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人間の国ヴァン1

村を出て、精霊樹の川沿いにずっと歩くと大きな石の刻印が刻まれた支柱が見えてくる。


「ルーズ様、サン様、リーフ様ここから外に出ます」


ショーンがそう言いながら、エルフに伝わる呪文を唱える。

刻印が下から上に掛け光を帯びながらシャボン玉のような膜が出来る。

「凄い…。これ割れたりしないの?」


「大丈夫ですよ〜通るとそこから外になりますので」


アクアがゆっくり膜を通りそれに続く。

膜を通ると空気が変わる。景色にしても森が私の知ってる木のサイズになっている。


「おぉ。木が縮んでる?」


「ふふっ。エルフの村は魔力の濃度が違いますからね〜それで木の大きさも変わるんですよ〜」


なるほど。魔力の濃度が変わると様々な事が変わるのか…。

そこからまた川を探し川沿いに進んでいく。

川沿いに進む事で迷う心配は無さそうだ。

水に困ることも無いし、食料にしても、三組に別れて調達する。川で魚を採る者、山で山菜を採る者。食事の支度をする者。

川組が、アクアとサン 山組が、ショーンとリーフ。

属性と得意なことで分ける。私は料理が美味しいとの事で支度を行うことに。

元々前世は一人暮らしだったから料理は得意な方だと思う。

それとこちらの世界にも調味料が、しっかり揃ってるのが嬉しい。まあ、醤油とかが、草から採取されると知った時は驚いたけど…。陽の当たり方で甘口辛口など違って面白い。

ただ、メニュー自体は発展してなかったからヴァンで飲食店巡りとかもしてみたいなぁ…。

調整員としての仕事の拠点はヴァンになるだろうし。


何かとこれから入用だしなぁ。1年は余裕で生活できるお金を母様がくれてるけどあまり当てにしすぎるのも良くないし、いっそ店を出せたらなぁ…。




「だれかぁぁ!!助けてえぇ!!」

夜、ご飯を皆で食べてまったりしていると森の中から叫び声が聞こえた。

「こっちか!みんな行くよ!!!」

声の方へ急いで向かう。


近くに行く程に血の匂いが濃くなる…

間に合って……。そう願い更にスピードを上げる。

着くと人と馬車が倒され5人倒れており、それを囲むように山賊のような人達が10人。

そのうちの1人の山賊が女の人の胸を貫く瞬間が見えた。


ぁあ…。間に合わなかったんだ……。

人が亡くなる瞬間は見てきた。

でも人の殺害現場は見た事が無い。

ぁあ。頭が冷める、意識が沈む。

マニアワナカッタ、タスケレタノニ。


絶望感が胸を絞める。

それと同時に言い様のない怒りが溢れる。


「ルーズ様、これは…」

ショーンが話しかけてくるのが遠くに聞こえる。

冷静では居られなくなった私は地面を蹴り倒れた女性の傍に立つ。

「おぉ。女の子追加だぞぉ」

嬉しそうな表情を見せる山賊の首を勢いを乗せたまま剣で切断する。

「え?」そこで慌てて他の山賊達も剣を構えるも遅い。

ただ目の前の敵を剣で切断していく。

血が飛び散るとかもう何も気にならない。

あっという間に全ての山賊達を血の海に沈める。



「大丈夫かい?ルーズ。」

サンが心配そうに見つめてくる。

大丈夫……?大丈夫では無いのかなぁ。

魔物を倒すことは沢山してきたけど怒りで我を忘れ人を斬ったのは初めて…。

少し休んで下さいとの言葉に甘え地面に座りボーッとする。



ショーンとアクアが倒れている人達の方を調べるも、誰も息をしていなかった。

山賊達と分けて1箇所に運ぶ。

亡くなってしまってるけど、遺品などで個人の特定をしヴァンで報告する為だ。

山賊の亡骸はショーンが風魔法で切り刻んで埋めた。

1箇所に集めた亡骸は、サンの魔法でゆっくりと燃やす。

少しでも安らかに眠ってくださいと祈りを込めながら。



火がまだ少し残っているのを少しぼーっとして眺める。

「ふぎゃぁぁあおぎゃぁぁあ。」

泣き声…?

どこから?馬車…?

