いざ、商業ギルド〜福祉用具店を開きます〜3
朝から皆で朝食を取り、準備を行う。
ソイが初めての訪問で緊張してるのを、見かねてショーン達が少しでも緊張が取れるように優しく接している反面、横ではスーが口いっぱいにパンを頬張ってる。
うん…その我関せずスタイルで沢山食べる所がスーらしい。
さて、そろそろ時間だ。行くか。
「ショーン。この手紙をマーレイ王に渡してくれる?店を購入する時にとても助けて貰ったから」
「手紙ですね。分かりました」
「うん、お願いね」
また、今日は行けないから手紙でまず伝えて次の訪問の時にもしっかりお礼を伝えよう。
「じゃあ先に行ってくるね」
「行ってらっしゃいませ」「早く帰って来てね!!」
皆に見送られ、サンとリーフと私で馬車に乗りご婦人の待つ家に向かう。
レナートは先に屋敷で待っているとの事だった。
屋敷は貴族街の方にあり、庭も広く整えられている。
馬車を止め降りるとメイドと執事が頭を下げ迎えてくれる。
「ようこそ、おいでくださいました。私、執事長のロレーンと申します。奥様と医師のレナート様がお待ちです。こちらへどうぞ」
ロレーンに案内され部屋に入ると、優しい顔付きで品があり、淡い色のワンピースを纏った老婆がイスに座っている。
「初めまして皆様。兄より話は伺っております。私が先王マーレイが妹カメレと申します」
目尻の皺を増やし柔らかい笑みを浮かべてくれる。
マーレイ王と笑った顔がよく似ている。
「初めまして。カメレ様。お呼び頂きありがとうございます。ルーズと申します。こちらがリーフ、サンです。本日は魔道具の説明とこれから行うケアについて話をしたいと思います」
「えぇ。よろしくお願い致します」
メイドに手伝って貰い、魔導具と車椅子を並べる。
「まぁ!これが!」
少女の様に目をキラキラとさせながらカメレが魔導具を嬉しそうに見てる。
「私、お風呂が好きで……足を悪くしてからは中々苦労していたの」
魔導具に魔力を込め水球を浮かばせながら、入浴の際の動作等をメイドと楽しそうにカメレが話している。
「この水球なら足を動かさなくても入れるわ…」
足ね……。
「レナート様、少し宜しいでしょうか?」
「えぇ。かまいませんがどうされましたか?」
レナートと部屋の端の方に移動する。
「足の状態や身体状態について詳しく伺っても?」
「はい。大丈夫ですよ。カメレ様なのですが食事はしっかり取られております。1食の量などは、お渡ししている資料通りです。食事の形態も普通食で問題ありません。排泄も立つことは出来るのですが歩く事が困難な為日中は、布オムツで過ごされております。足については、老化も勿論ありますが、骨にも異常が見られます。骨無症ですね…」
骨無症か……
確か足の膝の骨が弱っていく病で、足に力が入りにくくなり動かし歩く事が困難になっていく病気。
「ありがとうございます。後服用している薬はこれで間違いありませんか?」
レナートと一緒に薬を確認しながら説明を受け問題無い事を確認する。
足の状態にしても、先王のマーレイ王の時と違い病気なのなら回復魔法で治療や緩和を出来ないだろうか…?
そう考えチラリとサンを見るとサンもこちらを、ガン見していた。
『ねぇ、ルーズ今魔法でと考えたでしょ?』
頭に声が響く。
おぉっ!びっくりした…念話か。
表情に出ないように口をキュッと結ぶ。
『そうだけど…よく分かったね』
『部屋の端に移動した時点で分かるよ…まぁ、今の足を見る限り治療は可能だけど、完全に病気自体無かったことには出来ないのと、老化は止められないからね。筋肉や細胞は変わらない。後、光属性は希少だから、その魔法を求める者は多い分、ルーズが何かに巻き込まれる危険性もあるから。それを理解した上でレナートに聞いてね』
『分かった。心配ありがとうね』
私がそう言うと何事も無かったように絨毯の上でサンが丸くなる。
ただ、尻尾は嬉しかったのか揺れている。
ふふっ。分かりやすい。
「レナード様、相談なのですが……私は光属性の魔法を使えるのである程度までなら骨無症を治療出来ると思います」
「!?」
レナートの肩がビクッと反応し目を見開き固まり、しばらくすると慌てたようにキョロキョロと周りを確認し小声で話す。
「ルーズ様は光属性が使えるのですね……ンンっ!是非お願いしたいのですがメイド達を1度下がらせてカメレ様に話しましょう」
私が頷くとレナートがメイド達に1度部屋から出るように促す。
最後の1人が出ていくのを確認してレナートがポッケからキラキラとした石を出して魔力を込める。
「これで盗聴や情報の漏洩は無くなりましたね。ふぅ……カメレ様。ルーズ様にカメレ様の足の治療をお願いしようと思うのですが宜しいでしょうか?」
カメレが驚いた表情を浮かべこちらをジッと見た後レナートと私の間を視線がキョロキョロと動く。
「治療を……?ルーズ様はお医者様でもあったのかしら?」
「いえ、ルーズ様は医者ではありませんが……「私、光属性なので治癒魔法が使えます」
レナートが私の属性を伝える時少し迷う素振りを見せたので大丈夫の意味を込め私が会話に割って入る。
「……レナート!」
暫くなんとも言えない表情で、固まっていたカメレが突然怒った表情を浮かべ叫ぶ。
「貴方!光属性がどれだけ希少性が高く危険か分かるでしょう!?こんな所でそれを話して大丈夫なの!?」
カメレの心配そうでありながらも少し怒ってる様な凄い剣幕に私も驚く。
「落ち着いて下さいカメレ様。音消しの魔導具もしっかり使ってますし周りの人の気配もずっと意識してますから大丈夫です」
それを聞きカメレがハッとしたのか、ゆっくり深呼吸を行い落ち着くのを待つ。
「そう…ごめんなさいルーズ様、レナート。誰かに聞かれたらと思うと………本当にごめんなさい」
カメレが私とレナートに頭を下げる。
「それ程危険なのですね…私こそしっかり知らなくて」
「いいえ本当に私こそ……ルーズ様は〈裏切りの聖女〉と言われてる方を知ってらっしゃるかしら?」
裏切りの聖女……?
