第一話 東京という都会の大海原で、上手く泳げないので波間を漂っている
頑張って投稿しました。
コンビニはいまはレジ袋有料化に伴い、マイバックを持参される方も多いと思います。レジも支払いはセルフですしね。今回はその辺の描写はあえて避けています。ちよっとだけ昔のコンビニエンスストアです。
東京・某所。
♪ま~い○ち~、○~いに○~、僕らは~○板の~♪
♪う~えで、焼かれて~、嫌にななっちゃうよ~♪
コンビニ袋片手に思わず口ずさむメロディー。。
ふと、街燈の下で立ち止まる。
見上げると、夜空にポツンと欠けた月。
「・・・あぁ、ここじゃない、どこか遠くへ行きたいなぁ~」
佐崎 芽衣菜、28歳、独身。
彼氏いない歴7年。
二階建ての1DKの安アパートに一人暮らし。
実家は高知の田舎で農業を営んでいる。
都会に憧れて東京の大学に進学し、そのまま零細企業の事務職に収まる。
憧れていた東京は、思っていたほど華やかなどではなく、物価は高いし、給料は安いし、正直カツカツの生活だ。
今日も今日とて、使えない上司のお小言を聞きながら、自分の分ではない仕事まで押し付けられて、二時間の残業を終えたばかり。
雀の涙ほどとはいえ、残業代は一応出ているため、今日は自炊はやめて、コンビニで夕食を済ますことにした。
自宅のアパート近くにあるコンビニは、この時間帯は学生のアルバイトがレジに立っている。
愛想はないけど、ちょっとイケメンで目の保養になる。
カロリーの高いお弁当は避けて・・・。
あっ、おでんがある!
最近、寒くなって来たからな。
我が家には万年コタツが出てるから季節感なんてゼロだけど、こういうのを見ると季節を感じるなぁ。
でも、おでんって夕食っていうより、つまみだな~。
そういえば、冷凍庫に残り物の炊き込みご飯を握ったのがいくつかあったよね。
それとおでんでいいか。
入り口に設置してあるかごを持って慣れた足取りでドリンクコーナーに向かう。
迷わずレモンチューハイとカルピスサワーをとり、かごに入れる。
ついでに朝食用のハム野菜サンドとヨーグルトもかごに放り込み、、レジへ。
「おでん、とってもいいですか?」
アルバイトの学生君に、おでんを指さし確認。
大根と~、こんにゃくと~、あ、牛すじがある。ゲットだぜ!
あとは玉子と、ごぼう天かな。しらたきも追加で。お汁はたっぷり入れて・・・。
「お願いします」
「・・・・・はい」
レジを終えた商品を袋に入れてもらい、コンビニを後にする。
・・・これからひとり侘しくコンビニ飯か。
まぁ、いいんだけど。おでんはあったかいし、テレビ見ながらひとり晩酌でも十分に楽しいし。
狭いアパートの一室は、煩わしい人づきあいがなくてほっとする。
「あ~~、どっか遠くに行きたいな~~」
独り言には大きな声が出て、ちょっとびっくりして思わずキョロキョロあたりを見回してしまう。
最近、独り言が多くなってきた気がする。
「・・・仕事辞めて、実家に帰ろうかな」
別に、何かに絶望したわけではない。
ただ、毎日毎日繰り返される日常の檻に、飽き飽きしていた。
退屈とは違う。
彼氏はいないけど、別にそれほど寂しくない。
いつかは結婚したいけど、最近は晩婚化が進んでいるし、まだまだ焦る必要はないだろう。
目標も夢も、将来の展望もない。
生活のためにあくせく働く日々。
狭いアパートの一室だけで得る、わずかながらの安息。
あの嫌味な上司の顔を見ない場所に行きたい。
残業を手伝ってくれるわけでもないのに、やたらしつこく飲みに誘ってくる同僚も、うざい。
両親は、実家に戻ってきて早く結婚しろとうるさい。
孫の顔?
私じゃなくてお兄ちゃんに言ってよ!
もしも、ここではないどこか別の場所にとしたら、どんな場所がいいだろう?
いっそ海外とか?
あ、英語ができないや。
ハワイとかなら日本語でもいけそう。
常夏の楽園か~~。
こことは違って暖かいんだろうなぁ。
そんな他愛もないことを妄想しながら、重い足取りでアパートを目指す。
ーーー数時間後、いきなり異世界の女神様を名乗る美女に、願いを叶えてくれると言われるなど、想像もしていなかった。