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3/30

元カノの姉と手を繋いだ

「俺と付き合ってください、里奈さん」

「おっけー。じゃあこれからよろしくね、ダーリン」


 彼女と別れてから半日と経たないうちに、元カノの姉と付き合うことになった。


 我がことながら破茶滅茶な展開だと思う……。

 なにより、里奈さんが俺に好意を持っていたことが驚きだった。


「だ、ダーリンはやめてほしいんですけど……」

「そ? ラブラブっぽくてよくない?」

「バカっぽいです」

「わぁ、辛辣」


 里奈さんは両手をパッと開くと、苦く笑う。


 俺はブランコから重たい腰を上げると、ポリポリと頬を掻きながら。


「えっと、じゃあ、帰りますか?」

「うん。またね」


 ひらひらと手を振ってくる里奈さん。


 いや、そういう意味じゃないんだけど……。


「俺たち、付き合ったんですよね?」

「うん。そーだよ」

「家まで送りますよ」

「大丈夫だよ、別に。そんな遠くないし」

「いえ、もうだいぶ暗いですし、送らせてください」

「そ、そっか……。じゃ、お言葉に甘えて送ってもらおうかな」


 照れ臭そうに笑みを浮かべる里奈さん。


 俺が歩を進め始めると、里奈さんは半歩後ろを引っ付いてきた。

 以前まででは考えられなかったくらい、距離が近い。甘い香りが鼻腔をつくたびに、俺の精神状態が荒れていた。


「あのさ、拓人くん」

「は、はい。なんですか?」


 名前を呼ばれて、里奈さんに焦点を合わせる。


 里奈さんはほんのりと頬を赤らめながら。


「手、繋いだりしないの?」


 肩をピクリと上下させ、息を呑む俺。


 そ、そうだよな……。

 付き合ったなら手を繋いで一緒に帰る方が自然だ。


「繋ぎますか?」

「んっ」


 里奈さんが右手を差し出してくる。

 俺はそれを優しく、左手で握った。


 里奈さんは口元を綻ばせると、肩がぶつかりそうなくらい距離を詰めてくる。


「もしかして、緊張してたりする?」

「そりゃしますよ」

「ふーん。唯香とは散々、手を繋いでたくせに?」

「そ、それとこれとは別問題というか」

「ドキドキしてくれてるんだ?」

「……しなかったらどうかしてます」


 平常心を保てる方が異常だ。


 かろうじて会話できているだけでも褒めてもらいたい。


 里奈さんはさらに口元をゆるめると。


「そかそか。ふーん」

「そういう里奈さんはどうなんですか?」

「どうって?」

「俺と手を繋いでも、何も思わないですか?」

「ううん。男の子の手って意外とガッチリしてるなぁとか、心臓バクバク言ってるなぁって思うよ」

「人のこと言えないじゃないですか。……え? ていうか、里奈さんって誰かと付き合ったことないんですか?」


 ふと、湧いてきた疑問を、俺は脊髄反射で口に出していた。


 里奈さんはムッと頬に空気を溜め込むと。


「うわー。付き合ったばかりの彼女にマウント取るんだ?」

「や、そんなつもりじゃなくて。里奈さんほどの美人だから、恋愛経験は豊富なのかと……」

「ないない。私、けっこう一途だし」

「え?」

「あ、今のナシ。聞かなかったことにして」

「いや、聞いちゃったものは無理です」

「忘れてってば!」


 里奈さんは頬を紅潮させ、唇を斜め上に尖らせる。


 俺から視線を外すと、消え入りそうな声で。


「……今のは言葉のあやっていうか、単純に付き合いたいって思う人が拓人くん以外にいなかっただけ、だし。告白された経験なら、拓人くんより圧倒的に多いし」

「里奈さんがマウント取り始めてどうするんですか……」


 やばい。

 心臓の鼓動が尋常じゃないくらい早まっている。


 耳に届くくらいうるさかった。


「変に誤解されたくないから、これだけ言うね」

「あ、はい」

「私、拓人くんと唯香が別れてほしいなんて思ってなかったから。だから、拓人くんに対する気持ち、ちゃんと隠してたし。二人の恋愛が上手くいくこと願ってた。拓人くんが唯香のこと大好きなの見てればわかるしね」

「…………」

「だからさ、私としては二人がまた付き合ってくれた方がいいかな。……た、ただ、もしも拓人くんの気持ちが私に向いた時は、唯香のことは過去の恋愛って割り切って、私のことだけ見てほしいな……なんて」


 いつになくしおらしい様子で、里奈さんが胸の内を明かす。


 里奈さんの顔を見れそうになかった。


 俺はすっかり上気した頬を隠すように、そっぽを向く。焼けるように身体が熱くなっている。


「そういう一途なの、弱いんでやめてください」

「へぇ、一途な子に弱いんだ?」

「弱くない男いませんよ」

「そっか。なら、もっと私の一途エピソード聞かせてあげよっか?」

「や、やめてください。卑怯ですよマジで」

「卑怯、ね」

「なにかおかしなこと言いました?」

「や、キミって、色々と罪深いなぁと。私の初恋を自覚なしに奪ったりさ」


 ジト目で俺を睨む里奈さん。


 なんのことを言っているのか心当たりがなさすぎて、大量の疑問符を浮かべてしまう。

 ただ何かキッカケがあって、里奈さんは俺に好意を抱き始めたようだ。


「教えてください。悪いことしたなら謝りたいですし」

「ヤだ」

「なんでですか」

「そんなに知りたいなら自分の胸に聞いてみなよ」


 それでわかるなら、わざわざ里奈さんに聞いていない。


 ヤキモキした気持ちを蓄えていると、里奈さんは唐突に足を止めた。手を繋いでいるため、俺の歩みも必然的に止まる。


「どうかしたんですか?」

「ちょ、ちょっとこっち」


 里奈さんがブロック塀の影に隠れるよう、引っ張ってくる。


 声は焦燥を孕んでいる。


 何が何だかわからないまま、身を隠す俺。


「な、なんですか、いきなり……」

「あ、あれ……」


 里奈さんは戸惑いつつも、弱々しく指を差す。

 言われるがまま、俺は顔を上げると──。


「え?」


 思わず、その場で固まってしまった。


 うっすらと青みがかった髪。

 肩にかかるくらいで髪の長さは調整していて、華奢な体型をしている。


 遠目ではあるものの、元カノ──月瀬唯香であるのは間違いなかった。



 ──そして彼女の隣には、男の姿があった。

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― 新着の感想 ―
[一言] あら、あらあら、、
[良い点] 年上カノジョ [一言] 作者さんは年上女性が好きなんですね。 (私も好きなジャンルです) 従妹とかライバル出さずにひたすら甘々展開も読みたいと思います。
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