やられたのでやり返した
「さあ、聖女様。召喚の間に向かいましょう」
「ええ……この映像を見ている皆様、ごきげんよう」
老執事――ダリスが言ったのに、舞は答えた。そうしたら次の瞬間、舞達は初めてこの世界に来た時の魔法陣のある部屋に移動していた。
映像の発信は、ここに来るところで切っている――この先のやり取りを、他国の面々に見せない為だ。今後のことを考えると、美談は美談で終わらせた方が良い。
「ちゃんと、悲劇の聖女に見えたかしら?」
「完璧です」
「うん、かんぺきっ」
「良かった。後は、元の世界に戻るだけですね」
「ええ。この魔法陣は聖女様が戻った後に消しますし、関係資料はすでに廃棄しています。あとは他国を巻き込み、召喚自体を禁忌としますのでご安心下さいませ」
「あんしんしてね!」
「ありがとうございます」
「待て! いや、待ってくれっ」
ダリスとラルヴァの言葉に、舞がお礼を言ったところで、敵――リュカオン達が、駆け込んできた。まあ、来るだろうなと思っていたので、特に驚きはしない。逆に、来ると思っていたからこそ先程、映像を終わらせてもいる。
だがリュカオンを始め、駆け付けた一同がその場に膝をつき、土下座したのは予想外だった。中世ヨーロッパ風の異世界にはいささか不似合いだが、聖女からの知識かもしれない。先程の大暴露放送には、それだけの価値があったのだろう。
「……悪かった。どうか聖女として、我が国に戻ってきてくれ」
「聖女? 私はただの主婦ですよ?」
「ただの主婦に、浄化が出来るかっ……いや、怒鳴ってすまない。そなたは、れっきとした聖女だ」
悔しそうに顔を顰めてるが、舞の聖女としての力を目の当たりにしたので何とか堪えて、下手に出てきた。れっきとした聖女だと解ったので、このまま返さずに飼い殺しにしたいのだと思われる。浄化の力を見せたのは効果的だったようだ。
……だが、思うのは勝手だが決めるのは舞自身だ。
「ダリスさん」
「御意」
舞はラルヴァをダリスに渡し、気合いを入れてにっこりとリュカオン達に笑ってみせた。
そして、その反応を『是』と思ったらしいリュカオン達が安心したように頬を緩めたところで――魔法陣の上に立っていた舞は、高らかに言い放った。
「初対面でごく潰しなんて言ってくる相手や、その馬鹿を止めない無能の言いなりになるなんて、冗談じゃないわよバーカ!」
「「「なっ!?」」」
「アハハハハッ」
そして断られ、絶望した面々を笑い飛ばしたところで来た時同様、舞は光に包まれて――そのまま、この異世界から姿を消した。
次回で完結です。