慌ててその声の聞こえる方に駆け寄ると、布に包まれた赤ちゃんが居た。

生きてる……あぁ。生きてる。良かった。

赤ちゃんを抱きしめながら涙が止まらない。

分かっていたはずだった。

異世界なのだから治安が違うことなど……。

それでも目の前で間に合わず命が亡くなっていくのがどうしても堪らなくて。


「気付かれぬ用に布で包んで守ったのだろうねぇ。防御魔法がこの布に縫い込まれてるから。」

サンが覗き込みながら話す。

そっかぁ……良かった。

生きててくれて。

とりあえずヴァンに連れていかなきゃ。


布でしっかりと包み直し抱っこしてる間に、アクアが馬車から残っていた赤ちゃんの布おむつや服、ミルクを持ってきてくれる。どうやら、女の子のようだ。

ただミルクの残りがヴァンに着くまで心許ない為、できる限り急ぎヴァンに向かうことにした。

道中、アクアとショーンと交代しながら子守りをする。

サンとリーフは眺めはするけど、サンはそもそも猫だから抱っこしようにも、モフモフの手が短く断念。

リーフは1度お願いした時抱っこしたけど泣き出すと、スっとショーンに渡していた。赤ちゃんの扱いって難しいからなぁと、ほのぼのした気持ちで見守る。





そこから2日かけて、人間の国ヴァンが見えてきた。

ヴァンは大きな城壁にグルリと周りを囲まれており、門の近くも、様々な種族の商人達や色々な人で溢れ列を成していた。

ただ、商人、一般人、貴族では、並ぶ列が分かれているらしく。


「ここが3番目の門です〜!」

アクアがそう教えてくれる。

「3番目??」

「はいっ!ここと同じ様な門が全部で5つあるんですよ〜そして私達は一般人の方から入国申請します」

「分かった。それにしても思ってたより大きい国なんだねぇ。」


「はい〜。城壁も魔物避けを施して土属性持ちを沢山集めて作ったみたいですからね〜」

なるほどなぁ。まあそりゃこっちの世界に機械ってそんなに無いもんね。


「ルーズ様、先に行かせて頂きます。」


ショーンが先行し、門番の兵士に母様から預かっていた書を見せると慌てて違う部屋に通される。

暫く待つと、高価な服に身を包んだ50代位の渋い細身のおじ様が入ってくる。


「お待たせして申し訳ありません。私、国の防衛を任されているクギと申します。風のニア様からお越しになると聞き待っておりました。入国手続きなどはこちらでしておきますので…。おや?…その赤ん坊はどうされたのでしょうか?」


この方は防衛大臣的な位置なのかな?

とりあえず周りの反応などを見るに偉い人なのは間違いなさそうだ。


「ここに来るまでに襲われている所を保護致しました。その件に関しては私が。」

ショーンが山賊に会い倒したこと、5人の亡くなってしまった人達の遺品を見せながら説明する。


「なるほど…ありがとうございます。遺品に関してはこちらでお預かりし、傭兵ギルドの方で確認致します。1度赤ん坊が巻いてる布を見せて頂けませんか?」


「どうぞ」

私が布を手渡すと、クギがポソポソと何か呟く。

すると、ランという名前が刺繍で浮き出る。


「ラン……名前も分かったことですし、1度傭兵ギルドの方に、言伝だけ伝えて調べて参りますのでこの者に案内させる馬車でお待ち頂けますか?」


了承すると、門番に引き継ぎクギが退室する。

そのまま、門番に案内され馬車に乗り込み待つ。

暫くするとクギが戻ってきて、この国で住む家に案内してくれる。


「どうぞ、皆様。着きましたよ。」

外に出て見てみると、大きな屋敷が。

エルフの里の時も大きな家ではあったけど、この国では身分や種族を隠すことを考えると…広すぎる気が……。

エルフの村の時の家の敷地を普通の一軒家12個分だとすると、ここは10個分程…。

いや、でも村の時は儀式の間もあったし……

何より立場が違うか…。



とりあえず案内されるまま中を見るも、広すぎる。

部屋数だけで20個を超えていて、そこまで管理するのも大変だしなぁ。絶対20個も部屋を使わない…。

1人何部屋よ…


「少し宜しいでしょうか?皆で相談したいので。」

クギの了承を得て、部屋を1つ借りて皆で話し合う。


「広すぎると思うんだけど、みんなはどう思う?」

「んー、私はどっちでも。ルーズに任せるよ。」

「私も、ルーズ様にお任せします。」

サンは本当に興味無いのか丸まって欠伸をしている。

本当に猫ぽいなぁ……。


「ショーンとアクアは??」

「ルーズ様が懸念してる通りここは人間の国の中でも上級階級の貴族等の者達が住む場所になるので、色んな意味で目立つとは思います。それに掃除をするにもアクアが…」

「ちょっと。どういう意味〜?」

「はいはい、2人ともストップ。とりあえずここの家は辞めとこう。クギに伝えてみるよ。」


確かにアクアは、なんというか雑いんだよね……。

本人は凄く頑張ってるんだけどね。1つの事に集中しちゃうと周りが見えないというか…。掃除とか細かい作業は、苦手なんだろうなぁ……。


クギを呼び、ここより小さい家でお願いしたいことを伝える。

初めはここよりも小さいとなると…と渋っていたけど、他の家も案内してくれる事になった。

そこから何軒か周り、5件目辺りで丁度良い家が見付かった。

広さとしても部屋数が小さいものも含めて10部屋ほど。

庭も丁度良い広々とした大きさで、少し古いレンガの感じが味を出してて可愛い。

また立地も貴族街より平民の方にある所も気に入った。

防犯にしても、そもそもみんなある程度は戦えるし、何よりサンが悪意に反応する結界を張ってくれることになった。

「この家で決めたいのだけど、良いかな??」

みんなに確認すると問題ないとの事で、家が決まった。


決まって良かった…と、とりあえずホッとしながらクギにお礼を伝えていると、傭兵ギルドの副ギルドマスターが来た。





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