立つ。


「金は払ってあるから、俺抜きで楽しんでくれ」

「ポルン様はどうするの?」


 聞いてきた魔女のベラトリックスだ。艶のある黒髪と赤い眼、やや厚めな唇が魅力的でついつい目が引きつけられてしまう。胸は大きくしゃぶりつきたくなるほどだ。


 仕事仲間とだけは男女のトラブルは避けたかったので手を出さなかったが、我ながらよく我慢できたな。自分で自分の理性を褒めてやりたい。


「働きづめだったからな。のんびりと過ごすさ」

「私たちを置いて?」

「国王の命令だ。仕方がないと諦めてくれ」


 まだ文句を言いたそうだったので人差し指を唇に付けてやった。


 最後になるんだから、このぐらいの役得はあってもいいだろう。


「じゃあな」


 手を離して飯屋を出る。外は薄暗い。もうすぐ夜になるだろう。


 何度か振り返りながら追跡されてないことを確認すると、路地裏に入る。


 息を整えてから抑えつけていた感情を解放した。


「これで、女遊びができるッ!!!!」


 なぜか知らないが、勇者という存在は高潔でなければいけないらしい。これまた頭がおかしいことに王国法で決められている。


 潔白、清純、純潔、そういったものが求められるのだ。


 当然だが女遊びなんてできない。


 娼館に入れば「店が潰されるから勘弁してくれ」と、何度も入店拒否をくらった。ナンパしようにも勇者パーティーの三人が常に監視していたので、声をかける隙すらない。


 変装してもなぜかバレるんだよな。


 俺の体から勇者オーラみたいなのが出ているのだろうか?


 すぐにでも娼婦たちとイチャイチャしたいところだが、店が開くのはもう少し夜が深まってからである。まだ早い。


 十年も耐えてきたんだ。あと数時間ぐらいなら大丈夫。俺にならできる。


 爆発しそうな息子をおさえつつ、いつもの宿に戻って借りている部屋に入ると水を持ってきてもらって体を丁寧に洗う。特に下半身は大事だ。


 臭いがしないように香水まで付けておいた。ちょっと敏感な部分がヒリヒリするが、娼婦たちは喜んでくれるだろう。もしかしたらしゃぶりつくしてくれるかもしれない。妄想は広がっていくが今日だけはすぐに中断した。


 実践する日なのだからッ!!


 汚れていない服を着て部屋を出て一階の食堂に行く。


 目的の人物はカウンターの中でグラスを磨いていた。


「マスター。上等な酒を一つくれ」

「おう。ここで飲むか?」

「今日は違う。手土産用だ」

「誰に渡すんだ?」

「女というのは決めているが、それ以外はわからん。気にいったヤツに、だ」

「マジで言ってるのか?」


 なんか怪訝な顔をされてしまったが、俺は我慢の限界なんだよ。いつもと違って無駄話をする余裕なんてない。


「時間がないんだ。早く用意してくれ」


 俺が爆発する前にな!!

 

「……わかった」


 そう言うと、マスターは壁に並んでいるワインのボトルの一つを取って持ってきてくれた。


「十年前に作られたワインだ。気にいった女へのプレゼントとしてはちょうどいいだろう」

「いくらだ?」

「金貨一枚」


 農民なら数ヶ月は暮らせる金だ。ここ、王都だと一ヶ月弱ってところかな。


 そこそこの値段はするが、勇者として働いていた俺は金を持っている。この程度は問題にはならん。


「買った」


 ポケットに入れている黒い財布を取り出す。これは去年、ベラトリックスが誕生日プレゼントとしてくれた物だ。


 消音効果があって複数の硬貨を入れても音がしない逸品だ。


 金貨を一枚、カウンターの上に置いてからワインボトルを受け取る。


「明日の昼頃に戻ってくる」


 この言葉には、娼館で楽しんでくるという意味が含まれている。


 人生で一回は言ってみたかった言葉だ。


 手を振って宿を出る。


「誰か死ぬかも知れんな」


 後ろからマスターの声が聞こえた。


 あながち間違いではない。


 俺が伝聞と妄想で培ったテクニックによって、昇天する女がいるからな!

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― 新着の感想 ―
[一言] うーん…いや、国王の判断そのものは決して馬鹿げたものとは言い切れない。あくまで現状の情報だけだと政治的な思惑やら何やらがある可能性は十分にあるし、勇者という重責からの解放という側面もあるかも…
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