なにそれ……知らない…。
私の表情を見て察したのか、少しホッとしたような表情を浮かべる。
「なら……聞いていただけますか?」
「えぇ。是非お願いします」
ありがとうと嬉しそうに微笑みカメレが自分の手を触りながらゆっくりと話してくれた。
カメレがまだ幼かった時この国で初めての光属性を持つ少女が居た。
誰にでも優しく、容姿も美しかった事からいつからか皆が聖女だと呼び始めた。
その聖女も皆の期待に応えるように、その魔法を惜しげも無く使い様々な人達を癒してまわった。
そんな日々が暫く続いていたある日、人間の国の周りの森から死者の魔物が現れ出した。
人間のゾンビの様な魔物から、首から先が無い獣人族のゾンビ達が一斉に人間の国へ向かって来ていると。
人々は、パニックになりながらも守りを固め戦うしか選択肢は無かった。
その戦いの指揮を執る者達として、5人の若者達が集められた。
国一番の剣の腕を持つ剣聖、水魔法と火魔法が使える魔法使い、弓など遠距離攻撃に優れた弓使い、変化する戦況を風魔法で伝え作戦を立てる司令役、そして…回復の為の聖女。
5人を人々は願いも込めて勇者と呼んだ。
国の兵士、傭兵ギルドを纏めあげ何度も交戦するも次の日にはまた森から溢れてくるという厳しい戦いが続く。
森の中の元凶を倒さない限りゾンビ達は止まらないが、倒そうにも勇者達が離れた時戦線が崩壊しては意味が無い。
そこで勇者達は、王に進言することにした。
他国から援助の手を借りる事を。
話し合いの結果獣人族から500人の兵を派兵して貰える事になった。
戦線を獣人族が加わり維持し、その間に勇者達が一気に森の中の元凶を倒しに動く。
二手に別れる事に決めた。
作戦決行の日……
あの日を未だに忘れることは出来ないとカメレが目を閉じる。
「皆が前を向いて静かに勇者達の話に耳を傾けたわ。勿論幼かった私も……。もしも元凶を倒すのに失敗した場合この国は滅んでしまうんだから。皆が少し不安そうにしていた。でも勇者達は自信に溢れていたわ。大丈夫だと。拳を掲げこの国を守ると話した瞬間、私も含め国民達は大いに沸いた」
その光景が私の頭の中に浮かぶ。
勇者達も色々な葛藤があっただろう。
それでも人と国を思い行動する為に必死に叫んだんだろう……
「私、当時は姫だったから、勇者達の見送りもさせて貰ったの。どうか無事にと祈る事しか出来なかった…」
そして次の日の朝、ゾンビ達が動きを止めた。
勇者達が元凶を倒した!!
やった!!やったんだ!!と大いに喜び勇者達の帰還を皆が待った。
ただ、待てど勇者達は現れない……。
すぐに、獣人族から10人、兵からは30人集め捜索に向かった。
森の奥深くに進むに連れ魔力瘴気が黒く溜まり、木は多くが薙ぎ倒され、戦場の痕跡が深く残る場所に勇者達は居た。
5人の内4人が冷たい動かぬ身体となって。
生きていたのは聖女1人だけ。
剣聖が守ったのであろう事は誰が見てもすぐに分かった。
片足はちぎれ落ち、腹は大きく穴を開け必死に血に塗れながらも聖女を抱きしめて事切れていたから……。
「勇者達が帰ってきたと聞き私は慌てて門に走った。ゾンビ達は確かに倒せた、だけど、失った者が大き過ぎた」
聖女が目を覚ましたのは2日後だった。
「目が覚めたと報せを聞き私は、すぐに部屋の前に向かったの、部屋の中からはずっと泣き声が聞こえてた…」
起きて現実だったと、他の4人の名前を叫びながらずっと泣きながら謝っていた…
その時を思い出したのかカメレの手が震えている。
「でもね、それだけじゃなかったの…」
誰かが言った。
「聖女は治癒魔法を使わなかったのでは無いか?」
「1番先に聖女が倒れたらしいぞ」
「聖女が他の4人を、見殺しにしたようなものだ」
「聖女を捕まえろ!」
1つの疑問が憶測を生み憶測から確信に変わり人々の心は酷く、醜く染まっていく。
黒い感情に身を任せ、有りもしない罪を作り上げていく……
「あの時は本当に異様な有様で…それと同時に私は強い怒りを抱いたの。」
「怒り?」
私がそう聞くと、カメレがこちらを見る。
その目は未だにメラメラと燃えているようだった。
「えぇ…怒り。勇者達は必死に戦ったわ。それは間違い無い。それなのに…それなのに!」
カメレが叫ぶ。
「聖女1人のせいにして、自分達が弱かったこと、守ってもらった事に目を瞑り…でも私は私自身にも怒りがある。王族と居る立場で居ながら聖女を……」
声が詰まり、止まる。
苦しそうに。




